漁師とコンサルタント
海岸沿いの小さな田舎の村に、都会からコンサルタントが訪れた。
コンサルタントは散歩中、漁師に話しかけた。
漁師はいきのいい魚を取ってきたばかりのようだった。
漁師の船を見ながらコンサルタントは聞いた。
「いい魚ですね。漁にはどのくらいの時間かかるのですか?」
「そうだな、数時間ってとこだな。」
「まだ日は高いのに、こんなに早く帰ってどうするのですか?」
「妻とのんびりするよ。一緒に昼寝を楽しみ、午後にはギターを弾きながら子供と戯れ、夕暮れには酒をたしなみながら妻と会話を楽しみ、それで、寝ちまうよ。」
それを聞いてコンサルタントはさらに質問をした。
「なぜもう少し頑張って漁をしないのですか?」
漁師は聞き返した。
「どうして?」と。
「もっと漁をすれば、もっと魚が釣れる。それを売れば、もっと多くの金が手に入り、大きな船が買える。そしたら人を雇って、もっと大きな利益がでる。」
「それで?」と漁師は聴く。
コンサルタントはそこからさらに大きな利益を生む方法を滔々と述べてくれた。
男は聞きながら男のことを聞いた。
どこから来たのか、何しに来たのか、どの程度の資産持ちか。
「その起こした会社を売却すれば巨万の富が手にできますよ! わたしのようにほら、本当ですよ。みてください。こんな大金をあなたも、」
財布の中身をあけすけに見せびらかしたその時、
ガンッ!
コンサルタントの声がひと際大きくなった時、漁師だった男が殴打した。
虚を突かれ驚くコンサルタントに男は、それが静かになるまで荒々しく追い打ちをかけた。
それから男は丁寧に身ぐるみを剥ぎ、金目の物を拾い上げる。
そして、コンサルタントの身分証明書をビリビリと破いてから、その体を海に投げ捨てた。
観光地でもない田舎も田舎。そこで見ず知らずの男が事故にあったとしても、だれも気にかけない。
誰も気づかない。
「都会の人間はまどろっこしいんだな」
手にした札束は、男が漁をして得る対価の1年分はある。
それがあれば、しばらくは食事に豪勢なワインを足せるだろう。
男には野心はなかった。
けれども欲がないわけではない。
日常に満足していた。
けれども、不満がないわけではなかった。
人生を賭けて臨むような大勝負をする気はない。
けれども欲しいものだってある。
若干、高慢そうな男の喋りが気に障っていたのかもしれない。
しかし、殺すほどのいら立ちには程遠かった。
けれども、不意に魔が差して、臨時収入が欲しくなった。
男にとってはそれだけのことだった。
「わしはこのぐらいで十分なんだよ。コンサルタントさん」
漁師はため息をつき、一言を漏らした。
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