DAY? マッシモ・ゴディグラーグの場合1

ストック切れと続きの構想でお待たせしておりました。

少し続きが書けたので、一日一個のペースで投下していきます。

ポイント評価・ブクマまだの方は、モチベ向上の為に、よろしくお願いします!

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「あれ、ここ、どこだろ?」


 気が付いたら、真っ白な、何もない空間にいた。

 壁も天井もない、ただひたすらに広いどこか。


「えっと、たしか・・・」


 気が付く前に何をしてたのか思いだそうとした。


「学校終わって、フリースのところに遊びに行こうとしてた、ような・・・」


 自然科学チャンネルの動画の話題で盛り上がって、そう、フリースが後ろ向きに歩いて、横断歩道の信号が赤なのに、そのまま・・・。


 ずきっ、と頭が痛んだ。


「車が、止まりきれなくて・・・」


 そう。

 自分はとにかくフリースを助けようと腕を引っ張ったんだっけ。


 その後、自分は・・・・・?


「そう、君は、友達を助けようとして、代わりに車にひかれてしまったんだよ」

「誰?!」


 目の前に、お医者さんみたいな誰かが、いつの間にか立っていた。

 白衣を着てるくらいで、顔はなぜかぼやけて見えなかったんだけど、声からすると、女性に思えた。


「私が何者なのかは、いったん置いておこう」

「どうして?」

「最終的には、君がこれからどうしたいか決めるのも、私が何を出来るのかを信じられるのも、君次第だからだよ」


 信じられないけど、目の前のお医者さんは、何もないところで浮いていた。


「翼は無いけど、天使様?」

「そういう姿が好みなら、頭に金色の輪っかを乗せることも出来るけど、たぶん君には不要だ」


 うん。まあ、そう言われればそうかもね。

 こんな不思議空間にいるとか、ふつうなら寝て見てる夢の中にいるとしか思えなかったし。


「君は、友達の代わりに車にはね飛ばされ、道路で頭部を打った。即死するほどの外傷は負わなかったから、救命措置はなんとか間に合った」


 そう言われたせいかもだけど、宙を舞う自分を思い出せた気がした。

 自分の背より高い視点から、フリースを見下ろしながら、やがて路面に・・・。


 ぱちっ、とお医者さんが指を鳴らしたような音が響いて、思考を断ち切られた。


「君の本当の体は、最寄りの病院に運ばれてから、救急病院でICUにつながれて延命されていた」

「過去形ってことは、死んじゃったんですか?」

「死んではいない」

「その言い方だと、生きてもいないんですか?」

「いわゆる植物人間状態だ。君ならわかるだろう」

「そうですか・・・」


 つまり、外部からの刺激に反応を返せない状態か。

 生きてるけど、死んではいないけど、そのまま一生を過ごしたいかというと・・・、微妙、かな。

 パパもママも優しいけど、そんなに裕福じゃないし、いつまでもそんな状態を維持できるかっていうと、無理だろうな。


「君のご両親は、なんとか君を取り戻そうと、とあるプロジェクトに参加することを決めた」

「どんなものなんですか?」

「君も、SF映画や小説などで、全感覚没入フルダイブ型のゲームなどに触れたことがあるだろう?」

「でも、まだ開発に成功したって話は」

「人類史上初めて、開発に成功した話があってね。そのαテスターとして、君はご両親によって登録された」

「・・・つまりここは、ゲーム空間ってことですか?」

「とりあえず、そう受け取ってくれてかまわないよ」

「とりあえず、って言葉は気になりますが」

「日本原産のアニメなどを見たこともあるだろう?誰かを助けようとして不慮の死を遂げた誰かが、異世界の神様に拾われて、新たな世界で人生をやり直す」

「ええと、いちおうは。

 って、もしかして、チートスキルとかをもらえるんですか?!」


 死んでる?生きてる?

 微妙な状態ぽいけど、胸がどきどきワクワクしてきた!


「体裁としては、君はαテスターの中でも、特殊な契約形態を結ぶうちの一人となる。チートスキルは、その代償とも言える」

「まあ、元の世界?では植物人間状態らしいですし、拒否権も無いですよね」

「君が望むのなら、死をもたらすことも可能だが?元の君のような脳や肉体が活動することもなく時間だけがただ過ぎていく一生をお望みなら、そちらを選択することも可能だ」


 迷うことなんてなくて、即答していた。


「ゲームか異世界転移かは、まあどっちでもいいです。でもαテストの後は、どうなるんですか?」

「君次第だね」

「ぼく次第って、何か交換条件ってことですか?」

「うん。これから行く世界は、その成り立ちから、他の世界と交わりやすくてね」

平行世界パラレル・ワールドってことですか?」

「平行ではないね。まるで似つかない異世界と、とある条件下で否応無しにつながってしまう。そんなこともあって、君みたいのをスカウトできたりもする訳なんだけど」


 AI?神様?ゲームのGM?

 まあ、どれにしろ、自分のこれからを左右できる存在なのは変わらなかった。


「そこで、何をすれば良いんですか?」

「移動しておよそ一ヶ月後、異界との門が開く。君は、君のユニークスキルを活かして、その異界からの侵攻に出来るだけ抵抗してほしい」

「えっと、ゲーム?ということは、死んでも蘇れるんですよね?」

「いちおうね。回数制限も無いよ」

「それと、ぼく一人だけじゃないですよね?ゲーム開始して一ヶ月後なんて、どんなゲームでも普通は初心者ニュービー扱いでしょうし」

「他のプレイヤー達もいるし、君のように特別な契約を結んだユニークスキル持ちもいるし、移動した先の世界の住民達は一丸となって、異界からの侵攻に対抗しようとする。君には、その手助けをして欲しい」

「わかりました。それで、ぼくに与えられるユニークスキルは、どんな物になるんですか?」

万能錬金術アルケミア・ウニバサーレ

「錬金術って、金を生成しようとした技術、でしたっけ?中世とかの科学の基礎になったというか、それでどう戦うんですか?」

「開始まで約一ヶ月というタイムリミットはあるけど、ほぼ何でも作れるユニークスキルだよ。とても、強力だ」

「・・・例えば、核爆弾とか?」

「原理は違うけど、似たような威力を持つ何かを作ることは出来るようになるだろうね」

「えーと、これまでの話の感じ、日本のそういうアニメとかのだと、行き先ってファンタジー系の世界ですよね?剣と魔法の」

「剣と魔法もあるけど、それだけじゃない。特に、異界からの侵攻軍なんて、それぞれ全く異なる技術体系によって生み出された兵器を好き放題使ってくるんだから」

「・・・聞いてて思ったんですが、勝ち目あるんですか?」

「これまでも何度かあったけど、なんとか撃退してきたよ。そのたびに異界への門とその周辺を結界で封じてきた。でも、今度のは危なそうでね。君たちの世界から助っ人を呼ぶことにしたのさ」

「はあ。病院のベッドでじっとしてるだけの人生よりは楽しめそうですし、がんばればがんばっただけご褒美も望めそうですから、やりますけど」

「うんうん、良く言ってくれたね!

 それじゃ、説明するからがんばって覚えてね!

 後からメニュー画面から見ることも、君の場合は出来るけど、君のユニークスキルは、複雑なことが出来る分、扱いが難しいから」


 そして、お医者さん?が説明してくれた、万能錬金術というユニークスキルの内容は、こんな感じだった。


ユニークスキル名:万能錬金術

1時間に1回、下記スキルのうちどれかを実行可能

・分析:作りたい物のレシピを調べられる

・取得:自分で作る物の素材のいずれか1種類を得られる。(この取得で得た素材は、転売など他の用途に転用不可)

・分解:対象の何かを素材に分解できる(生物の場合は、死体からのみ可能)

・構築:錬金術で、レシピを知る何かを構築または生成する


 確かに、いろんなことは出来そうなスキルだった。


「いくつか補足しておくと、通常の錬金術は、これから行く世界の住人達も使っている。主な生産物は、特殊な薬品や、魔道具などだな。

 ユニークスキルではなく、通常の錬金術で何かを生産あるいは構築しても、経験値は溜まる」

「特殊な薬品て、ポーションとかですか?」

「そうだ。君にも馴染みのあるだろうHPやMPを回復したり、状態異常を治したり、逆に状態異常を引き起こしたり、その範囲は広い」

「作り方は、さっきの分析とかを使えってことですか」

「錬金術師のギルドに所属すれば、一般的なレシピは教えてもらえる。初歩的な生産物や手順はそこで慣れれば良いだろう」

「えーと、キャラクターのレベルと、スキルレベルは分かれてるんですか?」

「良い質問だね。他のプレイヤーのユニークスキルは、キャラクターのレベルに応じて成長する。

 ただし、君のユニークスキルは生産系に分類されるからね。生産活動に勤しむほどにユニークスキルが育てられないのは本末転倒とも言えるので、生産活動に応じてレベルも上がるようにするよ」

「ありがとうございます!」

「君の移し身となるキャラクターは、戦闘向きなステータス性能ではないが、それを補う手段は用意されるから、心配しないでも良い」


 それからもいくつかの注意事項などを聞いてから、異世界へ移行?転移?したのだけど、


 心配しないでも良い


 の意味は、あちらで意識を取り戻して、すぐに分かった。


「マッシモ!聞いておるのか?」


 目の前で、小さなおじいさんが自分に向けて怒鳴っていた。

 小さなって、元の自分の背丈くらい?


「マッシモ!お前が錬金術師になりたいと言ったのだろう?違うのか?違うのなら、出て行け!」


 えっと、これは、いわゆるゲームでいうチュートリアル?と見当がついたので、慌てて答えた。


「いえ、ごめんなさい!錬金術師になりたいです!」

「・・・ふん、熱心に講義を聞いていたと思ったら、突然頭を机に打ち付けて気を失うものだから、心配したぞ。体調は大丈夫なのか?」

「え、いえ、はい。大丈夫です。心配してくれてありがとうございます!」

「では、復習を兼ねて、いったん最初から説明しなおすぞ」


 説明してくれてるのは、錬金術師ギルドのアドルーさん。

 しかめっ面ながら、丁寧に説明してくれた。


 錬金術とは何か?

 魔法陣と魔力と適切な素材を組み合わせることで、この世界に存在するほとんど全ての物を生み出すことが出来る技術だそうだ。

 生み出せない何かの大半は、素材そのものだったりするけど、その素材も何かを分解することで得られたりする。


 錬金術の初歩のレシピとして教えられたのが、治癒HP回復ポーション。

 で、錬金術と名乗るだけあって、浄水の作り方からだった。

 やり方は簡単。

 専用の魔法陣の上に、初級錬金釜を置いて、井戸水を入れ、魔法陣に魔力を通す。

 この魔力を通すというのも、出来るのかな?と疑ったけど、迷う前にも出来てしまった。まあこれも、ユニークスキル特典の一部と悩まないことにした。


 水の見た目はほとんど変わらないのだけど、何も入っていなかった小壷の中に、ぱらぱらと何かが降り注いだ。これが、水の中に含まれていた不純物だそうだ。といっても、一度の作業で1グラムの半分も出ないけど、泥水とか、もっと何かに汚染されたかも知れない水でも錬金術で使えるように出来る重要な技術として、十回やらされて、終わった時には、レベルが2に上がった。


 脳裏にステータス画面を思い浮かべることも出来たけど、アドルーさんが次の基本生成物として、ポーション用のガラス製の細い管の作成方法の説明を始めてたので、確認は後回しにした。


 さっきとは違う魔法陣を、初級錬金釜の下に敷いて、ガラス管の元となる、珪砂、ソーダ灰、石灰を規定量ずつ釜に入れて、魔法陣に魔力を流す。

 すると砂と二種類の灰が混ざり合って、流体となるので、木枠、これも外側に魔法陣がいくつか描き込まれてる物に、規定量を流し込んで一分ほど待ってから、枠を外すとあら不思議。

 科学や化学の実験などでも使う様なガラス管が出来上がってた。

 これらも錬金術の基礎になる物として十個作らされて、レベルが3に上がった。


 ここで小休止が与えられて、アドルーさんがどこかへ行ったので、ステータス画面を確認した。


名前:マッシモ

種族:ノーム

レベル:3

ユニークスキル:万能錬金術


 力とか素早さとか器用さとかといった物は数値化されて表示されていなかったけど、万能錬金術に意識を合わせると、より詳細な情報が表示された。


 ほとんどは、あの真っ白な空間にいたお医者さん的な誰かが説明してくれた通りだけど、


ユニークスキル名:万能錬金術

40分に1回、下記スキルのうちどれかを実行可能

・分析:作りたい物のレシピを調べられる

・取得:自分で作る物の素材のいずれか1種類を得られる。(この取得で得た素材は、転売など他の用途に転用不可)

・分解:対象の何かを素材に分解できる(生物の場合は、死体からのみ可能)

・構築:錬金術で、レシピを知る何かを構築または生成する


 レベルが上がったことで、ユニークスキルを使える間隔が短くなったみたいだった。

 レベルが1上がるごとに10分かな?

 でも、10分から先は1分刻みとかになりそうだった。


 アドルーさんが草の束とすり鉢とかを持って戻ってきて、次は薬草のすりつぶし方を教えられた。

 これは慣れた後は魔法陣と魔力で省略も可能なプロセスだけど、魔力を通すことで効果が変わってしまう素材もあるので、中級以上の錬金術師になるまでは、面倒でもレシピの手順は守り、手作業が推奨されてる物は手作業で行うよう言われた。


 まあ、細かい作業とか、手作業が嫌いじゃなかったので、ごりごりと薬草をすりつぶしていく。

 完全な手作業ではなく、やはり専用の魔法陣を敷いた上でやってたせいか、細かい粉末に不純物は自動的に弾かれるようになってた。


 うん、魔法文明侮りがたしと思った。

 品質を安定させる為に必要なプロセスを守っているのだから。


 たぶんポーション10本分の薬草の粉末化が終わって、アドルーさんに状態を確認してもらったら、いよいよ製品化?の工程だ。


 また専用の魔法陣に差し替えられた上に初級錬金釜を置いて、一本分の薬草粉末と、浄水を加えて、魔法陣に魔力を通す。

 粉末と浄水とがまるでミキサーにかけたように混じりあって、透き通った薄緑色の液体に変化した。

 スポイトのような道具を渡されて、空のガラス管をもう片手に持ち、スポイト的な何かの先をポーションの液体に浸し、もう片方の端をガラス管の口につけると、釜の中からガラス管の中へと、液体がこぼれることなく移動していった。


 やばい。これ、はまりそう!

 ガラス管の蓋となるコルクは元の世界のと同様のだった。その蓋にも魔法陣を施すことで品質劣化を一定期間防ぐことも出来るそうだけど、駆け出しの練習用のポーションには不要なので、自分用のポーションとして取っておくようにと言われた。


 そんな感じで、HP回復ポーションを10本作成した頃には、またレベルが1上がって4になった。


 ユニークスキル:万能錬金術の使用クールタイムは、レベル3で40分だったのが、レベル4で30分になっていた。

 試しに、自分で作ったポーションを<分析>してみた。


HP回復ポーション:初級

構成素材:浄水(初級)、薬草(センギ:初級)、ガラス管(初級)、蓋(コルク:一般素材)


 さらに、ガラス管に意識を合わせると、こんな感じに表示された。


ガラス管(初級):珪砂(一般素材)、ソーダ灰(一般素材)、石灰(一般素材)


「アドルーさん、一般素材とそうでない素材って何が違うんですか?」


 気になったことは質問してみるしかない。

 アドルーさんは、質問を喜んでくれたみたいで、笑顔で答えてくれた。


「中級や高級錬金術で構築あるいは生成する何かでも無い限り、大半の材料は、一般素材で用が足りる。浄水や、ガラス管の素材なんかがそうだな」

「初級以上の物を作ろうとすると、より希少レアな素材が必要になる?薬草とか」

「おおよそ、そうだな。魔法陣もより複雑な物が必要となり、流し込む魔力も多めに要求されることになる。薬草などの素材の入手難度も上がることが多い。

 とはいえ、見習い錬金術師のお前がまだ心配することは無い。

 初級のHP回復ポーションをあと20本作るんだ」


 うげっ、と思わないでも無かったけど、作りたくもあったから、あまり苦にもせず、最初よりはよほど短い時間で、追加20本の初級HP回復ポーションは完成して、アドルーさんの確認でも合格をもらい、レベルも5に上がった。


 ユニークスキルのクールタイムは20分になっていた。


 休憩を挟んだ後に、アドルーさんが尋ねてきた。


「さて、これで最初の手習いが済んだことになるが、次に何が作りたい?」


 作りたい物。

 なんでも楽しそうだったけれど、これからのレベル上げに必要不可欠な何かがあった。


「えっと、ゴーレムとか、作れますか?」

「可能か不可能かで言えば可能だが、素材を揃えたりするのが、少し手間がかかったりするぞ」

「構いません。ええと、だんだんと強いのを作れればそれでいいのですが」


 アドルーさんはしばし考え込んだ後に、答えてくれた。


「なら、最初は、土ゴーレムだな。要となるのは、魔法陣とゴーレム・コアだ。土は、まあ、そこらの地面から生成可能だから、ほぼ気にしなくていい」


 魔法陣もゴーレム・コアも、たぶんユニークスキルからも作り方とかを調べられるのだろうけど、せっかくのチュートリアルなのだから、なるべく活かすことにした。

 どうせなら、必要な素材を取得する方に、使いたかったし。


「魔法陣とかゴーレム・コアは、自分で作れますか?」


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