アミカチャンネル親睦焼肉会@邪々苑

「――ということで、ちえりの演奏動画の100万再生達成を記念して、第一回アミカチャンネル幹部会・親睦焼肉会を始めます。はい拍手」

「いや、新月にいづきさん、『はい拍手』じゃないでしょ。肉は頂きますけど」

「いつあたし達がアミカチャンネルの幹部になったー? お肉は頂くけど」

「でも、ちょっと恐れ多いですけど、私は嬉しいですっ。今日は楽しみましょうねっ」

「あっ……わっ私みたいな消しずみ以下が、こんな賑々しいお店にご一緒しちゃってすみません……。あっ私は取り分け係をやってますので、皆さんどうぞご賞味ください……」

「なに主役が縮こまってんだよ。お前の動画の100万回記念って言われてんじゃん」

「あっふふっ、わっ私はただ前髪上げてピアノ弾いてただけなので……あっ何かやっちゃいましたか……?」

「コイツ、自分の価値を理解してきやがったな……」

「ほら、ちえりも食べな。取り分け係なんかイツキがやるから」

「そーそー、イッツーがやるから」

「そこは魔王様がやってくださいよ……」

「なんだよ魔王様って」

「俺らが幹部なら新月さんは魔王でしょ」

「なるほど。じゃあ四天王のイツキ、牛タンひっくり返して」

「くくく、俺は四天王で最弱……なんだこのノリ」

「四天王? なんで宮島君が最弱なの?」

「あー、三葉みつばちゃんはそういうネタ通じない系かー」

「あっ……魔王の配下なら、わっ私は旧ド◯えもんの魔界大冒険のメジューサが好きです……」

「それは何、幽霊みたいな見た目がってこと?」

「あっいえ……時空間を泳いで追いかけてくるストーカー気質が……ふふっ、私と近いものを感じるなって……」

「自分でストーカー気質とか言っちゃったよ」

「てゆーか、ちえりちゃんの歳でのぶドラなんて見てるんだ?」

「あっ、わさドラ版のメジューサは設定変更で怖さが消えちゃってるので……」

「てか、姉弟子も歳一つしか変わらんでしょ」

「あたしはお姉ちゃんが『ド◯えもんはのぶ代に限る』ってウルサイからさー」

「師匠……自分が猫だからって、国民的アニメにそんなこだわりを……」

「そういえばっ、トモさん、今日はマオさんはお招きしなかったんですか?」

「三葉って割と天然だよね。猫の姿じゃお店には入れないでしょ」

「あっそうですね、恥ずかしいっ……。じゃあマオさんも大変ですね、皆と楽しくお食事できなくて」

「まあ、お姉ちゃんは元々そういうキャラでもないけどねー」

「そういえば、当たり前だけど、ちえりと三葉はマオさんの猫の姿しか知らないんだよね」

「そう言われると不思議な感じですね。俺なんか未だに今の姿のほうに慣れないですよ。……はい皆さん、牛タン」

「うむ、いい焼き加減だ」

「ありがとー。イッツーも食べなよ?」

「ありがと、宮島君。それでそれでっ、元のマオさんってどんな方だったんですか?」

「あっ……わっ私も気になります……」

「一応あたしのスマホに写真あるよー。えっとねー、ホラこれ」

「わあっ、素敵なお姉さんですねっ。じゃあ、隣は子供の頃の鈴鳴りんなさんですか?」

「そーそー。ちょうど鬼灯かがちの本家に引き取られた頃かなー。お姉ちゃんがイッツーを拾ってきたのも大体その頃」

「拾ってきたって、人を犬みたいに。……はい皆さん、カルビ」

「うむ、苦しゅうない」

「あっ、イツキ君の子供の頃の写真はないんですか……?」

「それはいいだろ……」

「ふっふー、あるよー」

「何であるんですか。わざわざ新しいスマホに移して持ち歩くほどの写真じゃないでしょ」

「いざって時にイッツーに言うこと聞かせる材料に使えるかと思って」

「そんなもの無くても焼肉係をやらされてますが……? はい、ロース」

「ありがとー。見て見て、子供の頃からひねくれてるイッツー」

「わあ、カメラにプイってしてるのがカワイイですねっ」

「あっ……わっ四月一日わたぬきさんはイツキ君をカワイイとか思っちゃダメです……」

「心配しなくても取らないわよっ。宮島君は全校公認の浅桜さん係だもんねー」

「これ何の罰ゲーム?」

「ちえり係兼焼肉係、ライスおかわり頼んで」

「そのくらい自分で注文してくださいよ! ほらタブレット」

「焼肉屋でタブレットって言うと、この機械のことか、食後のブレスケア的なことか混乱しない?」

「知りませんけど……」

「あっ、鈴鳴さん……あっあの、よかったら、その写真……」

「あっ欲しい? 送る送るー」

「あっありがとうございます……ふふ……」

「『本人の確認も取らずに横流ししないでくださいよ』とか一応ツッコんだらいいんですか?」

「あっ、イツキ君にも後で私の子供の頃の写真を大量に送りつけてあげますね……」

「既に迷惑だと自覚してる言い方!」

「あれ、イッツーはちえりちゃんのカワイイ写真欲しくないの?」

「……いや、くれるってんなら貰いますけど……」

「あっふふっ……もっと素直になってもいいんですよ……」

「ちょっと黙って肉食ってろ」

「私も見てみたいなっ、子供の頃の浅桜さん」

「よし、メンバーシップ限定公開にして課金者を釣ろう」

「『よし』じゃねーんですよ、『よし』じゃ。はいハラミ」

「うむ。……さて、イツキとちえりのラブコメぶりも確認できたところで――」

「ここまでの会話のどこにラブなコメディの要素があったんですか?」

「……訂正、笑えないバカップルぶりも確認できたところで」

「くっ……いっそ殺せ……」

「あっイツキ君が死んだら私も後を追ってあげます……」

「重い重い。俺のことなんか忘れて幸せに生きてくれ」

「……もういい? アミカチャンネル幹部会の本題に入りたいんだけど」

「えー、あたし達はその本題入ってくれなくていいんだけど?」

「まあまあ鈴鳴さん、まずはお聞きしましょうよっ」

「あっ……カップル系ゆうチューバーとしてイツキ君と本格デビューする話ですか……?」

「お前はそれ本当にやりたいの?」

「まあ、ボクとしては、いずれはそれも視野に入れていいとは思うけど」

「今の内に下剋上で魔王を討っておかないとダメか……?」

「今回の議題はこれ。ちえり達の学校の七不思議検討会議」

「わざわざ紙のノート持ってきたんですか……。それこそタブレットか何かにしましょうよ」

「まだ食べてる最中にブレスケアを?」

「いいですからそういうの。はいじょうミノ」

「うむ……食べたり話したり忙しいな……」

「じゃ、トモは食べるのに集中してもらっていいよ?」

「もぐもぐ……それで、醍醐だいご高の怪談七不思議をだね……」

「いい歳して言葉で『もぐもぐ』とか言わないでくださいよ」

「トモさんのお茶目な一面が見れちゃって私は焼肉になっちゃいそうです……」

「四月一日さんも大丈夫? 全然上手いこと言えてないけど」

「あっ……ふふっ、焼肉と掛けるなら『人間火力発電所になっちゃいそうです』とかですよね……」

「この子にはそれ系のネタは通じないってさっきやってただろ。お前もほら、ホルモン食えホルモン」

「あっ……臓物を食らうってホラーっぽい……」

「イッツーも食べな? 取り皿に積みっぱなしじゃん」

「だって俺が黙ったらツッコミ不在空間になっちゃうんで……はいセンマイ」

「いいじゃん、ブレストにツッコミは不要。ちえりと三葉、高校の七不思議を教えて」

「はーいっ、でもブレストって何ですか?」

「あっ……『呼吸を止めて一晩、あなた死にそうな目をしてたら』……ってやつですかね……」

「ブレス・ストップ略してブレストではない。ブレインストーミング、ネタ出し会」

「くっ……一晩止めたらそりゃ死ぬわってツッコみたい……。あと、タ◯チにこじつけてボディタッチの話するのは禁止な」

「えっ……なんで私が言おうとしてたことが分かるんですか……」

「イッツーはちょっと休憩して自分のぶん食べてなよ」

「えっと、それで、ウチの高校の七不思議ですよねっ。私が聞いた限りだと、やっぱり『音楽室の幽霊』の話が一番メジャーでしたけど……」

「この流れで普通にブレスト始めれるって四月一日さん強すぎない?」

「宮島君はツッコミお休みして食べててくれていいわよっ。あっ、最近聞いたやつだと、呪いのインスタってのがありました!」

「……一応聞かせてくれる?」

「はいっ。これはサッカー部のマネージャーしてる子がOBの先輩から聞いた話なんですけど、その先輩のバイト先のお友達が……」

「オーケー、三葉、もういいや」

「そういえば、三葉ちゃんの怪談のセンスってちょっと独特だったね……」

「えーっ、ここから怖くなるんですよっ。だってその投稿に『いいね』した人が次々と体調を崩しちゃったんですよ!?」

「あっ……陽キャの世界のことはわかりませんけど、すっ少なくともウチの高校の七不思議ではないですよね……」

「コイツが的確なツッコミ役を……!?」

「じゃあ、ちえりは何かない?」

「ふふっ……ちょっと前まで友達レイ人だった私が……学校のウワサ話に精通してるわけないじゃないですか……」

「そんなことないわよっ、今じゃ浅桜さんもお友達たくさんいるもの。ほら、この前も皆でマッチングアプリの怨霊の話したじゃないっ」

「三葉、まず高校生がマッチングアプリの話をしないで」

「わっ私は利用してないですよ!? 男の人との出会いとか今は要らないですしっ、私はこうして憧れの人に推し活させてもらうだけで……きゃーっ憧れの人とか言っちゃったっ」

「こっちは放っといて話の続きしようか」

「新月さんも割と残酷ですよね……」

「いいんだよ、三葉はボクに雑に扱われるのが好きなんだから」

「三葉ちゃんはむしろアプリでも何でもやって健全な出会いを求めた方がいいんじゃない?」

「あっ……そっそういえば……こ、この前、小耳に挟んだんですけど……」

「おっ。では申してみよ、四天王ちえり」

「は、はっ……僭越ながら魔王様……」

「なんで魔王軍の設定にノリノリなんだよ」

「あっ、な、なんだか最近……主に一年の男子の間で、死とか成仏とかがブームになってるとか……?」

「待て待て、そんなもんがブームになってたまるか。俺聞いたことないし」

「あっでも、こないだ野々村さんが言ってたのは……他のクラスから私を観察しに来た人が、そっそのあと謎に胸の苦しみを訴えたり……しまいには成仏するとか出来ないとか……。ふふっ、まっまた私が悪霊を引き寄せちゃってるんですかね……」

「なんだそれ……」

「あー、まあ、前髪切ったちえりちゃんが校内に居たらそうなるよねー」

「ちえりも罪な女だよ」

「いやいや、なに二人で分かったような顔してるんですか。俺聞いたことないですよ、そんな話」

「三葉、現世に戻ってきな、解説役」

「ふぇっ……? ああ、浅桜さんの素顔に男の子達が見惚みとれちゃって、失恋慰め会が出来てる話ですか?」

「何それ、俺初耳なんだけど!?」

「そんなの彼氏さんの耳には入れないわよっ」

「あっ……わっ私自身も聞いたことないです……」

「でしょっ、本人の耳にも入れないように皆で防波堤作ってるんだもの」

「目の前で決壊したけど……」

「あっえっ……で、でも、話がおかしいですよ……。わっ私みたいな呪いの人形以下の呪物に興味を持つ男子なんて、イツキ君の他にいるわけ……」

「つくづくお前は俺を何だと思ってんの?」

「浅桜さん、自信持ってっ。浅桜さんは自分で思ってるよりずっと人気者なのよ?」

「あっ……そ、そうなんですかね、ふふっ……。でも、わっ私の相手はイツキ君だけでいいので……他の男子の皆さんには、申し訳ないですけどそのまま成仏しておいて頂いて……」

「イッツー、さっきから顔真っ赤だけど火力発電所にでもなった?」

「……ツッコミは休憩中なので放っといてください」

「じゃ、今日はイツキの奢りね。ご馳走様」

「なんでですか! 魔王様が人間どもからせしめたお金で出すんでしょ!?」

「それはそれとして、イッツー、ごちそうさまー」

「宮島君、いつもお腹一杯にしてくれてありがとねっ」

「やめてくださいよ!」

「あっふふっ……わっ私が他の人に連れてかれないように気をつけてくださいね……」

「うるせーよ……。ほら、シャーベットで頭冷やしてろ……」

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