閑話 自称幽霊少女にピアノ弾かせてみた

『はい、神月しんげつアミカだよ……。今夜も絶好の心霊日和びよりだね……』


『今回はここ、●●町の廃病院に来てるんだけど……いかにもなロケーションでしょ? 実はね、本当に出るんだよ。最近ボクが知り合った自称幽霊少女がね……。そう、あくまで自称だから、ヤラセとか偽装表示とか言って炎上させないで欲しいんだけど……』


『その子はね、ちょっと生きてる人と喋るのが苦手なんだけど……そのかわり、ピアノがとても上手なんだ』


『その子も皆に聴いてほしいって言うからさ……呪われたと思って……じゃない、騙されたと思って聴いてあげてよ』


===


「……なんか、ほとんど新月にいづきさんと変わんないですね」

「あれ、イッツー、トモの動画見たことなかったの?」

「サムネはよく見かけますけど、中身までは。だって俺らがこの手の動画見たってしょうがないじゃないですか」

「まあ、ホンモノを知ってる立場としてはねー。でもトモの心霊トーク、結構面白くて人気なんだよ」

「実際、俺のクラスでも知ってる子何人もいましたからね」


「あっ、出た、ちえりちゃん」

「おぉ……。なんか、マジの幽霊みたいに見えますね」

「ホントにねー、って言っていいのかわかんないけど。そういえば本人は今日はどうしてるの?」

「知りませんよ。別に休日まで一緒にいるわけじゃ……」

「一緒にいてあげなよ~、カ・レ・シ・さん」

「だから何なんですかそのノリ。ほら、ちえりのピアノ聴いてやりましょうよ」

「現地でいっぺん聴いてるけどねー。それにしてもホントに上手いね。ピアニストとかなったらいいんじゃない?」

「なんか、このくらいの腕じゃ全然ムリって言ってましたよ」

「え~ウソ。じゃあ、それこそガールズバンドのキーボード担当とか」

「アイツにそんなアクティブな趣味が務まると思います?」

「んー、まあ思わないけどさ。でも、あたし達と絡んでる内に、ちょっとでも人付き合いに前向きになってくれたら嬉しいよね!」

「姉弟子に絡まれ続けてる俺は、別に人付き合いに前向きになってませんけど」

「うーん、誰の教育が悪かったのかなあ……」

「あ、ちえりがなんか喋りますよ」


===


『あっ……ふふっ、わっ私のこと見えるんですね……。自称幽霊でどうもすみません……』


『わっ、私みたいな成仏しそこないの人面犬じんめんけん以下が……人気アーティストさんの曲を弾いてみちゃったりして……ふふっ、こんなの、泣ける名曲ならぬ、名曲が泣いてる系動画ですよね……。ふっ風評被害になっちゃったら、死んでお詫びを……あっもう一度死んでるから……もういっぺん死んだらどうなっちゃうんでしょうね……』


『あっ、えっと……なんだっけ……そう、こんなポルターガイストのなりかけみたいな演奏でよかったら……まっまたお耳汚しさせてもらうかもしれないので……ふふっ、みっ皆さん、アミカさんのチャンネル、登録して待っててくださいね……』


===


「あのキャラでチャンネル登録のお願いしてんのがシュールすぎる……」

「でもスゴイ伸びてるじゃん、この動画。コメントもいっぱい付いてるよ、『幽霊ちゃん可愛い』とか『前髪の下は超絶美少女に違いない』とか……」

「まあ、わざわざ可愛くないのを想像する人はそんなに居ないでしょうけど。……ってか、収録中にやってた変なインタビューみたいなの、結局動画には入ってないんですね」

「あー、あれはイッツーのためだけに撮ったやつらしいからー。ふっふっふ、データあるけど見たい~?」

「何ですかその含み笑い。見せる気満々じゃないですか」

「そりゃあね。あたしも何話してたか気になるし」

「あれ、姉弟子もまだ見てないんですか」

「ちょっと? あたしのこと、イッツーのためにって送られてきた動画を抜け駆けで見るようなヤツだと思ってんの!?」

「違ったんですか?」


===


『ねえ、ちえり』

『あっはい……!? えっ今撮ってるんですか……』

『これはオフレコ。後でイツキと鈴鳴りんなに見せる用。あともしかしたらマオさんも見るかも』

『そ、そうですか……』


『ちえりはさ、イツキのどこが好きなの?』

『ひぇっ!? あっ、そっその、そそそそういうのは私、よくわからないのでっ』

『わからないのに付き合ってるんだ?』

『あっいえ……わ、わからないなりに……そういう相手は、ずっと欲しかったっていうか……』

『その相手って、男子じゃなきゃいけない?』

『ふぇっ……?』

『男なんてつまんないよ、ちえり。それよりボクに飼われない?』

『へっ!? かっ、飼わ……!?』


===


「ちょっと姉弟子、何言ってるんですかこの人……?」

「あはは……まあ、トモはこういう立ち回りがハマるよね」

「実際誰か飼ってたことがあるんですか?」

「さあ? あたしの知る限りでは口先だけだと思うけど……」


===


『あっ……』

『ん?』


『……わっ、私は……イツキ君がいいので……』


===


「あっイッツー、さりげに初の名前呼びじゃない!?」

「……」

「どしたの? 照れてるの?」

「……いや、その、ナイト呼ばわりじゃなくてよかったなと」

「照れてる照れてる~」

「背後霊並みにウザいんですけど……」


===


『それ、イツキに助けられたからそう思ってるだけでしょ。ボクが助けたらボクに惚れてた?』

『あっ……そ、それは、わからないですけど……』


『あの人は……はっ初めて、私を見つけてくれて……』


『初めて……私の本音を、聞いてくれた人だから……』


『ふうん……。それで本気で惚れちゃったんだ』

『あっ……そ、そうですね、そういう言い方が正しいなら……そういうことになりますね……』

『ちえりは素直で可愛いね。今の話、イツキに聞かせていいの?』

『……はっ、はい、こんな話でよかったら……。わっ、私、話すの苦手で……自分の口からじゃ、きっと言えないから……』

『オーケー、ちえり。ボクに任せな』


===


「イッツー、めっちゃ赤くなってるじゃん」

「へ、へえ、霊障じゃないですか? どっかに霊能者のツテとかありません?」


===


『――というワケだよ、イツキ。現地でも言ったけど、ちえりはガチで君に惚れてるみたいだからさ』


『イツキみたいな陰キャのチェリーボーイにはまたとない僥倖ぎょうこうだと思って、大事にしてあげないとバチが当たるよ。じゃあ、卒業報告を楽しみにしてるから』


===


「……なんで最後に俺のことディスった上にセクハラかましたんです? あの人」

「まあまあ。でもイッツー、よかったじゃん、ちえりちゃんの本心がわかって!」

「よかったというか、何というか……」

「照れるな照れるな、若造~」

「歳一個しか違わないでしょ!? ……あれ、通話来てる」

「おやおや、まさか~?」

「そのまさかですね……。もしもし?」


『あっ……ふふっ、私チェリーさん……。いっ今……あ、あなたのマンションの前にいるの……』

「アポイントって概念知ってる?」

「やっほーちえりちゃん、鈴鳴だよー」

『あっえっ……り、鈴鳴さんと、ごごご一緒だったんですか……わっ私というものがありながら……ふっ二人きりで……』

「そんなんじゃねーから。ちょっと動画見てただけだって」

『あっふふっ……そっそうですよね……お二人のお楽しみ中のところ、アポも取らずに押しかけちゃう迷惑系ゆうチューバーですみません……』

「そのフレーズ今思いついたなら凄くねえ?」

「だいじょーぶ、ちえりちゃん、すぐ下に迎えに行かせるから! それでおジャマなあたしは退散するからっ」

『あっ……すすすみません、別に鈴鳴さんがイヤってわけじゃっ』

「いいのいいのっ、そろそろ帰んないとお姉ちゃんが寂しがるし。じゃ、イッツー、しっかりちえりちゃんの相手してあげるんだよ?」

「はいはい。じゃあ、今降りるから待ってな、チェリーさん」

『あっふふっ……私チェリーさん……。今日は、お、お買い物、付き合ってほしいの……』

「次からはせめて家出る前にラインで言っとこうな……」

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