陽キャ女子クローバーの怪談披露「陽キャにさせられた少女」

「あっ……ということで、視聴者の皆さん……。ホテルの一室でくつろがせてもらうこと……もとい、『怪談をわからせるまで出られない部屋』に閉じ込められること一晩と少し……。ふふっ、やっとの思いでアミカさんのOKを頂いた、クローバーさんの本格怪談……あ、改めて披露して頂きましょう……」

「はぁーいっ。じゃあ皆さんっ、心してお聞きくださいねっ。題して、『陽キャにさせられた少女』というお話ですっ」

「あっふふっ……相変わらず怪談らしからぬ明るさ……」

「ふふふ、そうでしょっ? でも、実は陽キャの明るさの裏にも闇があるかもしれない、ってお話なのよ……」



 ――今から五年くらい前、ティックトックが中高生の間で流行り始めた頃のお話なんだけどね?


 とある高校の、とあるクラスに……引っ込み思案であんまり周りの子達と馴染めない女の子がいたの……。


 その子は中学の三年間、一人もお友達できなくて……ちょっとチェリーさん、「私と同じ」とか言わないのっ。チェリーさんには私達がいるでしょ?

 ……そう、その子もね、高校では頑張ってお友達作らなきゃ、って思って……。

 陽キャのグループに入れてもらおうと思って、勇気を振り絞って自分から絡みに行ったのよ……。

 えっ、「絡む」って言わない? 話しかけるとか、関わりに行くとかってことよ。ガラの悪い意味じゃなくて。


 それで、その子……仮にAちゃんとしましょうか、Aちゃんはクラスの陽キャ達の仲間に入れてもらって……。

 慣れないグループラインやインスタにも頑張って投稿して、皆と打ち解けようとしたんだけど……。


 周りに悪気があったかどうかは分からないんだけどね……?

 何人かの子達は、「Aちゃん暗いよ、もっと明るくしなよ」って、しきりにAちゃんに言うようになって……。

 他の子達も、「そうそう、明るく笑ってた方がいいよ」って、皆で言い続けるものだから……。


 もともと引っ込み思案なAちゃんは、チェリーさんみたいに自分のキャラを貫くこともできなくて……えっ、「これでも明るくしようとしてる」? ゴメンね? でもチェリーさんはそのままでいいのよ?

 ……Aちゃんは、皆の言う通り明るくしなきゃ、って、思い詰めた末に、皆の前で無理して笑顔を作るようになって……。

 あぁっ、チェリーさんはいいんだって、無理にニコニコしなくて。ふとした瞬間に笑顔を見せてあげるくらいの方が彼氏さんも喜ぶわよっ。


 ……そう、それで、ちょうどその頃、ティックトックで動画上げてバズるとかが、高校生の間でブームになり始めてて……。

 グループの誰かが悪ノリして言い出したのよね……。Aちゃんに色々と派手なことをさせたらウケるんじゃないか、って……。


 さっきは、悪気があったかは分からないって言ったけど……。

 きっと、少なくとも一部の子達は……皆に馴染もうとするAちゃんを笑い者にしちゃおうって考えてたのよね……。

 それで、色々と危ない場所で動画を撮らせたり……あっ、だからチェリーさんの話とは違うってばっ。チェリーさんはそのキャラをアミカさんに評価されて、望んで動画に出てくれてるんでしょ!?

 違うのよ……Aちゃんがやらされたのは、もっとずっとヘンな場所で踊らされたりとかだもの……。


 それでも、Aちゃんは皆から仲間外れにされたくなくて……無理に笑顔を作って、皆にノセられるがままに、ティックトックの動画も撮り続けてたんだけど……。

 ある日、グループの子が、こんなことを言い出したのよ……。


「踏切の中に入って、線路上で踊るチャレンジしたらバズるんじゃない?」って……。


 もうオチは分かっちゃうわよね……。

 Aちゃんはそんなことしたくなかったけど、空気読まないって言われるのが……皆からハブられちゃうのが怖くて……。

 仲間がスマホを向けてる前で、線路上でダンス動画を撮ろうとして……。


 電車に気付くのが間に合わなくて……。

 いいえ、もしかしたら、グループの子達は……事故の瞬間の動画がバズることまで考えて……なんて、さすがに怖くて言えないわ……。


 ……ほら、チェリーさんも聞いたことない?

 実際、その動画はティックトックにアップされて、一瞬だけネットで炎上して、すぐ削除されちゃったらしいんだけど……。

 消される前に動画を見た人の書き込みによるとね……。

 Aちゃんの体はバラバラに飛び散ったのに……頭部だけはキレイなままで、ちょうどスマホのカメラの前にドンッて飛んできて……。


 その死に顔には……最後まで、ウソみたいな笑顔が貼り付いたままだったらしいわ……。


 ……それでね?


 グループの子達は、警察や学校の先生達にたっぷり絞られた後、日常の暮らしに戻ったらしいけど……。

 寝ても覚めても、最後の瞬間のAちゃんの笑顔が頭から離れなくて……。

 それ以来、その子達も、自然に笑うことなんかとても出来なくなって……。


 特に動画を撮ってた子は……事故がトラウマになって、学校にも来なくなって……。

 ご飯ものどを通らなくて、毎晩悪夢にうなされ続けた挙句……とうとう衰弱死しちゃったんだって……。


 その子のお葬式で、皆が見た死に顔には……。

 Aちゃんと同じ笑顔が貼り付いてたらしいわ……。



===



「……へぇ、例の動画、こんな感じになったんですか。案外悪くないですね」

「でしょ? 三葉みつばもようやく少しは怪談ってものを理解してくれたみたいだ。ちえりのおかげだよ」

「なんか、ちえりも嬉しそうにしてましたよ」

「それは何よりだね。ところでイツキ?」

「はい?」

「三葉のそばに霊の影が見えるとか言ってたの……さすがに冗談だよね?」

「……まあ、ウチの幽霊上がりと仲良くしてるって意味では、霊の影があるっちゃありますけど」

「そういうんじゃなくてさ……」

「マジで気にしてるんですか? まあ基本的には大丈夫だと思いますけど……ああ、でも、Aちゃんの件はちょっと心配かもしれませんねえ」

「な、何が……? Aちゃんってのも三葉の作り話でしょ……」

「いや……案外、Aちゃんが四月一日わたぬきさんの意識に働きかけて、自分の話を喋らせたのかもしれませんよ」

「だから、毎度毎度そういうのやめようよ……」

「今回は自分で振ってきたんじゃないですか……。まあ、今後は気をつけて見てあげることですね」

「何を……」

「四月一日さんの笑顔が本当に本人のものなのか……それともAちゃんのものなのか」

「ひっ……。ほ、ほんとにいい性格してるよねキミ……」

「心霊を金儲けの道具にするヤツにはそのくらいカマしてやれ、って師匠の教えなんで……」

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