「わからせる」まで出られない部屋 part1
「あっ……ふふっ、閉じ込められちゃいましたよ、クローバーさん……?」
「なに? 何なのこの展開? なんで
「あっ、もうカメラ回ってるから気をつけてくださいね……。えっと、今回はアミカさんの命令で、怪談を『わからせる』まで出られない部屋、だそうです……」
「えっ、ごめん、それだけじゃちょっと意味がわからないわ……」
「あっ……えっと、つまり……。わっ私みたいな幽霊上がりの陰キャと違って、
「きゃあっ、アミカさん、そこまで私のこと気にかけてくれてるの!? 教育メニューまで用意してくれるなんて感激っ!」
「あ、ふふ……む、無敵ですねクローバーさん……」
「それでそれでっ、私は何したらいいの? ていうかっ、アミカさんはもうこの映像見てるの!?」
「あ……はい……」
『見てるよ。相変わらずJホラーの冒頭で雑に殺されそうな演技しちゃって』
「きゃーっアミカさん! 演技じゃないですよっ。私が主役の企画?なんて、ありがとうございますっ!」
『主役っていうかターゲット? 今からキミには、チェリーとボクがOKを出すまで自作の怪談を語り続けてもらう』
「えっ……私が自分で作るんですか? 怖い話を?」
『怪談を語る人ってのは大体皆そうしてるでしょ。こないだのベートーヴェン回みたいなのしか語れないんじゃ困るからね』
「えーっ……。アミカさんがお役目をくれるのは嬉しいですけどっ、私、人から聞いた怖い話しか喋ったことないですっ」
『うむ、だから頑張って。チェリーがサポートしてくれるから謙虚に教えを請いな』
「あっふふっ……わっ私ごときがクローバーさんに何かをお教えするなんて恐れ多いですけどね……」
「えっと……せっかくならアミカさんがこの部屋に来て教えてくれるってワケにはっ?」
『それだと真剣に取り組まないでしょキミ。じゃあ、ボクはマイク切って監視してるから、頑張ってくれたまえ』
「は、はぁーい……」
「あっ、相手が私ですみません……。短い間ですがよろしくお願いします……」
「ええ、お願いねっ、チェリーさんっ。あっでも、私、こんな感じだから、時間かかっちゃったらゴメンね?」
「あっ……ま、まあ、土日の内には出られるように善処して頂ければ……」
===
「……とまあ、今回はこんな感じなんだけど。どう、イツキ。閉じ込められる側から見る側に回った気分は」
「どうって言われても……。わざわざビジネスホテルの部屋取ってやることがコレですか」
「クーポンとポイントで半額以下にできたからね。たまにはいいでしょ」
「なんか、女子二人の様子をリモートで監視してるのって変な気分になりそうですね……」
「おや、イツキにそういう思考回路あったんだ?
「わかってますって。ってか、
「いや、単に売約済みってだけの話」
「本人が聞いたらそれだけでも昇天しそうですねえ……。あ、なんか喋ってますよ」
「ふむ、傾聴してやるか」
===
「ねえチェリーさん、早速だけど教えてっ? 私の怪談って、何がそんなにダメなのかしらっ」
「あっ、ダメっていうか……。なんというか、こう……怪談以前に普通の話もままならない私ふぜいが、ゴッドオブ陽キャのクローバーさんに向かって言いづらいんですけど……」
「ゴッド……? って、そんなことないわよっ、チェリーさんのお話いつも面白いじゃないっ」
「あっふふ……」
「私達お友達でしょっ、何でも気にせず言ってくれていいからっ」
「あっ、えっと、じゃあ、僭越ながら……。情報源がやたらと遠い上に、肝心の中身が心霊的でもなければ不気味でもなくて……あっ、ぶっちゃけて言いますと、全く怪談の体裁を成していないというか……」
「け、結構ズバッと言うのね……。びっくりしちゃった……」
「すっすみません……言わなきゃ故郷の村を焼くぞって魔王様に脅されて……」
「
「ふふ……お父さんお母さんが娘だと思って育てていたものは……実は人間じゃなかったかもしれないですけどね……」
「えっ……何それ、いきなり怖いこと言わないでよ……」
「いや、こ、こういうのですよ、こういうの……。意味はわからなくても不穏でゾクッとくる感じ……。あっほら、クローバーさんもどうぞ……」
「私? 私も言うの? えっと、じゃあ……私のお母さんが子供の頃、近所のおばさんから聞いた話らしいんだけどっ」
「あっ、もうアウト……」
「アウトなの!? どうして!?」
「あっ……だから遠いんですよ、話が……。一世代前の話な上に、結局情報源が赤の他人じゃないですか……」
「だってしょうがないじゃないっ、そう聞いたんだものっ」
「あっ、別にクローバーさんが実際に聞いた話縛りじゃなくてもいいんですけどね……。あっ、ちなみに内容のほうは……?」
「えっと、そのおばさんが子供の頃には、まだ町に野良犬がたくさんいて……」
「えっ……さらに一世代前の話……」
「ある時、近所の家に上げてもらってスキヤキをご馳走になったんだけど……その肉の正体が犬だったんじゃないかって……」
「……あっ、それはどこが怪談なんですか……?」
「えーっ、気付かない内に犬を食べちゃってたかもしれないなんてゾクッとするでしょ!?」
「そ、そうだとしても……知らないお母さんが聞いた、知らないおばさんの話ですし……」
「でも、そんなこと言ったら、こないだの焼却炉の話だって古い世代の又聞きだったじゃない? あれはいいの?」
「あっ、だって、あれは少なくとも現地のロケーションに即した話だったじゃないですか……。あっ、つまり……『人』か『場所』か、せめてどちらかは身近じゃないと……」
「む、難しいのね……。あっ、じゃあ、この前みんなで焼肉食べに行ったじゃないっ。あの中に実は正体不明の肉が混入してた、とかどう?」
「……ふ、普通にお店への風評被害ですね……」
「そうね……難しいわ……」
「あ、あと……単に正体不明の肉が混入してたらしい、だけじゃ、怪談でも都市伝説でもないっていうか……」
「うぅ、手厳しい……。じゃあチェリーさん、もっとお手本見せてよっ。てかっ、チェリーさん自身はどうやってそんなに怖い話が上手になったの?」
「あっ私の場合は……小さい頃からずっと聞かされてたからですかね……」
「聞かされてたって、怖い話を? 親御さんから?」
「あっいえ……。ふふっ、前にも言ったじゃないですか、おしゃべりミカちゃんトーキングドールがお友達だったって……」
「お泊まり会の時のお話ねっ。あの時は楽しかったわねー、またお泊まりしたいわねっ」
「あっ今してるんですけどね……。たぶん、このまま一晩明かすことになりそうですし……」
「うっ、一晩で終わるかしら……」
「さ、さすがに学校休ませてまで続けさせる気はアミカさんも無いでしょうから……。あっ、それで、ミカちゃんなんですけど……」
「そうそう、喋るお人形がどうなったの?」
「わっ、私が怪談好きになったのは……たぶん、幼稚園でお友達が全然いなかった代わりに……ミカちゃんがずっと、私に怖い話を聞かせてくれてたからで……」
「えっ……待って待って、喋るお人形って言っても、収録されてるセリフを再生するオモチャなんでしょ? 怖い話なんて入ってたの?」
「さ、さあ……。今思えば、私が見た夢だったのかもしれません……。あっ、子供の頃のことですから、夢と現実の境目なんて曖昧でしたからね……」
「そ、そうよね……きっと夢よ……」
「でも……たまに思うんですよね……。ミカちゃんは私と違って、明るくてお喋り好きな子で、きっと私のもとに来るまではお友達も多くて……。対して私は、一応人間として育てられてたはずなのに、友達一人もいないコミュ障で……」
「そ、そんなの個性の範囲じゃないっ、今は私達がいるでしょっ」
「あっふふ……。でも、本当に私のほうが人間だったのかな、って……。本当は、私が子供の頃の私だと思ってる記憶は、物言わぬ人形のもので……」
「えっ……ちょっと、なに……」
「き、気付かない内に、自分と人形の意識が入れ替わってて……。今こうして話してる私は……実はミカちゃんなんじゃないかなって……」
「い、いやっ……! やめてやめてっ、怖い怖いっ!」
「……とまあ、こういう感じですけど……」
「なにがっ!?」
「あっ、お手本……」
「えっ!? あっ今の、怖い話のお手本として喋ってくれてたの!?」
「あっはい……お、お粗末様でした……」
「は、始めるなら始めるって言ってよ……。ほんとにゾクってしちゃったじゃない……」
「あっ、でも本当に今の話の通りだったら、本来の私はゴミとして親に捨てられちゃったんですよね……。ああ、幽体になってたのはそっちの私かもしれないですね……?」
「やだっ、もうやめてっ、チェリーさんのイジワルっ!」
===
「……ふーん。ちえりもなかなかサディズムに磨きが掛かってきたね」
「それはいいんですけど、これ、マジで明日まで粘っても終わらないやつじゃないですか?」
「まあ、それならそれでいいよ、ちえりがひたすら三葉を怖がらせてるのを動画のウリにするから」
「どっちに転んでも撮れ高は上々、ってことですか……」
「ちなみにイツキ、今日はちえりのアドリブに乗っかってボクをからかったりしないの?」
「……いや、さすがに人のカノジョを人形にさせないでくださいよ」
「それもそうか。……とりあえず、動画としてはこのへんで切って『次回に続く』かな」
「続くんですか、これ……」
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