「わからせる」まで出られない部屋 part2

「あっ……ということで、引き続き、チェリー&クローバーのコンビでお送りしています……怪談を『わからせる』まで出られない部屋です……」

「はぁいっ。私達は入浴タイムを済ませたところでーす。ホテルのバスローブってなんだかワクワクしますよねっ」

「あっあの、クローバーさん……そういうノリの動画じゃないので……」

「どうしてっ、最初くらい明るくご挨拶しなきゃっ。さあ、私ことクローバーは、週末の間にこのお部屋から出られるんでしょうかっ」

「あっ……終わらなかったら私も学校行けないですからね……。あっふふ、これが本当の幽霊部員って……」

「任せてチェリーさんっ、必ず終わらせてみせるからっ。ということで、さっそく創作怪談いってみましょう!」

「えっと……か、怪談を話すならそろそろテンションを暗くして頂いて……」

「そうね……じゃあまず、お部屋の照明を暗くしちゃいましょうっ」

「あっはい……。真っ暗闇だと動画撮れないので……このくらいですかね……」

「ありがとっ。さぁーて……これは私が、中学の時に同じクラスだった子から聞いた話なんだけど……」

「あっ……情報源が近くなりましたね……」

「でしょっ? それでねっ、その子はある時、SNSで知り合った男の人といい感じの仲になって……DMでも何度もお話して、今度会おうよって約束までしたんだけど……」

「うっ……陰キャには遠い世界の話……」

「チェリーさんも今はリア充じゃないっ。それで……その子は、相手の人とお付き合いできると思って、約束の日を楽しみにしてたんだけど……」

「……あっ、なんかオチが見えてきましたね……」

「結局、待ち合わせの場所にその人は現れなくて、DMも返ってこなくなっちゃって……。あんまりヒドイからDMで文句言ったら、数日後に、その人の親を名乗る人からお返事があって……『息子は亡くなりました』って……」

「……」

「ねっ、ゾクってしない? 普通に振られただけだと思ったら、相手の人、亡くなっちゃってたなんてっ」

「あっ、えぇと……確かに後味は悪いですけど、それはどこに怖い要素があるんですか……?」

「えぇっ、ダメ……?」

「そ、そういうお話をするなら……『息子は一ヶ月前に亡くなりました』ってやって……DMで会う約束をした頃には既に死んでいたはず、ってことにでもしないと……」

「えっ……何それ、怖いっ……」

「あっ、だから怪談なんですけどね……。あっあと、たぶん……相手の男の人は、普通にその子と会うのがイヤになって逃げただけかと……」

「えぇっ!? そんなのヒドイじゃないっ!」

「あっふふ……本当に怖いのは幽霊なんかより生きた人間ですからね……」

「や、闇が深そうな発言だわ……。そうだっ、私思いついちゃったっ。そうやってウソついて関係を切ろうとした男の人が、なんだかんだあって本当に死んじゃったってお話はどうかしら!」

「あっはい……。いいと思いますけど、その『なんだかんだ』の部分を作り込まないと……」

「そうねー……あっ、呪いよ呪いっ。振られた女の子の恨みで、相手の男の人は呪い殺されちゃったのよ」

「……あっ、いいんですか……? ……クローバーさんの中学のお友達、呪詛の使い手になっちゃいましたけど……」

「そうだったわ、あの子から聞いた話にしたんだった……。うーん、難しいわねっ」

「あっ……いっそ、その子の方が実はもうこの世に居なかったってことでも……」

「私のお友達を勝手に殺さないでっ」

「あっすみません……」

「ねーアミカさーん、見てますー? さっきのお話じゃまだダメですかー?」

『ダメに決まってるでしょ。寝るまでもうひと頑張りしなよ』

「はぁーい……」


===


「……やれやれ、道は遠いね」

「分かっちゃいましたけど、全然進展しませんね……。俺もう帰っていいですか?」

「おや、イツキ、ボクと一晩明かすのはイヤなの?」

「イヤっていうかダメでしょ。新月にいづきさんも一応は女子なんですから」

「お堅いねえ。心配しなくても、イツキを取って食うほど悪い趣味してないよ」

「それはまあ、そうでしょうけど……。じゃあ、明日また気が向いたら顔出しますんで」

「あっ、ちょっと待って。なんか三葉が変わったこと言い出したよ」

「変わったこと?」


===


「ねえっ、チェリーさん、こんなのどう? これは私自身が体験した話なんだけど……」

「あっ、とうとう情報源が本人に……」

「忘れもしない、あれは中学の修学旅行のとき……。クラスで仲良くしてた子達と一緒の班になって、夜は恋バナとかしようねーって盛り上がってたんだけど……」

「うぅっ……わ、私みたいなボッチの心を的確にえぐってくる話……」

「えっ、修学旅行にイヤな思い出でもあるの?」

「あっ……私みたいな陰キャは、残り物の班にしか入れてもらえないので……ふふっ、普段接点もない同士がそうやって寄せ集められたところで、話なんか弾むはずもなく……旅館のお部屋ではずっと無言で、空気が重くて……」

「ごめんねっ、聞いた私が悪かったわっ。ねっチェリーさん、今はたくさんお友達いるんだからっ、元気出してっ!?」

「あっ、すっすみません……。わっ私の元気なんかより、怪談の続きを……」

「いいの……? えっと、そうそう……皆で恋バナしようよーって流れだったんだけど……問題はね、私、恋バナなんて持ってなかったのよ……」

「えっ……ああ、クローバーさん、お付き合いしたことなかったんでしたっけ……」

「お付き合いもだし、誰かを好きになるって感覚も正直よくわかってなくて……。男子から告白されることはあったんだけど、それもピンとこなくて……」

「あっ……そ、そんなに顔面恵まれてるのに勿体ないですね……」

「チェリーさんの方こそ美少女じゃないっ。……だから、修学旅行の夜が来るのが、正直怖くって」

「……こ、恋バナが無いなら無いって言えばいいんじゃ……」

「そんなのダメよっ、周りに合わせるのって大事だもの。だから私、作り話でも『好きな人』を作らなきゃって思って……。でも、学校の男子の名前を出したら面倒なことになっちゃうから、他校の子ってことにして色々考えて……」

「が、頑張りましたね……」

「結局、なんとかその場は乗り切れたんだけど……。皆が寝静まった頃、同じ班にいた子が……コッソリ私にだけ打ち明けてきたの……」

「……あっ、何を……?」

「『あなたと私の好きな人……同じかもしれない』って……」

「……?」

「お、おかしいわよね……? 私の好きな人って、作り話だったのに……。その子も、名前は出さなかったけど、同じ他校の同じような男子の話をしてきて……『あなたと恋のライバルになりたくないよ』なんて、マジメな顔して言うの……」

「……そ、それで……?」

「それで私、ちょっと怖くなっちゃって……。修学旅行が終わった後、他校の子のツテで、ほんとにそういう男子がいないか調べてもらったの……。そしたら、やっぱりそんな人いないって……」

「そ、そうですよね……。えっと、どこから怪談になるんですか……?」

「もう、ここからちゃんと怖くなるんだからっ。それでね、他の子にもこの話をしてみたら……」

「あっ……同じ男子を好きかもって打ち明けてきた子こそが、この世にいなかった……?」

「そう! なんでわかっちゃうの!? あのねっ、私が同じ班の子だと思ってたのは、その旅館の部屋で昔自殺しちゃった女の子の亡霊でねっ」

「……」

「周りからいじめられてたその子は、好きだった男子と話すことも邪魔されて……。修学旅行の夜、皆が寝てる部屋で首を吊っちゃったのよっ」

「……あっ、へえー……」

「今思えば、その子の残留思念みたいなものが、その子が好きだった男子の姿を私の脳裏に思い浮かべさせたのかもしれないわ……」

「……」

「どうっ、チェリーさんっ。今度こそいい感じだったでしょ!?」

「あっ、そうですね……。クローバーさんじゃない人が、私じゃない相手に話すならよかったかもしれないですね……」

「どういうこと?」

「あっ……だって、最近出た話の要素を組み合わせただけで……わっ私としては、驚くに驚けないといいますか……。いじめで恋路をジャマされる話は、焼却炉の時にやったばかりですし……」

「えぇー、チェリーさん厳しいー」

「あっあと、なんというか……クローバーさん自身が幽霊と行き合っていたって設定自体、今までそんな話聞いたこともなかったのに、唐突すぎてすんなり入ってこないというか……」

「そ、それは仕方ないじゃない? その場で作ったお話を喋ってるんだからっ」

「あっ……で、でも、私みたいな、普段から幽霊キャラで売ってる陰キャがやるのと……陽キャ女神のクローバーさんがやるのとじゃ、やっぱり違いますよ……」

「女神……? ねえねえ、でも、視聴者の皆さんは普段の私のキャラなんて知らないんだし、きっと大丈夫よっ」

「あっ、その視聴者の皆さんにお見せするのがこの会話なんですけどね……」

「ねえー、アミカさぁーん、そろそろ合格じゃダメですかー?」

『うーむ……あと一歩かな。まあ、今夜は収録終わらせて眠りなよ』

「ふぇん、まだダメなんですね……」

『でもクローバー、気を付けて。霊の話は霊を呼んじゃうからね……今夜あたり、さっき話に出た“旅館で自殺した子の幽霊”が、キミに会いに来るかも』

「えっ……!? こ、怖いこと言わないでくださいよっ……!」

「あっ……クローバーちゃん……わっ私のこと思い出してくれてありがとう……」

「ひぇっ!? ちょ、ちょっとっ……チェリーさんっ、びっくりさせないでっ!」

「あっすみません……。じゃ、じゃあ、今夜の収録はここまでにしましょうか……」

「やっぱり明日までかかっちゃうのね……。ごめんねチェリーさん、長く付き合わせて」

「あっいえ……」

「じゃあアミカさん、おやすみなさい」

『うん、おやすみ。明日も撮れ高期待してるよ』


===


「……ふう、結局今夜中には無理だったか。悪いねイツキ、引き止めて」

「いやまあ、なんだかんだで見てると面白いからいいですけど……。最後の話はちょっとそれっぽくなってましたね」

「あとは三葉自身のキャラとのリアリティ調整が課題かな……」

「……ああ、でも、そうか、アレはそういうことか……」

「? どうしたの?」

「いえ、前から四月一日わたぬきさんのそばにチラチラと女の子の影が見えるとは思ってたんですよ。“旅館で自殺した子”とやらを自分で引き寄せちゃってたんなら、まあ納得かなと」

「えっ……いやいやいや、アレは三葉が今さっき考えた作り話でしょ?」

「さあ、どうなんでしょうね……。新月さんも気をつけてくださいね、自分で言ってた通り、あんまり霊の話ばっかりしてると引き寄せちゃいますよ」

「いや……だ、だから、毎回ノルマみたいにボクを怖がらせないでいいからさ……」

「じゃあ、今度こそ俺は帰りますんで……何も来ないといいですね」

「き、キミもなかなかいい性格してるよね、ほんと……」

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