人間にしかできない仕事

「あなたの会社が同業他社と比較して優れている部分はどこでしょうか?」

「それはきっと、人間の手を使っているところでしょう」


 代表の男は取材に来た記者にそう告げた。


「人の・・・ですか?」

「ええ。不思議ですか?」


「はい。同業他社は完全に自動化し、すべての工程を機械が行っています。それにより、ハイクオリティな加工を実現しているというのに・・・」

「一昔前は職人技術と言われて機械化が難しい製造品といわれていましたが、いまでは生産用の機械も進化し、人にとって代わっても問題ないクオリティになっています」


 男が話すように、昔は単純なモノは機械が、複雑だったり高度なモノを人間——熟練の職人が行っていた。だが時代は変わった。

 熟練の技もデータ化された。

 ナノレベルで工程を指定できる技術は、あっさりと職人の技術を模倣し、AIはさらにそれを効率化し、昇華させしてみせた。


「もちろん。ウチも機械は使っています。けれどもすべてではなく、人に任せるべきところは任せているんですよ。いうなれば、人間にはをしてもらっているんです」


「人にしかできない仕事・・・ですか? あるんですか? いま現在、機械にもできない、そんな仕事が」


 記者は半信半疑の様子だった。

「いや、でも信じられません。本当に今の時代に人が機械よりもうまくできる仕事があるんですか?」


 そんな記者に男は笑い返す。


「いや、ないですね」

「え?」


「何をやらせても機械のほうが上ですよ。できれば人なんて排除できるだけしたほうが効率はいい。でも―――」


 代表の男は人間が働く場を指さながら、 記者の思い違いをを正す。


「人間は安くで働いてくれますから」



 ————それが人間にしかできない仕事だ。

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