お出かけの付き添い(3)
子供達との遊びは昼過ぎまで続いた。
男の子達とのボール遊び、女の子達とのおままごと。子供らしく庭を駆け回りもした。
皆、心の底から楽しそうに笑っていた。
その間、俺達保護者は庭に備え付けられた長椅子に腰掛け、ゆったりとその様子を眺めていた。
騎士として人や魔物と戦うのが日常となっていた俺は、子供達が遊ぶ様子を眺めて微笑んでいたらしい。マギサに指摘されるまで気付けなかった。
俺は平和な光景を人知れずに望んでいたんだ。
だから、今この時がどうしようもなく平和に見えて、自分でも気づかないうちに口元が緩んでしまったのだろう。
「そろそろ昼飯の時間ですよ」
神父様の言葉を最後に遊びは終わり、子供達は残念そうにしながらフィーナにお礼を言っていた。
よほどお腹が空いていたのだろう。
子供達は一斉に食堂へ走って行き、すぐに姿が見えなくなってしまった。
神父様から一緒に昼食のお誘いはあったのだが、意外なことにフィーナはそれを断り、後日また来るとだけ約束を交わして教会を出ることにした。
その後の予定は特になく、寄り道せずに酒場へ帰ることになった。
鼻歌交じりに歩くフィーナを先頭に、俺達は人で混み始めた昼時の城下街を歩く。
「誘いを断ってよかったのか?」
「……ん? ただでさえお金が厳しいのに、私達までご馳走になるのは悪いでしょ?」
その言葉に納得する。
建物の修復に回す資金すらない教会でご馳走を頂くのは、たしかに悪い気がする。
あちらは気にしないと言うだろうが、やはり遠慮したほうがいいだろう。
ただ、神父様の誘いを断った理由は何もそれだけではないようだった。
「他所でご飯食べて来た〜……なんて言ったら、ルティナが拗ねちゃうし」
「そうなのか?」
「前にマギサが仕事の付き合いで外食した時は『私が作ってあげたかったのにぃ!』って拗ねてたよね?」
「ええ、それから三日はご飯を作ってくれなくて。お願いしても『外で食べれば?』……なぁんて言われちゃって。本当に大変だったわぁ」
マギサが珍しく遠い目をしていた。
そんな表情だけで、当時の大変さがよくわかる。
「……俺も外食は控えたほうがいいだろうか?」
まだ入ったばかりとはいえ、俺も酒場の一員になったのだ。
なるべくルティナの作った料理を食べるようにしたほうが、後々面倒事が起きなくて済むのだろうか。
「どうだろう……アル君はまだ入ったばかりだけど……」
「念の為に控えたほうがいいかもねぇ」
「そ、そうか……」
無料で他の店以上に美味しい料理を食べられる。毎日だ。
それが美少女の手作りとなれば、それは女性だろうと男性だろうと独身には嬉しい限りだ。騎士団の同僚にこのことを自慢したら、指をくわえて羨ましがるに間違いない。
「……ん、んん〜! はぁ……それにしても、すっごい久しぶりに早起きしたから疲れちゃったな」
フィーナが大きく背伸びをしながら、再び眠気が襲って来たのか欠伸を一回。
「でもまぁ、楽しかったよ。やっぱり子供達との触れ合いってのは、いいものだ」
妙に年寄り臭いことを言うフィーナだが、その表情は心底満足しているようだった。
側から見ていても彼女を含めた子供達は生き生きとしていて、見ているこちらとしても微笑ましい光景だった。
「楽しかったか?」
「うん? ──うんっ! 楽しかったよ!」
「そうか……そんなに楽しかったのなら、今度はミュウも連れてくればもっと楽しいだろうな」
その瞬間、フィーナとマギサの雰囲気が一瞬にして切り替わった。
今までのほのぼのとした空気ではなく、糸が張り詰めたような緊張感のある空気に変わったのだ。
「あ〜〜…………」
フィーナは困ったように、ぽりぽりと頬を掻く。
「ねぇアルファスト。フィーナの習慣について説明した時、誰かが彼女の付き添いをするって言ったでしょう? ……でも、ミュウだけは絶対に連れて行かない決まりなの」
「え……なぜだ?」
「ミュウと教会には、昔から深い因縁があるんだよね。だからミュウは教会や孤児院には近付かないし、私達もあの子を絶対に近付かせないって決めているの」
「アルファストも私達の仲間になるのなら覚えておいてね。……あの子、根はしっかりしているけれど、まだ子供だから」
これはミュウには内緒ね。とフィーナは人差し指を口に付け、ウィンクをした。
ミュウにとって大事なことなのだろう。
何があったのか気になるところだが、他人のトラウマを無理に聞き出すのは好きではない。
「ああ、肝に命じておこう」
そんな俺個人の興味よりも、仲間の心情のほうが大切だ。
確かな意志を持ってそう答えると、フィーナは嬉しそうに「ありがとう」と微笑んだ。
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