敬語とノロケと罰ゲーム
「そーいえば、ちえりちゃんってさー」
「あっひゃいっ!? なっ何でしょう
「いやいや、なんでそんなにビビるのさ?」
「あっ……いえ、その……脳内で会話デッキの調整してるところに急に話しかけられたので……」
「会話デッキって何……? 陰キャは台本作ってないと喋れないー、ってやつ?」
「あっそうですね……。ふふっ、今日はイツキ君にどの陰キャトークで切り込もうかなって……」
「陰キャトーク以外で切り込む選択肢はないんだ? まあいいや、イッツーが来るまでアイスティーでも飲んでなよ」
「あっ、ありがとうございます……いただきます……」
「ちなみにあたし、こないだスマホで『イッツー』って打とうとしたら、変換候補に『
「あっ……中国麻雀では
「うーん、リアクションに困るトリビア! ってか、動画見てても思うけどさー、ちえりちゃんってヘンなとこで博識だよね」
「あっいえ……わっ私なんかそんな……。友達いなかったから、学校ではずっと本読んでるくらいしか出来なかっただけで……」
「音楽室にふわ~って飛んでいってピアノ弾いてればよかったじゃん?」
「……? ……あっ、そうですね……」
「いやいや、逆幽霊ジョークだし! 突っ込んでくれないとあたしが恥ずかしくなるじゃーん」
「あっすみません……。えっと……『ゆっ幽霊って言っても飛べませんから』……!」
「えっ、ツッコミ所そこなの!?」
「あっふふ……いっイツキ君が恋人になってくれて天にも昇る気持ちではありましたけどね……」
「うっ……出たなノロケおばけ……」
「ふふふふ、ノロケおばけです……。……あっあの、それで鈴鳴さん、本題は……?」
「あ、ああ、そんな本題ってほどの話でもないんだけどさ……。ちえりちゃんって、なんで同い年相手にも敬語なのかなーって思って」
「あっ……な、なんででしょうね……?」
「自分でもわかってないの!?」
「そ、そう言われましても……気付いたらそうだった、といいますか……変えるタイミングがない、といいますか……」
「タイミングって言うならさー、イッツーは彼氏なんだしー、
「……あっ、いえ……。変えるタイミングっていうのは、私自身がそういうキャラじゃなくなるタイミング、という意味で……。……だって、陰キャは誰にも敬語っていうのが相場じゃないですか……」
「うーん、そんな相場は知らないけど……。イッツーだって自称陰キャだけど同い年にはタメ口じゃん?」
「あっ……イツキ君はファッション陰キャですからね……」
「陰キャにガチとかファッションとかあるんだ」
「あっふふ……じっ自分から人に絡んでいける時点で、陰キャっていうより『友達が少ないだけの普通の人』なんですよ……」
「まあ、
「えっ……今ですか……」
「上手くできたら、イッツーの弱み一つ教えてあげるからさー」
「あっはい……善処します……」
「持ちかけといてナンだけど、彼氏の弱みを握ることに躊躇とかないんだね……」
===
「戻りましたー……あ、ちえり、もう来てたのか」
「あっイツキ君……お、お疲れさま……、で……」
「? 姉弟子、コイツどうかしたんですか?」
「んー、ちょっとねー」
「……で、
「なんで唐突に死の宣告……?」
「あっいえ……。いっイツキ君、きっ今日は晴れてよかっ……よ、よかった……の……」
「どうしたんだよ、そんな霊界からの電話みたいな喋り方して。また
「いっいえ……。あっ、今日は鈴鳴さんに言われ……た、の……」
「姉弟子? ちょっと、なんかヘンなドッキリとか仕掛けてるんじゃないでしょーね」
「どうかなー? イッツー、今日のちえりちゃんの喋り方どう思う?」
「どうって、ちえりはいつもヘンですけど……」
「あっふふ……いつもヘンな幽霊少女とは私のこと……な、の……」
「ああ、喋り方がチェリーさんモードになってますね……何の余興ですかこれ?」
「!?」
「……!?」
「いや、なに二人して鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して……」
「……あっ、ふふ……私チェリーさん……この喋り方なら最初からタメ口きけてたの……今気付いたの……」
「言われてみればそうだったねー。なーんだ、普通にタメ口いけるじゃん、ちえりちゃん」
「なに、要するにタメ口の訓練してたってこと?」
「ふふ……そうなの……。あなたのおかげで……思い出すことができたの……。こ、これで……私も同級生と普通に話せるの……」
「いやいや、その口調は普通って言わねーから。浮遊霊が近付きながら電話掛けてくる時専用のやつだから」
「あっふふ……ダメ……?」
「恨めしそうに上目遣いで見られても同じだけど!?」
「ちえりちゃん、その語尾のまま言葉伸ばさずに喋ってみたら?」
「……わ、わたしちぇりーさん、いま、あなたの、めのまえに、いるの」
「それはもう幽霊じゃなくてお喋り人形だな……」
「あっふふ……ミカちゃんでももうちょっと流暢で……す、の、よね……」
「お嬢様のなり損ないみたいになってるけど!?」
「ゴメンゴメン、ちえりちゃん、あたしが無理言って焚き付けちゃったのがよくなかったねー。普段通りに喋って?」
「あっ……ごっご期待に添えずすみません……。や、やっぱり私には、ですます調がお似合いですよね……
「結局俺は何を見せられてるんだろう……」
「あっでも……ふふっ、イツキ君がチェリーさんの口調に気付いてくれたの……嬉しかったの……」
「いや、気付くも何も、そのまんまだし?」
「イッツー、照れるな照れるなー」
「照れてませんよ!」
「あっ……イツキ君はいつも素直じゃないの……」
「っ!?」
「おー、イッツーどうしたー?」
「いや……思いのほか、上目遣いとタメ口のコンボダメージが……」
「よしよし、ちえりちゃん、もっとやってやれー」
「ふふっ……でもこういう時の反応は正直なの……」
「……か、勘弁して下さらないと除霊するでございますよ……?」
「イッツーが壊れた……はい、ちえりちゃんの勝ちー」
「いつから何の勝負をしてたんですか!」
「会話デッキって言うくらいだからカードゲームか何かでしょ?」
「負けたら魂をカードに封印されそうなやつ……」
「あっふふっ……イツキ君がカードになったらコレクションにして飾ってあげるの……」
「怖ぁっ……! もう完全に話のジャンルがホラーなんだよ」
「逆にホラー以外の何だと思ってたの? ラブコメ?」
「いや、それはどっちかって言えばホラーでしょうけど……」
「あっ、ところで鈴鳴さん……イツキ君の弱みを教えてくれるっていうのは……」
「あー、どれにしよっかー」
「ちょっとそこ!? 何の取引してるんですか!?」
「まあでも、さっきみたいなリアクションが最大の弱みって感じするよねー」
「ふふっ……そうですね……」
「これが敗者への罰ゲームか……」
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