星はキャリアチェンジで大団円を目指す

磯風

序幕

第1話 記憶

 いきなりではあるが、僕は何度か人生をやり直している。

 と言っても、その度に名前も環境も何もかもが違うので、正確にはやり直しではなくて生まれ変わりという奴だ。


 初めての人生で、僕はちょっと裕福な家庭に生まれて父親に言われるまま勉強を頑張ったら、成人になる十八歳の時に『創主様の御遣い』から『神官』の職をいただいた。

 僕には良いのか悪いのか解らなかったけど周りの反応は区々まちまちで、母は喜び父はがっかりしていた。

 いや、がっかりというか、嘆いていた。

 家業を継げなくなったからかもしれないと、少しばかり申し訳なさを感じていた。


「あなたは勇者と旅に出て、悪しきものを成敗するのです」


 なーんて神官に仰々しく言われて、勇者って人と魔法使いって人と武闘家って人と、いきなり町を追い出されて意味も解らず旅が始まった。

 そんな見ず知らずの寄せ集めで、協力するとか信頼するなんてできるわけがない。

 そもそも悪しきものってなんだよってところから疑問なのに、なんだっていきなりそんなことを言われなきゃいけないんだろうと、全員全くやる気がなかった。


 町の外には魔物と呼ばれる人外の生き物が沢山いて、そんな僕等だから……あっという間に全滅してしまった。

 一度目の人生は、十八歳と七日で敢えなく終わりを迎えた。



 二度目。

 生まれてすぐに、前回の人生の記憶があることを理解したが、残念ながら全く違う環境だったので何ひとつ役に立たなかった。

 今度は、貴族と呼ばれる特権階級の家で見栄っ張りだが金はない、誇り高いのか埃っぽいのか解らない家で育った。


 ちょっと武術が得意だったせいで『騎士』などという職が与えられてしまい、今度は隣国との戦争に行かされる羽目になった。

 が、そこに魔物が現れてものすごーく強い勇者達一行がそれらを倒してくれたのはいいんだけど、その後始末を全部僕等兵団がやる羽目になり……結局、過労で死んでしまった。

 二十歳と二ヶ月だった。



 ……三度目が始まって、今度は農民の家だった。

 兄弟が多くて、貧しいのかと思っていたのだが全然そんなことはなく、むしろ色々な作物が常に沢山ある豊かな食生活で平和で楽しい日々だった。

 当然、十八歳で『創主様の御遣い』から言われた職は『農民』だったが、僕は嬉しかった。


 結婚して、子供もできて、幸せに暮らしていた時に……またしても現れた勇者一行。

 二度目の人生の時とは全然違う人達で、さほど強くもなく町中をウロウロとしては近くの洞穴で大して強くもない魔物を倒していた。


 だけど、この勇者達、村人達の家にずかずかと入り込んでは壺の中を漁ったり、地下室に侵入したりとやりたい放題で迷惑この上なかった。

 いい加減腹に据えかねて文句を言おうかと村の人達と話し合っていた時に、魔物が大挙して村に襲ってきた。


「これこれっ! このイベント待っていたんだよ!」


 勇者のこの言葉に……僕は、記憶の扉の全てがいっぺん開いた。

 そうだ。

 知っている。

 僕も……『オーヴァシシィ村のスタンピード』というものを、知っているのだ。


「ここって……ゲームの……?」


 それが、三度目の人生の最後の言葉になった。

 三十六年と十ヶ月……一番長生きした……『四回目』の人生だ。


 そう、僕には『本当の一回目』が存在しているのだ。


      ◇◆◇


 目を開くと光に包まれ、真っ白な世界が広がっていた。

 足はちゃんと地面に付いている感覚があるのに、床は見えない。

 裸足だったのだが、ちょっとだけざらっとした感じが屋外プールサイドのコンクリートみたいだ、と感じていた。

 名前とか、細かいことまでは覚えていないが『本当の一番最初の僕の人生』で知っていたものだ。


「あららー……蓋が開いちゃったぁ」


 声の方に振り返ると、丸っこいフォルムのちっちゃいおっさんがいた。

 ……うん、お兄さんでも男の子でもない。

 だけど……おっさんとも言い難いが……まぁいい。

 おっさんということにしておこう。


 そのおっさんは、まん丸のゴムボールみたいな身体に短い手足がちょこんと付いていて、頭も小さめだが似合わないサウナハットのような帽子を被っている。

 帽子の天辺にリングが付いているから、本当にサウナハットかもしれない。

 先に『星』が付いている指し棒のようなものを振り回して、ちょっと鼻歌など口ずさんでいる。


 目がゴーグルみたいに見えるんだが、眼鏡が耳にかからないのだろうか?

 いや、耳、どこ?

 化け物なのか妖精とか物の怪なのかと考えていたら、そのおっさんは自分を『創主様の御遣い』だと言いだした。


「僕が、今まで聞いた御遣い様の声じゃないみたいだけど?」

「声色を替えるのは、得意なんだよぉ」


 子供みたいな声や女性っぽい声を作って、人によって変えているんだと自慢してきた。

 くふっとか言いつつ身体を捻って『可愛いポーズ』をしているみたいだが、丸すぎるせいで捻っているのか回っているのか解らないし若干、苛っとする。

 このカラフルなボール、蹴っ飛ばしたら気持ちいいだろうなーなんて思っていたら、跳ねているんだか歩いているんだか判らない動きで近寄ってきた。


「記憶の蓋が全部開いちゃったから、解っているとは思うんだけど……ここで意識がある人には、説明しないといけない決まりだから説明するね」


 説明が始まり、僕は『五回目』の人生のガイダンスを聞くことになったようだ。



*******


 初めましての方もいつも他作品をご覧くださっていた方も、第1話をお読みくださってありがとうございます。

 更新は毎週(火)(木)(土)の12:00の予定です。

 どうかこの先もお楽しみいただけますように。


近況ノート/御遣い様シルエット?

https://kakuyomu.jp/users/nekonana51/news/16818093079038830906

        磯風 拝

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