第9話 勉強
朝食を終えたので、自室に戻って荷解きをしに2階へ上がろうとしているとお父さんに声を掛けられた。
「優香、陽子さんと少し出かけてくるから留守番していてね。」
「分かった。」
「何かあれば連絡してきてね。」
「うん。」
私は返事をしてそのまま2階の自室へと移動した。しばらくすると陽子さんとお父さんの「行ってきます。」という声が聞こえて玄関扉の閉まる音がした。
2時間ほどが経過した。部屋の隅に積まれていた段ボール箱の中身はほとんど収納できた。
「う~ん!」
伸びをして固まった体をほぐした。
流石に疲れたので一度下へ降りて水分補給をしようかな……と思い1階へと降りて行った。するとそこには足し算と引き算の問題が書かれたプリントを前に両手を動かしている勇太くんと必死にノートにひらがなとカタカナで色々なものの名前を書いている俊太くんがいた。そしてそんな2人と向かい合うように座って赤鉛筆を片手に2人が間違えているところを修正している凌空くんがいた。
凌空くんは降りてきた私に気が付くと手元にあったホワイトボードに文字を書いてこちらに見せてきた。
【暇なら手伝って】
私も自分の部屋の片付けはほとんど終わっていたこともあり、私は無言でうなずくと凌空くんの横に座った。
「何を手伝ったらいいの?」
と聞くと
【俊太が言っている言葉と書いているものがあっているか確認してほしい。
『あ』と言いながら『の』を書いたり、『ぬ』と言いながら『め』を書いたりする。】
と書いて見せられた。
「なるほど…。」
なんとなく似ているのでわかる気がするけど、これはなかなか難しいかも。だって、現在進行形で全く違う文字を書いているのだもの。
【俊太を止めて修正して
集中しすぎて気が付いてもらえなくなったから僕では修正ができない】
確かに凌空くんはさっきからスマホを使って機械音声で『俊太、違うよ。』と何度も言っているのだけれども俊太くんは全く気が付いていない。それどころか横で勉強している勇太君が「にいにい、うるさい!」と怒り出した。
仕方がないので私が俊太くんの横に行き、肩をトントンと叩きながら、違うよと言ってみたが、無視された。
それどころか、さっきまではまだ存在している文字だったがついに『の』と『め』と『ぬ』が混じったよく分からない文字を「いぬ」と言いながら書き始めた。ちなみに『い』はまだちゃんと『い』だ。時々『イ』が混じっているけど『い』に変わりはないのでそこはいいことにしておこう。
しばらくトントンと肩を叩いていると俊太くんが気が付いてくれた。そして、ノートを私に広げて見せながら満面の笑みで
「できた!」
と言った。その顔が非常に満足そうでとてもノートの1/3ほど間違えた文字を書いているとは言えない。どうしよう。そんなこと言ったら絶対すねるよね。だけど、言わないといけないし……などと考え事をしていると横で勇太君が「できた。」と両手を挙げて言った。
すると凌空くんは素早くプリントを回収し、赤鉛筆で○と×を書いていった。凌空くんが解くのにかかった半分ほどの時間で確認を終えたプリントを凌空くんは勇太くんに返した。
「ぶう!」
勇太くんは返ってきたプリントを見てぶう垂れながらも再び解き始めた。
真面目だなぁ~。と勇太くんの行動を見て感心していると俊太くんがノ-トを片付け始めた。
「あ、俊太くん、ちょっと待って!」
俊太くんはにこにことした笑顔でこちらを見てきた。その姿からは褒めてくれるの?という雰囲気を感じとることができたが、私は俊太くんのためだと自分に言い聞かせながら間違えを正した。
すべて終わった後には若干拗ねている俊太くんが居て、少し悪いことをした気になった。
その後、帰宅してきた陽子さんに褒められて嬉しそうにしていたのは印象的だった。
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