DAY20-3 熊人族長イグルンとの戦い

 鳥人族の里は、切り立った山の斜面というか、ほぼ垂直な崖に作られていた。

 そこでシギ族のキショウという長と、ロクローというぷれいやあに出会った。

 熊人族との戦いが思わしくないところにロクローが加わって押される速度は遅くできたけれど、結局押し込まれているらしい。


 出会った時に、俺の力を見せてみろとか言うので、最小サイズに縮めてあげたりした。さすがに狭い巣穴の中で大きくはなれないし、向こうの偵察に見られても不味いだろうし。


 熊人族側に別のぷれいやあがいるのも、彼らのキャンプがじりじりと前進して、鳥人族側が領域を失っている状況なども聞いて、作戦を立てた。


 先ず、いつも通り、ロクローと、鳥人族の皆さんで、クマーダと熊人族を出迎えてもらう。

 次に、戦闘が始まったらロクローはなるべく熊人族達の注意を引きつけて、鳥人族の皆さんには、普段落としている岩ではなく、ミジャに用意してもらった特製火炎壷で、彼らのキャンプを襲って焼き払ってもらうよう頼んだ。


 そして頃合いを見て、巨大化した自分が熊人族達を投網で捕らえて、サイズを小さな置物程度まで縮めたらミジャの結界に閉じこめてもらって、ひとまずのケリはついた。


 クマーダの死体が消えて、キャンプ地を焼き払った襲撃部隊が上機嫌で帰ってきたら、交渉タイムの始まりだ。


 周囲より少しだけ大きくて威勢が良かったイグオスという熊人に語りかけた。

 とっても怯えてて、しばらく何話しかけても答えられなかったから、ちょっと強めに脅したりしたけど。(この間、いままでやられてきた鳥人族の皆さんを止める方が大変だった)


「お、俺達をどうする気だ?」

「どうって、伝えてあるよね?」

「この川をあきらめろってか?無理だ」

「どうして?」

「それを決められるのは、親父、族長だけだからだ」

「ふーん。で、その族長さんはどこにいるの?」

「この川のずっと下流の方の、熊人族の里だ」

「ロクロー、わかる?」

「俺の足でも、一日じゃ無理で、二日はかかるくらいの距離だろうな」

「まあつまり遠いって事だね。どうしようかな」

「おい、俺達をいつまで小さくして閉じこめておく気だ?とっとと元通りにしろっ!」

「どうしよっかなー」

「親父は、俺よりも、クマーダよりも、ずっとずっと強ぇえんだからな!」

「そうなの?」

「前の獣人王だった獅子人族リオーズの盟友、イグルンの名を知らない獣人族はいねぇ」

「まあ、嘘ではないですな。だからこそ、リオーズが失脚して追放された後は、熊人族もまた権勢を失った訳で」

「だからって、親父が弱くなったわけじゃ無ぇ!」


 ところどころ、キショウさんが会話に合いの手を入れてくれて助かってたので、ついでに訊いてみた。


「キショウさんは、そのイグルンさんてのに会った事はありますか?」

「はい。気性は荒く、リオーズの右腕として方々で好き放題やらかしてましたから、印象は良くありませんでしたね」

「おいっ、キショウ!生意気言ってると、後で親父にお前を締めてもらうからな!」

「おやおや、小熊がだいぶいきがってますね。今のあなたなら、私でも飲み込んで消化できそうなのに。

 どうです、ユートさん?この小熊連中を私達に譲っては下さいませんか?」

「う~ん。イグルンってのとも交渉になるなら、生かしておきたいかな」

「残念です」


 本当に残念そうな鳥人族さん達の姿に、小さな熊さんたちは心底怯えていた。


 俺は、後ろに控えててくれたミジャに声をかけた。


「この結界はいつまで保つの?」

「少なくとも起きてる間は保たせられます。寝る前には一度解いて、もう一度かけ直す必要はありそうです」

「じゃあ、とっとと行って、話つけてこようか」

「へらくれすなら、可能でしょうね」

「へらくれすって、あの虫か?」

「そうそう。てわけで少し待っててね」


 ミジャが虫駕籠を取りに行ってくれてる間に話し合い、ロクローとキショウさんが一緒に行く事になった。

 飛べる鳥人族さん達は他にもいたけど、たぶんへらくれすの速度についていけないのでお留守番。(その内の一人には、マジャさんへのお遣いを頼んでおいた)


 移動は、手頃なサイズに大きくしたへらくれすに乗って、川の上空をすいすいと飛んでいくと、たぶんお昼前にはそれらしき集落?里の上空についた。イグオスにも確認は取れた。

 たぶん、住んでる熊人の数は千人くらいなのかな。わからんけど。


 そこの一番大きな邸宅の広い庭に、へらくれすを降ろすと、他のどの熊人よりも大きくてたくましくて凶悪な面構えの熊人が現れた。イグオスが「親父助けてくれ!」と呼びかけた相手なので、族長のイグルンで間違い無さそうだった。

 ついでのように、先ほど倒したクマーダまで一緒にいた。


 周囲をぐるっと熊人族の戦士達に囲まれてたので、ミジャにはへらくれすに乗ったまま待ってもらって、ロクローとキショウさんは自分についてきた。


 イグルンとクマーダも進み出てきたので、問いかけてみた。


「イグルンさんですか?」

「そうだが。息子はまだ生きてるのか?」

「はい、この通り」


 いきなり突進されてもイヤなので、ちら見せという感じで、結界の箱をかざしてみせた。

 2.5センチくらいの小熊がわちゃわちゃしてる感じで意外にかわいい。


「お前を殺せば、元に戻るのか?」

「別に殺さなくても、しばらく待ってれば元に戻りますよ」

「だがな、俺らも舐められっぱなしってのは示しがつかねぇんだよ」

「イグルン、そうやっていつまで敵を作り続ける気だ?」

「キショウの親父か。まだ生きてやがったか」

「生憎とな。音便に済ませる事を勧めておくぞ。それならまだ口をきいてやれる相手も残るだろうしの」

「はっ!鳥人族ごときがいきがるなよ」

「熊人族ごときが、何をいきがってるんですかね?」

「今なんつった、そこの人間族の小僧?」

「熊人族って、結局、獅子人族よりは弱かったんでしょ? だから手下になって暴れてただけで」

「てめぇ・・・」

「で、巨人族とか、その上の竜族はもっとずっと強くて?

 熊人族は、弱いものに威張り散らしてるだけの小物なんじゃないんですか?」

「・・・ちったあ厄介なスキルもらってるからって増長してんじゃねえぞ。クマーダから、お前が出来る事は聞いてる。つまり、お前に触れなければ小さくもされない筈だ」

「それはそうかもですね」

「構えろ!」


 戦士達が弓に矢をつがえたり、槍を投擲してくる構えを見せた。うーん、確かに間接攻撃は厄介かもね。


「ロクローは、キショウさん連れてへらくれすへ。早く」

「お前はどうすんだよ?」

「たぶん、なんとでもなりますよ」

「わかった。足手まといにはなりたくないからな」


 二人がへらくれすの上へと戻ったのを確認してから、結界の箱を上空へとぶん投げ、ミジャに回収を頼んだ。


「ミジャ、あれはよろしく!」

「わかりました!お気をつけて!」


 へらくれすは無事に三人を乗せて上空へと飛び去っていった。


「見逃してやった理由はわかるか?」

「いちおう、人質を巻き込まない為でしょ?」

「それもあるが、お前とさしでやりあってみたいのもあってな」

「人質、空の高いところから落とすだけでも普通に死にますよ?」

「ぐちゃぐちゃうるせえんだよっ!」


 イグルンの巨躯、小さめの巨人くらいありそうなのがさらにムキムキになって、一瞬で目の前に現れ、熊手をふるってきた。

 爪は立てられてなかったので、こちらも武器は使わずにかわし、がらあきのボディに拳を叩き込んでみたけど、少し揺らいだかな?ってくらいで、全く効いてなさそうだった。


「どうした?スキルを使わないとそんなもんか?」

「んー、最大限に大きくなれば、熊人族の誰にも止められずに、この里を全滅崩壊させられますが、それがお望みです?」

「お前がそのつもりなら、とっくにそうしてたろうがよ!」

「そうなんですけどね~」


 右、左と振るわれる熊パンチをさけながら、考えてみた。

 自分は、熊人族を滅ぼすつもりはない。

 このイグルンにしたって凶暴な見かけほど話が通じないわけじゃないし。熊人族と鳥人族の争いにしたってけが人は多く出てたけど、ロクロー以外の死人は出てないって聞いてたし。


 考え事をしてたのがいけなかったのか、ボディに一発いいのをもらってしまい、体格差もあって吹き飛ばされてしまった。

 まあ、リノ・ビートルの鎧を着込んでるから、さしてダメージも無かったんだけど。


「おら、それで終わりじゃ無ぇだろ。立てよ」

「んー、力比べがしたいって事なら、さっきと同じ体格差にしてみますか」


 という訳で。イグルンの2.5倍くらいの大きさに巨大化。だいたい元の五倍に巨大化。背丈にして十メートル超くらい。

 話には聞いていただろうけど、聞くと見ると体験するとでは、まるで違う。

 正面からの突進を楽々と受け止めて、背後にぽーいと投げ捨ててあげた。

 イグルンは巨体に見合わない器用さを見せて、体をひねって着地した。四つ足だったけど。


「いいだろう。こっちも本気出していくぜ!」


 こっちは本気出せないんだけどね。まあいいか。

 こちらの装甲をあてにしてるのかどうか、鎧の隙間に爪とかを立てて切り込もうとしてきたので、手甲で弾き、顔面にフックを入れたら、今後はちゃんとよろめいた。


「ぐっ、ぐああああああっ!死ぬんじゃ、ねぇぞ!」


 イグルンの体から何か闘気だかオーラだかそんなようなものが立ち上って、クマーダが目玉に向けて突進する直前に使ったスキルなんだろうけど、また迫力が何段か増して、突っ込んできた。


 はやっ!

 と思う間にはもう頬を殴られていた感触があった。

 殴られながらも、目の前に浮かんでたイグルンのボディにアッパーを決めてやった。

 拳にイグルンの内蔵の感触まで感じながら、サイズ変更を発動!

 最大、いや最小だと見えにくくなるから、1/10で。


 アッパーの衝撃は軽くなったイグルンを上空にまで弾き飛ばしていき、お空のお星様にはならなかったけど、見えないくらいには高く飛んでいった。


「まだ、やる?」


 眼下の熊人族達を見下ろして脅してみた。

 彼らの大半は首を左右に振りながら、武器を足下に落として降参してくれた。そうでない人たちの前には歩いていって、どしんと足を踏みならすだけでも、彼だけでなく周囲の人も逃げ散ってくれた。


 そんな風に周囲を平定してると、へらくれすと、キショウさんに肩を掴まれたイグルンが降りてきた。


「よく見つけてキャッチできましたね?」

「まあ、目は悪くないのでな。こやつに死なれるとまた獣人族の間で波紋も起きるであろうし」

「ち、ジジイめが」

「そのジジイに助けられた若造はどいつかな?」


 自分は自分の巨大化を解除してから、イグルンに尋ねた。


「それで、降参してもらえます?」

「ああ・・・」

「鳥人族の領域に関しても?」

「そっちも、力ずくの交渉はあきらめる」

「ユート殿。であれば、以降は私の方で対応できましょう」

「ですか。そしたら、ミジャ」

「はい、どうぞ」


 小さな熊さんがたくさん入った結界箱を受け取り、サイズ固定を解除して地面に置いて、結界が解除されたそこには熊人の小山が出来上がっていた。


「親父・・・」

「イグオス、あの川に関してはとりあえず手出しは無用になった。いいな?」

「ああ、わかったよ」

「で、だ。ユート、だったか。頼みがある」

「なんか、面倒そうなのはイヤなんですが」

「リオーズを、助けてやってほしい。頼む、この通りだ」


 まだ体が小さくなったままのイグルンが、自分の前に両膝両手をついて、上体を伏せてお願いしてきた。土下座、っていうんだっけこれ?


「そう言われても、こちらも頼まれ事の最中でしたし。お婆さんにも一度報告に戻った方が良さそうだよね?」

「それはそうですけど、どちらが急ぎかというと、こちらかも知れませんね。こちらに来る前に遣いは出してますし」

「お前は、狐人族か?人間族との混血のようだが、お前の母と祖母は誰だ?」

「母の名はムジャ、祖母の名はマジャです」

「あの婆ァ、まだ生きてやがったか。もしかしてこいつらを寄越したのもあいつか?」

「ご想像にお任せします」

「まあいい。ユートよ。熊人族として礼はする。獣人族の王だったリオーズを救ってはくれまいか?」

「救うって、どう?」


 それから話を聞いていったのだけど、かなり、面倒そうな内容だった・・・。


 帰っていい?

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