◯◯しないと出られない部屋

「あっ……ふふっ、とっ閉じ込められちゃいましたね、イツキ君……」

「何この雑な導入?」

「あっ、何って、ネットで話題のあの部屋……恋人らしいことをしないと出られない部屋、ですよ……」

「言うほど話題かぁ? こーいうのが旧Twitterで流行ってたのって五年以上前じゃね?」

「ふふっ、イツキ君、知らないんですか……一過性の流行を超えた時……それは『定番』になるんですよ……」

「知ってる知ってる。学校の七不思議とか、ピアノを弾く幽霊とかな」


「……ふふっ、それでどうします……? こ、この、いかにも怪しげな霊的結界みたいな御札おふだがペタペタ貼られた部屋に……わっ私とイツキ君の二人きり……」

「霊的結界なら普通に解いて出るんだけど」

「あっ、無理に出ようとしたら悪霊が襲ってくるって……アミカさんが言ってましたよ……」

「悪霊なら普通に倒して出るんだけど」

「あっ……それはそれで、カッコいいイツキ君が見られるからいいかも……」

「じゃ、手っ取り早くそれで出ちまうか。おーい悪霊さんよー、出ておいでー」

「あっあの……やっぱりそれじゃ意味ないんじゃ……」

「なんだよ、せっかくお前から貰った新しい数珠じゅずを使いこなそうと思ったのに」

「……ふふっ、じゃあそれで……」

「はい、悪霊退散、悪霊退散。……もう出ていい?」

「えっ……ダメですよ……」

「なんでだよ。『貰ったプレゼントを使う』って、ちゃんと恋人らしいことしたじゃん」

「あっ……そういうのじゃなくて……しっ身体接触的な意味で恋人らしいことをしないと……」

「コイツ、いつになく調子乗ってるな……」


「……」

「……」


「……あっ……ねえねえ、イツキ君……。そんな隅っこでくつろいでないで……わっ私と恋人らしいことしましょうよ……」

「目の前に座るな、見える見える」

「あっ、えっち……」

「スク水で風呂場に乱入してくる奴が何言ってんだか……。恋人らしいことって何、加持かじ祈祷きとうとか?」

「あっいえ……その……もっと見てる人が喜びそうなこと……」

「いいこと教えてやろうか。普通そういうのは人に見せないんだよ」

「あっ……いいんじゃないんですか、私達……割と普通じゃないカップルなんですから……」

「お前と同類扱いかぁ……。ちょっとー、にい……じゃない、神月しんげつアミカさーん、もう切り上げちゃっていいですかねー」

『えっ何言ってんの。まだ全然だか足りないよ』

「俺とコイツで何か撮ろうってのが無理あるんですよ」

『いいから早く、人前では見せられないようなコトに及びなよ』

「そんなもん動画に出したらソッコーでBANされますけどいいんですか? ってか、俺もコイツも十八歳未満ですし」

『おや、ボクは人前では見せられない事としか言ってないんだけど、勝手に何をソーゾーしたのかな』

「そーゆーのマジでいいですから……」

「あっ……でも、こっ、の範囲内でも、恋人的なことは……」

「言えてない言えてない。公序こうじょ良俗りょうぞくな」

『いいから早くキスとかしちゃいなよ』

「しませんって! そんなに言うならにい……アミカさんがすりゃいいでしょ?」

『ボクがしていいの?』

「あっ……だっダメですよ、わっ私はイツキ君専属なので……」

「いや、ちえりとじゃなくて……。アミカさんが勝手に四月一日わたぬきさんあたりと変な部屋に籠もってりゃいいじゃないですか」

『別に、三葉みつばとはまだそういう関係じゃないから』

「『まだ』ぁ!?」

「あっあの……お、お泊まりってどうなったんですか……」

「そうそう、そっちの話の方がまだ需要あるんじゃないですか? ていうか順番的にその話をする回でしょ」

『何だよ順番って。いや、いくらボクでもそんなプライベートの話を動画で切り売りするワケないじゃん』

「そんな急にマジレスされても……」

『心配しなくても公序良俗に反するようなことはしてないよ、イツキと違って』

「俺がいつ公序りょうじょ……クソッ知ってても噛む……りょ、う、ぞ、くに反する事したって言うんですか」

『学校の屋上に勝手に入ったりとか……』

「そんな昔のこと誰も覚えてませんよ」

「あっ……わっ私との思い出の時間を忘れちゃったんですか……?」

「お前が霊界コンサートの妄想でニヤけてたのはよーく覚えてるけど」

「あっふふ……あっあの時のイツキ君はほんとにカッコよくて……ヒーローみたいでした……」

「やめろやめろ、恥ずかしい。ほら、アミカさーん、『馴れ初めを回想する』って恋人らしいことしたんで、部屋出ていいですかー」

『ちょっとパンチが弱いかな……イツキが馴れ初めを覚えてなくて、スネたちえりが三日くらい口利かない、くらいやらないと……』

「イヤですよ、三日も幽閉とか」

「あっ幽霊だけに……」

「お前はちょっと黙ってような?」

「しゅん……」

「『しゅん』じゃねーんだよ、『しゅん』じゃ」

「あっ……恋人的な身体接触してくれたら許します……」

「別に許されなきゃいけないようなこと何もしてないんだけど……。てか、アミカさーん、そろそろ出ないと俺、明日の宿題やってないんですけどー」

「あっ私も……」

「じゃ一緒にやるか……。ほら、ダウナーガールさーん、『部屋で一緒に勉強する』って恋人らしいことするんで出してくださーい」

『順序が逆転してるじゃん。まあいいか、ボクもそこまでヒマじゃないから、もういいよ』

「この人は……。歳上じゃなかったら『コイツ……』って言ってるとこですからね」

「あっ……じゃあイツキ君、起こしてください……」

「何その手……。甘えてないで自分で立ちなさい」

「あっ、甘えてもいいじゃないですか……恋人らしいことをする部屋なんですから……」

「……いや、ドキっとさせるなって。前髪切ったお前の上目遣いは攻撃力高ぇーんだから」


「ふふっ……あっアミカさん、ほら、手握ってもらったので……条件クリアですね……」

『うむ、頑張ったね。褒めてつかわす』

「お前、さては最初からここを落とし所として狙ってやがったな……?」

「あっ……私は最初から恋人らしい身体接触としか言ってませんよ……。ふふっ、イツキ君は何を思い浮かべたんですか……」

「マジで除霊してえ……。ってかアミカさん、今更ですけど本当に表に出すわけじゃないですよね、これ」

『まさか。お店のお客さん向けの限定上映用だよ』

「冗談だろ……」

『ちえりに変な虫が寄ってこないためにも、彼氏の存在を明確にしとくのは悪いことじゃないでしょ』

「だからって俺を晒し者にしてオーバーキルする必要があるんですかね……」

『劇場版・幽霊少女――宮島イツキを処刑せよ』

「この夏は映画館でホラー泣き! したいですよ、マジで……」

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