DAY? マッシモ・ゴディグラーグの場合2
アドルーさんは、さっきのポーション作成で使った魔法陣を改めて並べて説明してくれた。
「魔法陣を作るには、当然ながら、必要な要素を学ばないといかん。必要な要素を、適切な位置にちりばめて、規定量の魔力を流すことで、魔法陣は求められた動作をこなす」
たぶん、パソコンとかスマホとかの基板やCPUとかメモリの関係に置き換えられるよねと想像した。
魔法陣がカーネルで、錬金鍋がOSなのかな?いや、ゴーレム・コアに焼き付ける機能とか、錬金術で構築して実現する何かを分担/分業させてる感じか。
魔力は、電気と、あと不思議現象を起こすのに必要な動力源。
浄水を作る時の魔法陣はとてもシンプルで、水の中から不純物を除くというのが基本機能。細かな付け足しとして、除いた不純物を、魔法陣に一番近い、錬金鍋以外の容器へと移動させる機能が記載されてた。
ガラス管のは、三種類の素材を混ぜ合わせ、適切な流体にする。
ポーションの液体部分のは、薬草の粉末と浄水と魔力とを適切な濃度の液体として混ぜ合わせる為の物。
魔法陣が適切に描かれてないと、素材や手順が適切でも、完成品の品質や効果が落ちたり、構成や生成そのものが失敗したりしてしまうそうだ。
ということで、初歩のポーション作成に必要となる魔法陣の模写から始めることとなった。
魔法陣に描かれた記号は、元素記号に置き換えるとわかりやすかった。
細かい短文みたいのは、パソコンとかのコマンドが近い。出す、入れる、混ぜる、除く、とかいくつもの定型文を教えてもらった。
4種類の魔法陣を何枚も普通の紙に転写する内に、レベルがまた一つ上がって6になり、ユニークスキルのクールタイムは10分に短縮された。
「ふむ。飲み込みが早いのう。
では、望み通り、次の段階に移ろうか」
アドルーさんは、転写した魔法陣の出来映えに満足がいったようで、中庭の様な場所に案内してくれた。
「土のゴーレムを作成する場合、岩のでも似たような物だが、地面に魔法陣を描き、中心にゴーレム・コアを置く。
そして魔法陣とコアに魔力を通して、起動を念じれば、ゴーレムは構築される」
アドルーさんはどこからか魔法の杖みたいな短杖を取り出して魔法陣を地面に描いた。
「地面に描いてるのに、円とか文字が歪んでませんね」
「記憶にある図形と記号を、魔力で地面に描いてるからの」
「それには、アドルーさんが使ってるような魔法の杖が無いと無理ですか?」
「無理では無いが、少しばかり難しいかもな。
緊急時などは、木の枝や指などで地面に描くことで代用もできる。ただ、さっきのポーションの品質の話と同じで、魔法陣が正確で無くなる分、性能が落ちたり、構築に失敗したりすることもある」
「そしたら、魔法の杖と、ゴーレム・コアも自作できるようになっておいた方が良いですよね?」
「まあ、素材の件もあるので、いったんはゴーレム構築の流れを見ておけ」
「はい」
アドルーさんは、地面に描かれた魔法陣の文字や記号の解説をしてくれた。
「ゴーレムも定型が出来ておる。
魔法陣の機能を要約すると、ゴーレム・コアを中核として、土を人型に形成し、ゴーレムの主の命令に従え、といった内容だな」
土の記号、集約、圧縮、形成などのコマンド短文などが一つずつ解説されていって、細かいゴーレム操作に関しては、コアの方に記述されているとのことだった。
「コアの方に書き込めば書き込むほど、より詳細な自立駆動も可能になるが、土ゴーレムは基本的にその場での使い捨てだからな。
コアに書き込む命令文も、主人の命令に従えといった最低限の物が多い。あとは、最低限の単純な命令を自立して実行できるようにするものを必要に応じて追加していく感じだな」
コアは、魔力結晶と呼ばれる物の内側に、アドルーさんが解説してくれた魔法陣や命令文が細かく書き込まれていた。
コアを魔法陣の中心に置き直し、魔力を魔法陣に流し込むと、コアを中心に土が盛り上がっていき、一分、いや30秒もかからずに、身長2メートルくらいの土ゴーレムが構築された。
「すごい、すごいです、アドルーさん!」
「ふふふ、そうだろうそうだろう?
ちなみに、こんなことも出来るぞ?」
アドルーさんがさっと杖を振ると、土ゴーレムがアドルーさんを抱え上げて、ゴーレムの頭部にあたる部分に肩車状態でマウントした。
アドルーさんがゴーレムの後頭部に手を触れると、土ゴーレムの、ずんどうな外見からは想像もできないような、軽快な踊りを舞ってみせてくれたりもした。
自分が思わず快哉を叫びながら拍手してると、アドルーさんはまんざらでもない笑顔を浮かべた。
「初心者用のゴーレムに仕込めるのは、主を追随したり守らせたり、敵を倒せとか、あるいは単純作業をいくつかで上限に達するが、ゴーレムコアに指令を届ける魔法陣を組み合わせることで、より直接的な操作も可能になる」
「やってみたいです!」
うわー、うわー、うわーっ!
この世界に来て良かった!
「土ゴーレムは、ゴーレムの中では最も脆い存在ではあるが、地面と接していればすぐに素材を吸い上げて補修もできるし、駆動する為の魔力もほぼ最低限で済むなど利点も多い」
アドルーさんは、ゴーレムに自分を下ろさせた後、また杖を一振りしてゴーレムを土くれに戻し、その中からゴーレム・コアを拾い出した。
「まあ、このように後片付けも至極簡単だしな」
それからぼくはアドルーさんに至近距離まで迫りまくり、初級魔法杖と初級ゴーレムのコアと魔法陣の作り方を教わった。
初級魔法杖は、体に流れる魔力を流し込みやすい性質を持つ木の枝に、小さな魔力結晶をとりつけて終わりだった。
凝るのなら、魔法陣を魔力結晶に仕込んだりとかすれば、魔法の威力を上げたり、魔力結晶に貯めておける魔力の量を増やしたり出来るらしいのだけど、お試し版ということで、そこは今回割愛しておいた。
そしてゴーレム・コア。
これは野球とかで使うボールくらいの大きさがある魔力結晶に、ゴーレムとして持たせたい機能を書き込んだ魔法陣を仕込んだ物だった。
そもそもな質問として、魔力結晶って何?、と疑問に思ったので、ユニークスキルの<分析>を使ってみた。
日本発祥の異世界ファンタジーものだと、魔石として知られてる存在というのは想像できたけど。
魔力結晶
その名の通り、魔力を結晶化させた物。
魔法陣や、魔道具などの動力供給や制御装置などに広く用いられている。
魔力結晶の多くは、魔力が豊富な坑道から採取される。希に魔法生物から採取されることもあるが、魔法生物の核を破損させないと採取できないことが大半なので、資源の採取方法としては一般的ではない。
「ちなみになんですが、アドルーさんのそのゴーレムコアくらいの魔力結晶って、入手難度というか、どれくらいなんですか?お値段でもいいですけど」
「これは、土や砂、もしくは岩くらいまでのゴーレムのコアとして単純作業などに使う為に構築する物だからな。そう高くはない。素材としても普通に錬金術師ギルドで購入可能だ。たしか、千ダルくらいだったかな」
「千ダル・・・」
「持ち合わせが無いか?」
確か、この世界に来てチュートリアル開始時に、手持ちの千ダルを、講習と教材費用として支払ってからっけつになってた、ような・・・。
ステータス画面を見ても、所持金は、ゼロだった。
ちなみに、通貨価値として、1ダルが、元の世界の1ドルくらいというのは、なんとなくな感覚でわかった。
ばつが悪そうにうなずいた自分に、アドルーさんは小銭稼ぎの仕事を斡旋してくれた。
錬金術の初歩を学んだけれど、素材などを購入する元手を持たない貧乏な駆け出し達の為の、バイト。
純水1グァロ:100ダル
ポーション用ガラス管1本:2ダル
初級ポーションの薬草すりつぶし:ポーション1本分につき、3ダル
初級ポーション:1本につき10ダル
「純水の1グァロってどれくらいの量なんですか?」
「おおよそ、ポーション用のガラス管100本分だな」
「ガラス管1本分につき、1ダルと考えると、割は良くない、のかな?」
「純水は中級や上級錬金術でも使うからな。作っただけギルドが買い取ってくれる。魔法陣も専用の中級錬金鍋もこちらで用意する」
「つまり、労力と魔力への対価ってことですか?」
「そうなるな」
ポーション用ガラス管の容量がだいたい20ミリリットルくらい。その100倍だと、2リットルくらいか。
物は試しと、専用の魔法陣と中級錬金鍋を借りて、井戸水を汲んできて規定量を入れ、魔力を流してみた。
初級ポーションの百本分の容量ということで、ほんのちょっと疲れた感じはしたけど、まだまだいけそうだった。
「これまでも魔力切れを起こしていないということは人よりも多めなんだろうが、無理をしてはいかんぞ」
そんな忠言を聞きながら、1グァロの浄水専用容器に大きめなスポイト的道具で中身を移し、詮をして出来上がり!
時間として10分もかかってなかったので、アドルーさんの目を盗んで、ユニークスキルの<取得>を使ってみた。
<取得>した対象は、ゴーレムを構築する為に、一番高くつく素材。
自分がイメージした通りの大きさの魔力結晶が手のひらの中に出現した。
うれしかったけど、さっきの浄水の数倍の何か、たぶん魔力がごっそり失われた感覚があった。
つまり、自分の身の丈に合わない何かを望んだら、それだけの魔力が代償に求められるってことかな?
それからは、休み休み浄水を作り続けてると、レベルがまた一つ上がって、7に。ユニークスキルのクールタイムは9分になった。
浄水を中鍋で都合5回ほど作り終えて、一息ついてると、席を外していたアドルーさんが戻ってきたので相談してみた。
「あのー、そういえばなんですが、魔力結晶、親戚の叔父さんからもらってたの思い出しました。これ、使えますかね?」
なんとも苦しい言い訳だったけど、笑ってごまかすことにした。
アドルーさんは、自分を疑わしそうに見たけど、さっき土ゴーレムに使った魔力結晶をどこからか取り出して、ぼくが出したのと比べて言った。
「うり二つな大きさだな。重さといい、内包する魔力量といい、申し分無い」
「あは、あははは。それだけ、期待してくれたんですかね?」
「・・・その叔父さんとやらに感謝しろよ。なら、俺がこの魔力結晶に仕込んでいる魔法陣も見せてやろう」
魔力結晶に仕込む魔法陣は、魔力の制御、構築した術者からの命令に応える為の駆動制御、破損した時に地面から素材となる土を自動的に補給して修復を行う補修機能、おおきく分けるとその三系統だった。
魔力結晶の大きさが約7センチくらい。
直径6センチくらいの魔法陣を魔力結晶に転写する為の魔法陣というのも貸してもらえた。これは中級錬金術師なら作れる物らしい。
「ゴーレムの大きさだが、さっき見せたのはお前にはたぶんまだ大きすぎる。半分くらいにしておけ」
「ええ~!?ぼくだってゴーレムに乗せてもらいたいし、操縦だってしたいですよ!」
「ゴーレムは大きくなればなるほど、制御にも駆動にもより多くの魔力を必要とする。お前なら構築までは出来るだろうが、長時間稼働させるつもりなら、魔力切れになるぞ?それは戦闘時には命取りになる」
「・・・後から、魔力結晶に仕込んだ魔法陣の一部を修正することは出来ますか?」
「可能だ」
「なら、構いません」
そんな訳で、ゴーレムのサイズこそ1/2に縮小されたけど、三枚の魔法陣を無事魔力結晶に仕込むことに成功。
アドルーさんにもらったゴーレム構築用の魔法陣の下書きと魔法の短杖を手に中庭へ移動。
地面にゴーレム・コアとなる魔力結晶を置き、魔法の杖で魔法陣を地面に描こうとしたところでいったん止められた。
「手順としてはどちらが先でも構わないのだが、一瞬で魔法陣を地面に描けないのなら、ゴーレム・コアを置くのは後にしろ」
「なんでですか?」
「ゴーレムを戦闘用に使うつもりがあるのなら、急いで構築しようとしてるということは、敵が間近にまで迫ってる状況だろう?」
「そっか。魔法陣を描いてる間にコアを壊されたら痛いですもんね」
「そういうことだ。魔法陣なら何度でも描き直せるが、ゴーレム・コアはそうはいかない。魔力結晶の予備をたくさん用意するのも手間と金がかかるからな」
「ゴーレムを休止状態にしておくのはだめなんですか?」
「警備用のゴーレムならそうする。命令があるまで待機させる感じだな。だが、その場合は、敵が一定距離にまで近づいたら起動するといった魔法陣や、敵と味方を判別する為の機能もまた魔法陣で、ゴーレム・コアに仕込まなければならない」
「だったら、必要な時だけ、作ったり消したりした方がお手軽ということですね」
「そういうことだ。先ずは、ゴーレムを構築する為の魔法陣を一息で正確に描けるようになることだな」
自分の中には、どうやるかもイメージが既にあった。
本当はコピペの様にすべての図形と記号と命令文をいっぺんに地面に転記できれば楽だったのだけど、それはたぶんまだ出来ないようなので、次善の策として、レーザープリンターをイメージした。
アドルーさんがやってた時もそんな感じで、杖の先から見えない光か何か、魔力なんだろうけど、それで地面に正確な魔法陣を描いていた。
何度かダメ出しをもらって描き直しをしながら、1分くらいかけて、何度も連続して正確な魔法陣を描けるようになったら、ゴーレム・コアを地面に置いて、魔力を流し込んだ。
土がコアに向けて堆積していって、人型へと盛り上がっていき、ぎゅっと身柄が引き締まるように圧縮されて、ゴーレムが自立した。
感動で言葉を失ってる自分に、アドルーさんが言った。何か命令してみろと。
「えーと、そしたらついてきて」
ゴーレムは返事を返してきたり、うなずいたりもしなかったけど、自分が歩いた後ろを、前に倒れても自分を巻き込まないくらいの間隔をあけてついてきた。
自分と同じくらいの背丈、130センチも無いくらいだけど、そんなゴーレムがついて歩いてきてくれるだけで、とても心強く感じた。
それから、穴を掘ったり埋めさせたり、アドルーさんが用意してくれた荷物の積み卸しをさせたり、獣型の小型ゴーレム相手に模擬戦で、倒せとか、守れとかいった命令を下した時の動作を確かめたりして、とにかく大興奮の時間だった。
およそ30分くらいの時間が経って少しだるさを感じた頃に、ゴーレムの構築を解除させられた。
「今日一日でだいぶ詰め込んだからな。これは明日以降の課題的なおまけだ」
地面に座り込んでる自分の前で、アドルーさんはしゃがみ込み、地面に右手の指輪の一つを押しつけた。
次の瞬間、彼の体を覆うように半円の土壁が出現していた。
「すごっ!なんですかそれ!?」
「ふふふ。土魔法の防御魔法を瞬間的に作れるようにした魔道具だ。これも錬金術で作れる」
アドールさんが見せてくれた指輪には小さな魔力結晶が嵌め込まれいて、その内側には魔法陣が仕込まれていた。
今度は自分が手元を見れる位置で再演してくれたけど、地面に魔法陣が転写された瞬間に、土壁が半円形に展開されていた。
「一度展開する度に指輪の魔力結晶に魔力を補給しなければならないが、使い勝手はとても良い」
「でしょうね!後でまた魔法陣を教えて下さい!」
「こちらは有料だ」
「くっ!がんばって稼ぎます!」
「良い心意気だ。その意気に免じて、もう一つおまけを見せてやろう」
アドルーさんは自分の隣に来て、地面に両手をついた状態を維持するよう指示した後、今度は左手にしている指輪の一つを地面に押しつけた。
すると、今度は直径2メートルほどの円柱が、高さ5メートルくらいで出現した。自分とアドルーさんをその上に乗せた状態で。
「さっきの土壁もそうだが、出現させる時の魔力でその効果を調整可能だ。この円柱も、最低限の魔力なら、太さと高さは今の半分に調整されているが、込める魔力を倍にまで増やせばこの通り。
そして、維持する魔力も込め続ければ、円柱を保ち続けて、この高さから攻撃し続けることも可能だ」
アドルーさんは右腕に仕込んでいた魔道具らしい小型の
「かっこいいです!アドルーさん!錬金術師すごいですっ!」
「はははははっ!かっこよかろう!すごかろう!?」
「はいっ!!」
みたいに、二人してテンション上がりっぱなしだったけど、円柱は1分くらいで解除されたけど、空中に放り出されるのではなく、ちゃんと地面にまで下ろしてくれる感じで消失した。これも魔法陣に予め仕込んである機能だそうだ。
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