チェリー&クローバーの七不思議レポ -「焼却炉の失恋少女」編-

「はーいっ、こんばんはっ! このたび、アミカチャンネルの新レポーター役を仰せつかりました、ホラー映画の冒頭で雑に殺されてそうな陽キャ女子ことクローバーとっ」

「あっ……お、お馴染み幽霊少女のチェリーです……ふふっ、今宵はいきましょう……」

「ということで、今夜は私達の高校の敷地内にお邪魔してますっ。こちらは園芸部の子達が手入れしてる花壇、あちらに見えますのがゴミ置き場でーす。それにしても、夜の学校って暗くてコワイわねー、チェリーさんっ」

「あっ夜ですからね……。……クローバーさん、しっ視聴者の皆様に例の説明を……」

「そうだったわねっ。皆さん、この収録は、『ホラー同好会』の正式な活動としてちゃんと学校の許可を頂いてます。ご安心くださいっ。ちなみに私は副会長でーす」

「あっ……幽霊部員じゃないけど幽霊の部員とは私のことです……ふふっ……」

「そんなこと言って、……チェリーさんも実際はちゃんと生きてるじゃないっ。みなさーん、ヤラセとかじゃないですからねーっ、炎上させないでくださいねっ」

「あっ……炎上といえば、クローバーさん……知ってますか? この高校の七不思議の一つ……『焼却炉の失恋少女』の話……」

「えー知らないわどんな話なの?」

「あっ、もうちょっと棒読みを抑えて頂ければ……」

「えぇっ!? しっ知らないわっ、どんな話なのっ!?」

「はっ迫真の演技……。あっ、あのゴミ置き場の奥に、今は使われていない焼却炉があるのはご存知ですか……」

「焼却炉? 学校の中にそんなのがあるの?」

「ええ……ダイオキシンとかが問題になる以前の時代は、どこの学校でも、校内でゴミを燃やしてたそうですよ……」

「今だと信じられないわねっ。せっかくだから近付いてみましょうか、チェリーさんっ」

「あっはい……」


「はーい皆さん、こちらが問題の焼却炉みたいですっ。それでそれで、チェリーさん、七不思議ってどんなお話なの?」

「あっ……。えっと、これは、まだラインも携帯もなかった時代の話なんですけど……」

「当時の人ってどうやって待ち合わせとかしてたのかしらね? ポケベルってやつ?」

「さあ……。あっでも、私みたいに、スマホがある現代でも友達との予定なんかレイ件の人間もいますけどね……ふふ……」

「そんなことないわっ、私や……会長がいるじゃないっ」

「あっふふっ……陰キャ幽霊のくせしてリアルが充実しててどうもすみません……。ええと、それで……当時の生徒に、A子さんという人がいたんですけど……」

「急に本題始まったわね……。A子さんって何年生?」

「さあ、そこまでは……? あっでも、私みたいに陰気でクラ~い子だったらしいですよ……。でも、そんなA子さんもある時、クラスの男子に恋をして……当時はメールもない時代なので、ラブレターを書いたんだそうです……」

「あっわかった! それで失恋しちゃって、ラブレターをこの焼却炉で焼いちゃったのね!?」

「……あの、クローバーさん、これ早押しクイズじゃないんで……」

「ごめんなさいっ、また話の腰折っちゃったわねっ。ああっ、こんな進行じゃアミカさんにクビにされちゃう……」

「あっ、いいですか続けて……? ……A子さんがこの焼却炉で焼いちゃったのは、ラブレターだけじゃなかったんです……」

「えっ。ほ、他には何を……?」

「……ふふっ、その出来事は……一説には不幸な事故だったとも、いじめの末の事件だったとも言われてるんですけど……。じ、実は、A子さんの恋は本来なら叶うはずだったんです……なぜなら、意中の男子も実はA子さんのことが気になっていて……」

「二人はほんとは両想いだったのねっ。だったらどうして……?」

「あっ……もう一人、その男子のことを好きだった子がいたからですよ……。その子……B子さんは、陰キャなA子さんとは違って、クラスの中心になるような陽キャで……どうもね……自分が先に目をつけていた男子を、A子さんみたいな地味~な子に持ってかれるのが我慢できなかったみたいで……」

「見てきたように話すじゃない…」

「……実際、見ていた人が沢山いたんです……B子さんのグループがA子さんを取り囲んで、せっかく書いたラブレターを焼却炉で燃やすように迫るところを……」

「ええっ、怖すぎっ……。あっ、チェリーさん、陽キャが皆そんなことすると思わないでね!?」

「あっ、それは思ってませんけど……。……それで、気弱なA子さんも、その時ばかりは、なけなしの勇気を振り絞って抵抗を試みたんですけど……結局、最後はラブレターを取り上げられて、燃える火の中に放り込まれちゃって……」

「あぁっ、可哀想……」

「あっ、それだけじゃなくて……。グループの数人と揉み合いになった結果……A子さんも、顔面から焼却炉に……」

「ええっ!? そんなの死んじゃうじゃない!」

「あっそうですね……。上半身から火ダルマになったA子さんは……消火も間に合わず、大勢の生徒達の前で藻掻もがき苦しみながら……最後はB子さんを白い目で睨みつけて、そのまま事切れたそうで……」

「う、ウソでしょ……? さ、さすがに作り話よね……? いくらなんでも、私達の学校でそんな……」

「ふふっ……。それ以来ね、B子さんみたいな陽キャがこの焼却炉のそばを通りかかると……らしいですよ……上半身が焼けただれた、陰気な女の子の亡霊が……」

「ひいっ……! やめてやめて、本当に怖くなっちゃうからっ」

「そう、ちょうど、あなたみたいな陽キャの前にねぇ……!」

「いやぁぁぁっ!」


「……」

「……」


「あっ……というお話だったんですけど、いかがですか……」

「もうやだっ、チェリーさんヒドイっ! わっ私がこういうの苦手って知ってるのにっ」

「あっごめんなさい……でも自分からアミカさんのチャンネルに出たいって言ったんじゃ……」

「そ、それはそれ、これはこれだもんっ」

「あっ、ちなみにアミカさんいわく……『あの子はオチの見えてる怪談でもガチで怖がるから、リアクション役には適任』って……」

「それって褒めてるの!?」

「あっもちろん最大級の賛辞かと……」

「うぅっ、喜んでいいのか困っちゃうわ……。と、とにかくっ、怖くなっちゃったから早く帰りましょう、チェリーさんっ」

「あっ……そうですね、撮れ高は確保しましたし……」

「ち、ちなみにチェリーさんは怖くないの……? 夜の学校でこんな話して……」

「あっあんまり……。ふふっ、だって私達は二人じゃないですか……」

「! ……そ、そうよねっ、私達お友達だものっ、一緒にいれば怪談なんて怖くないわよねっ」

「あっいえ、そういうことじゃなくて……もし襲われても数の優位があるから大丈夫かなって……」

「? それってどういう……」

「あっ、そのままの意味ですよ……。私達は二人で……は一人でしたから……」

「いっ、いやぁああぁっ!!」



===



「……って内容なんだけど。どう思う、イツキ」

「どうって言われても……。新月にいづきさんの言う通り、四月一日わたぬきさんのガチで怖がるリアクションは美味しいなってのと……。ちえりが普段より生き生きしてて良かった、ってくらいですよ」

「そうだね。最後のところは台本になかったんだけど、こんなアドリブ入れて三葉みつばを怖がらせるなんて……ちえりもなかなかSっ気があるね」

「アドリブっていうか、まあ……見たまんまをコメントしただけじゃないですか?」

「うん?」

「焼却炉の子は、じっと二人を見てただけで、特に害意もなさそうでしたしね」

「えっ……ちょ、ちょっとイツキ……怖がらせないでくれる……」

「あれ、魔王様はこんだけ首突っ込んどいて今さら霊が怖いんですか?」

「べ、別にぃ? 神月しんげつアミカが今さら幽霊なんかを恐れるとでもー?」

「……いや実際、怖がるような霊じゃないですよ。多分あの子は、ちえりと四月一日さんが羨ましかっただけだと思いますよ」

「羨ましかった?」

「自分と似た陰キャが、自分をいじめ殺した子と似た陽キャとなんか楽しそうにやってる……。もしかしたら、そんな様子を見て救われて成仏してくれたかもしれないですね」

「……ねえ、一応聞くけどイツキ、それってボクを怖がらせるための作り話だよね?」

「さあ、どうでしょう?」

「やめてよね、そういうの……」

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