第11話 陽キャクイーン襲来
俺とちえりが招かれるがまま廊下に出ると、
「急に呼び出しちゃってゴメンね?
「あっ……ははははい……?」
面識のない陽キャクイーンに名指しで呼び出され、死に上がり女子は体を硬直させて震え上がっている。
ラメを振りまいたように明るい髪色と、カラコンでも入っているのかと疑いたくなるキラキラした瞳。ウチの
俺程度でさえ自分とは住む世界が違うと感じるのに、まして隣の陰キャオブ陰キャの目には、こういう子は一体どう映ってるんだろうな……。
「私っ、B組の
「あっ、えっ……あっ浅桜ちえりです……」
決まり文句になっていそうな自己紹介を楽しそうに繰り出してくる四月一日さんと、名乗り返すのが精一杯のちえり。
続いて、四月一日さんが如才なく俺の方にも視線を向けてくるので、ひとまず選手交代と思って俺は口を開いた。
「こないだはどーも。おかげで助かったっていうか」
「助かった? ……あっ、宮島君が浅桜さんと仲良くなってるのって、もしかして私の話が切っ掛けだった? 嬉しいなっ、どういたしましてっ!」
弾むように言葉を浴びせてくる陽キャクイーン。
まあ、この子が言う噂とは若干違う部分もあったけど……。どうあれ、彼女のおかげで一足飛びに浅桜ちえりの入院の件に辿り着き、なんだかんだでスピード解決に繋がったのだから、何はともあれ感謝はしておかないと。
と、そこで隣に目をやると、ちえりは相変わらず棒立ちの姿勢でカタカタと体を震えさせていた。
「大丈夫か?」
「あっ、はい……か、かろうじて前髪で陽キャオーラを遮蔽してるので……」
「それってそんなゴーグル的な意味合いなんだ」
そういう変なセリフを考える余裕があるなら大丈夫かな、と思ったところへ、四月一日さんから思わぬ追撃。
「浅桜さんと宮島君、よかったら私達と一緒にお昼食べない?」
「あっひひひぃ!?」
「お弁当持ってきてる? 二人とも、ここの学食まだだったら案内してあげるわねっ」
悪霊の一、二体なら吹き飛ばせそうな「陽」の気の熱風に、俺達が抗えるかどうかは……まあ、お察しだった。
ほら、「断れるようならコミュ障とは言えない」なんて、有名な格言もあるくらいだし?
***
そんなわけで、多くの生徒でごった返す学食に初めて足を踏み入れた俺は、ちえりと二人、陽キャ女子数人に取り囲まれて昼食をご一緒することになったのだった。
「あっ……ごっごごごご用件は……?」
いただきますの挨拶も早々に、意外にもちえりは自分から四月一日さんに尋ねていた。付いていけない雑談をガンガン振られるよりはまだ負担が軽い……というコイツなりの判断なのかもしれない。
「それねっ。歓迎会ってほどじゃないけど、宮島君の転入と浅桜さんの退院を祝ってカラオケ会とかどうかなって。もうA組の皆がそういう企画立ててたかしらっ?」
「いや、幸か不幸か、何も言われてないけど……」
「そうなのね、じゃあ私達とA組の子達で企画しちゃうわねっ」
語尾の全てに小さい「っ」が付いていそうな勢いで、こっちの意向なんて確認するまでもないとばかりにポンポンと話を進めてくる陽キャ代表。周りの友達も普通に楽しそうに頷いている。
きっとこの子達は、カラオケだの歓迎会だのに誘われたら誰だって喜ぶはずだって一切の悪気なく信じてるんだろうな……。残念ながら、それに当てはまらない人類代表みたいなのが俺の隣で弁当広げてるんだけど……。
「あっ……そっ……しっ……」
「浅桜さん、なぁに? 阿蘇市?」
箸を持つ手を硬直させ、相手の目を見られないまま声にならない声を絞り出しているちえり。たぶん今のは「あっ、それは勘弁してください、死んじゃいます」か何かの略だろう。
「四月一日さん、申し訳ないんだけどコイツ、人が多い場所とか苦手みたいだから……」
見かねた俺が代理で意思表示すると、四月一日さんは意外にもあっけらかんとした調子で「そうなの?」と答え、にこっと笑って言った。
「じゃあ、宮島君と浅桜さんと私の三人だけだったらいい?」
「はい?」
「それもカラオケなんて言わないから。放課後お茶するだけでいいからっ」
胸の前であざとく手を合わせ、懇願の視線を送ってくる四月一日さん。その友人達は特に気にする様子もなく、楽しそうに俺達の会話を見ながら食事を続けている。
まあお茶くらいなら大丈夫かな……とちえりを見たところで、なんだか数時間前にも似たようなセールス手法を見たような気がした。陰陽問わず流行ってるのか……?
それにしても、この子はなんでそこまで熱心に俺達を誘ってくれるんだろう。ご
「だって浅桜さん、音楽室の幽霊を見たんでしょ!? それって心霊体験ってやつじゃない!?」
俺が尋ねるより先に、四月一日さんは身を乗り出して理由を述べてくれた。ああ、そういう話になってたんだっけ。
「二人が仲良くなったのも、つまりは心霊繋がりなのよね?」
「まあ間違ってはないけど……」
「ねっ、心霊ファンの宮島君が転校してくるのと時を同じくして、浅桜さんも退院してきた……これって何かの運命だと思わない!?」
運命も何も、そこは普通に原因と結果がダイレクトに繋がってるんだけど……とは、さすがに漏らせないが。
そこで四月一日さんは、紙パックのジュースを一口飲んで、目を一層キラキラさせて言った。
「私ねっ、浅桜さんの体験談をアミカさんに持ち込んだらいいと思うのっ」
ほら来た、本命の
「だって、幽霊を目撃して生還した浅桜さんと、アミカさんの友達の宮島君、それにアミカさん推しの私っ、このメンツが同じ学校に揃ったなら答えは一つじゃない!?」
「別に友達ってほどじゃないんだけど……」
というか、それキミ要る?というのは一旦置いといて。
浅桜ちえりの真実も、神月アミカの素性も知っている俺としては、申し訳ないけど目の前のキラキラ女子がちょっと滑稽に思えるのだった。「またしても何も知らないワタヌキさん」なんてキャプションを付けられないかが心配なくらいだ。
ちなみに、ちえりはアミカの名前が出てからずっと、首を三十度ほど傾けた姿勢で固まっている。陽キャ女子の一人が「おーい?」と目線の前で手を振ってあげていた。
そんな間にも、四月一日さんはハイペースに声を弾ませ続ける。
「正直に言っちゃうとねっ、私、二人を通じてアミカさんとお近付きになれたらいいなって思ってるの。もちろん、二人とお友達になりたいのもホントよ?」
「あぁ、うん……」
そこまで丁寧にフォローしてくれなくても、キミが悪い子じゃないのは分かってるんだけどさ。
「いやあ、でも、憧れは憧れのままにしといた方がいいんじゃ……」
一目でドキッとさせられたスリーピング・ビューティの中身がコレと知って、心のジェットコースターを味わったばかりの俺が言うんだ、説得力あるだろ。
と、そこで、ようやく三途の川から戻ってきたかのように、ちえりがボソッと口を開いた。
「あっふふっ……そっその幽霊って、実は私なんです……」
「え? 何の話?」
おいおい、と俺が止める
「あっその……音楽室の幽霊っていうのは、じっ実は
「よくわからないけど、浅桜さんの冗談ってあんまり面白くないわねっ」
笑顔を絶やさないままの陽キャクイーンの言葉に、本日二度目の「ガーン」が耳に響いた気がした。
「でも、笑わせようとしてくれてありがとね?」
と、悪気のカケラもないキラキラオーラをナチュラルに送ってくる四月一日さんだったが、ずぅんとテーブルに突っ伏した陰キャにはもう届いていない。
なるほど、突き抜けた明るさは時に残酷さにもなるのか。俺も覚えておこう……。
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