第2話 白い空間 1
さてさて、まんまるおっさんの説明を、僕の頭の中に蘇った記憶と照合しつつ聞いて行こう。
「えーと、君はいっち番最初は『ただのゲーム好きの地球人』だった」
うん、なんとなく覚えている。
「でねー、はっきり言ってあーんまり世界の役には立っていないうちに死んじゃったワケよ」
ええぇぇ……
「だけどねーそれってさ、可哀相じゃん? だってさ、魂を創られた時にやりますって言った約束を叶えられずに死んじゃったんだから」
約束……?
「死ぬ前に約束を果たせないなんてことはさ、本当なら『ない』ワケなんだぁ」
死んだ理由は教えてもらえないのか、と聞こうとしたその時に、ぼそり、と不穏な言葉が聞こえた。
……『うっかりしちゃってさー……』
「うっかりって何?」
反射的に振り向いて、強めの語気で問い質す。
後ろにいた『気配』が、びくり、とした……ような気がした。
何もないように見えた空間をじーーーーっと睨むと、ぼんやりと輪郭がうかんできた。
「……ばれちゃったぁぁぁぁ……」
その情けない声に姿を現したのは……もうひとりのちっこいまんまるおっさんだ。
同じ格好、同じ顔……だけどこっちは『三日月』の指し棒を持っている。
えーと、最初のはバスケットボールで、こいつはバレーボールかなってサイズ感だ。
よし、バスケとバリボと呼ぼう。
バスケは、間抜けー間抜けーと呆れたような声でバリボを
そしてふたり並んで、ぽぽん、ぽぽん、と跳ねまわる。
いや、ふたつ?
どっちでもいいや。
「それで、うっかりってなんです?」
スルーなどしてやるものかと、バリボに詰め寄る。
バリボが無表情になって唇が尖り、跳ねなくなって……くるり、と頭が下がる。
お詫び?
「ここに……このイグラーミールに来る魂で、
「こいつ、こいつのミス!」
どうも、バスケと違ってバリボは少々気が弱いみたいだ。
バスケに責められても、申し訳なさそうにしゅーーんとしている。
バリボの話によると、この世界は『イグラーミール』と呼ばれる『一番最初の約束を叶えられなかった魂達が集まる
他にも色々な姿の『御遣い』がいるらしく、イグラーミールに転生した『可哀相な魂達』に満足する人生をやり直させて『正しい輪廻』に戻すということをしているらしい。
「じゃあ、どうして僕はイグラーミールに何度も生まれ変わったの?」
「そそそそそそれはっ、私じゃないよっ!」
必死に否定するバリボと、跳ねなくなって斜めに転がりだしたバスケ。
そーか、そっちの『うっかり』はバスケが原因なんだな?
バスケが解説を再開した。
「ホントは……最初から、地球の記憶を持ったまま生まれ変わるはずだったんだけどぉ……上手く行かなかったから、二度目でって思ったのにぃ……そっちも駄目でさぁ」
「蓋がねっ、なかなか開かなくてねっ?」
「あんまりやる気のない人に多いんだけどねっ?」
「だからいっそ、このまま開かないようにしちゃおうかなって」
「そしたら、ずっと『モブ』だから、他を直してからそのうち戻せばいいかなって」
「「君、全然やる気なかったし!」」
バスケとバリボはその後も言い訳をしながら、時折僕へのディスりを交えつつ、現状説明を始めた。
ムカつく部分を省いて纏めると以下の通りだ。
イグラーミールは『狭間』に作られた『救済シェルター世界』。
ここには初めからここで生まれた住人も普通に暮らしているけど、全員他の世界には生まれ変わらない『NPC』で『モブ』。
イグラーミールに来られるのは、
……罪ってのが、人間社会における法律違反とか倫理から外れたことという訳ではなく、人を殺していようが詐欺を働いていようが兵器を造っていようが、創主様ってのがジャッジして『無罪』ならOKというものらしい。
人間とは、価値観も常識も倫理観も違うということのようだ。
だが条件が『ゲーム世界への転生を望んだ者』らしいが……僕にはちょっとその自覚がない。
もしかしたら、それが希薄だったせいで『やる気がない』判定だったのか?
うーむ、納得いかんぞ。
そういう生まれ変わりの魂は『一番初めの人生の記憶』を持って生まれてきて、この世界で『正しい輪廻』に戻るためのリハビリというか、天寿を全うするという『やり直し』をする。
この世界で一回目の人生で為しえなかったことを思い出しその使命を終わらせたり、叶えられずとも心が満足すると創主様がOKを出して、新しい使命と共に本来の輪廻に戻れるのだという。
だから、約束を叶えるために転生してくるのに、記憶がなくなっちゃうという『ミス』は『高次で起きてしまったエラー』によるもの。
高次というのは……きっと、バスケやバリボ、そして創主様も含まれるこの『白い空間』にいる存在のことのようだ。
そして『イレギュラー』というこいつ等のミスとかうっかりって奴で、一回目の記憶が消えちゃうと約束も思い出せなくなって輪廻には戻れないらしい。
どんなうっかりかは教えてもらえなかったが、僕みたいに何度も短期間で『同じ世界の中』で生まれ変わっちゃうのだという。
しかも、大概は二度目辺りでここに来てリカバリーができるはずなのに、それもできずに何回もイグラーミールに生まれ変わっちゃうのはほぼウイルスと言っていいようなバグらしい。
なので……そういう『困ったバグ』は『蓋』を強くして記憶も何も戻らないような『モブ』にして隠蔽するはずだったのに、生まれ変わる記憶の封鎖にも失敗してしまった……ということのようだ。
……つまり、こいつ等は最初に『うっかり』しちゃっただけでなく、僕の使命とやらをなかったことにして僕自身をこの世界のモブにしてしまうことで、自分達の『うっかり』を誤魔化そうとした……その隠蔽工作のために、僕の魂はイグラーミールの中で弄ばれ続けたってこと……かな?
え、それって、僕、怒っていいのでは?
怒りに任せて、こいつ等を蹴っ飛ばしたりしていいのでは?
しまった、バリボとバスケじゃなくてサッカーって名前にしておいたら心置きなく蹴れたのに。
いや、どっちのボールでも『うっかり』蹴っちゃうってこと、あるよねぇぇー?
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近況ノート/バスケ&バリボ wishcard ver.
https://kakuyomu.jp/users/nekonana51/news/16818093079158379867
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