第5話 引っ越し完了

玄関に入ると左右に扉があり、どちらに入ればいいのだろう?と考えていると左側の扉が開いて凌空くんが顔を出した。

「そっちに行けばいいんだね。」

お父さんが凌空くんに聞くと、凌空くんは頷いた。

私はお父さんに引っ付くように中に入っていった。

凌空くんは私たちが入ってきたのを確認すると机の上に置いてあったホワイトボードに文字を書き始めた。

「えっと、陽子さんはどこにいるのかな?」

お父さんが質問すると、凌空にくんはホワイトボードに書きかけた文字を消して、再び書き始めた。

【僕以外は買い物に行った。

思っていたよりも混んでいてもう少しかかるみたい。】

凌空くんはホワイトボードを私たちに見せた。

「そっか。」

お父さんは小さな声で答えた。

お父さんが答えたことを確認すると凌空くんは再び文字を書き始めた。

【先に部屋に案内する。付いて来て。】

凌空くんは私たちに見せると移動し始めた。

私とお父さんは顔を見合わせてから、凌空くんについていった。

凌空くんは2階に上がると扉に掛かっていたホワイトボードを取って文字を書き始めた。

【ここが優花さんの部屋】

「ありがとう。」

私がお礼を言うと凌空くんは頷いて、すぐ左手の扉を開けて、その奥にある部屋を指さしながら

【こっちが次郎さんたちの部屋】

と書いたホワイトボードを見せてくれた。

「ありがとう。」

お父さんが凌空くんにお礼を言うと再び凌空くんは頷いて階段を下りて行った。


「ねえ、なんで筆談だったんだろう?」

私は気になっていたことをお父さんに聞いた。

「ああ、それは凌空くんは声が出ないからだよ。」

「えっ!」

私が驚くとお父さんは頭を掻きながら

「あれ、言っていなかったっけ。」

と言った。

「うん。聞いていないよ。」

「おそらく、あちらこちらに掛かっているホワイトボードも凌空くんが困らないためのものだと思うよ。」

お父さんに言われてふと思い出してみると、家の至る所にホワイトボードがあった。なんでだろうかと疑問に思っていたがまさかそんな理由があったとは思いもしなかった。

私が惚けているとお父さんが声をかけてきた。

「ほら、行くよ。とりあえず、車から荷物を降ろすよ。」

「はーい。」

私は一旦考えるのを中断してお父さんについて階段を下りた。

その後、凌空くんも荷物を運ぶのを手伝ってくれたおかげであっという間に引っ越しが完了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る