DAY19-2 クラン<夜の無い世界>メンバーとの接触

 クラン<夜の無い世界デイライト・オンリー>からグデンに率いられた四人がその光景を見たのは偶然だった。


「猿人族の族長のところに、狼人族が訪れていた?」

「遠目だったから、何話してたかは分からなかったけど、少なくとも、双方の雰囲気は悪くなかったと思う」


 前回も猿人族の様子を見に来たグデンだったが、その時には別種族の姿は見えなかった。

 同行していた副リーダー、ルディアは、監視を密にする事を指示。そのおかげで翌朝早くから猿人族が動きだし、その族長の一団が里から離れていったので追跡し、狼人族の里を発見。

 ただ、猿人族の使節?は、そこの族長らしき一団と合流すると、また別の場所へと向かい始めた。


「獣人族の領域から外れる方角に向かってるよな?」

「南大陸の北岸方面へ向かってるね」

「噂だと、昆虫系魔物が棲んでる森だっけ?」

「自分達でも通ってみる案が出た事あるけど、適正レベルが読めないのと、本拠地から遠すぎるから却下されたんじゃなかった?」

「そうそう、そんな感じだったかな」


 人間族の領域にある森よりも背丈が高い木々が繁る森に入っていった一団は、さらにその先にある水場で巨人族とも合流。その中で一番大きなのは二十五メートルほどもありそうだった。


「あんなのと戦うのはごめん被りたいな」

「今死ぬと、人間族で最後に寄った宿屋がリスポーン・ポイントになるのか?」

「森の中で、あの一団とは関係無い別の魔物とかに襲われて全滅しても馬鹿らしいから、あそこから少し離れたところにテントを設営して、仮のリスポーンポイントで更新をかけておこう」


 ルディアの指示にメンバー達が従い、ほぼ一人用で最低限のスペースに順番に寝そべってリスポーン・ポイントの更新をかけ終わると、その辺の枝葉を折り集めて被せて隠しておいた。


「あの巨人達が獣人達と何を話しているのか、聞いておきたいな」

「近づいてみるか?」

「・・・まだ止めておこう。狼人族も混じってるし、スニーク系スキルが通用するのかもわからないし」

「了解」

「あの巨人達が話し合ってる近くの、塀に囲まれた場所も気になるよな」

「狼人じゃない獣人、狐か何かの獣人が出入りしてるけど、塀の中に置いてある籠も巨人サイズで」

「その籠に入れてある魔物系の素材かあれ?見た感じ、十メートル以上は無いか?」

「牙だけで十メートルとか、全体でどれくらいの大きさだったんだよ」

「ネームドとか、ユニークモンスターとかかな?」

「そういう類のならワールドアナウンスとか流れててもおかしくないけど、無かったよね?」

「まだαテストだからかもね」


 そんな風に、慎重に観察を続けていると、やがて塀で囲われた敷地の奥にあったタープテントらしき場所から、一人の人間の男性が現れた。


「あれ、プレイヤーかな?」

「遠くて読めないけど、ネームは表示されてる気がする」

「・・・っておい、あいつ、でかくなったぞ!?」

「大きくなって塀乗り越えて、またすぐ元に戻ったけど、そーいうユニークスキル持ち?」

「だとしたら、とんでもないチートだな」

「是非とも、うちに獲得したい相手だ。あの巨大な素材を獲得したのも、あのプレイヤーだとすれば、周囲に複数の種族を侍らせているのもうなずけるというものだ。機会を伺って、接触してみるぞ」


 そして、人間の男性が合流した事で、巨人と猿人と狼人達も、森の奥へと向かっていったので、グデン達も後を追った。

 そして2、3時間ほど経った後に見た物に、四人とも絶句した。


「全長、百メートル以上って、怪物じゃねぇか」

「それをもしかして、あいつ一人で倒したのか?」

「いくらαテストっていっても、ゲームバランス壊れ過ぎ、じゃ?!」

「おいおいおいおいおいーーーっ!?」


 彼らは先行する集団からだいぶ距離を取って話し声が聞かれるような近くにはいなかったものの、あの人間男性、おそらくはプレイヤーが、さきほどよりもさらに巨大化。百メートルには届かないかも知れなくても、高層マンションくらいには高く見えた。


 そんな相手が、あの鋭そうな素材を使った、いや倒した相手からはぎ取って細工を加えたのだろう武器で、ばっさばっさというか、どずうううんっ!、どすうううっん!という地響きとともに巨大ムカデの巨体を切り刻んでいく様は、圧巻というよりは悪夢でしかなかった。


「なんかもう、違うジャンルのゲームになってねぇかコレ?」

「いや、むしろ、こんなチートでもないと相手が出来ない敵が、その内現れる可能性があると思う」

「ちょっ、待てよ!怪獣の群が現れるのを人間サイズでどうにかしろっての?」

「まだ、どんな敵になるかはわからないけどな。プレイヤーネームも巨大化されて表示されてるから、間違いなくプレイヤーだ。ユートという名前らしい。あの作業が一段落したら、接触するぞ」


 ルディアの有無を言わさない態度に押し切られた一行は、相手方で周囲を警戒していた狼人族に先ず察知され、通せ通さないで押し問答していたところに、問題のユートというプレイヤーがやってきた事で、接触コンタクトは叶ったのだった。


 ルディアは、内心興奮していた。こんなところに埋もれていた格別な存在を獲得出来れば、きっと、クラン<夜の無い世界>は先陣争いで主導権を握れる。リーダーであるアルスにもきっと褒めてもらえる、と。 グデンはそのアルスの背後でまた全く別の考えに耽っていたが、他の二人は背後にいて、彼の表情に気が付く者はいなかった。



★☆★

(ユート視点)


 狼人や猿人だけでなく、巨人達にも囲まれたぷれいやあなる四人がやってきた。

 先頭にいたのが、肌が白く、髪は長い金髪で、瞳は緑色の美人さんだった。ミジャの囁きによると、エルフという種族らしい。長髪の隙間から覗いてる長い耳と魔法や弓への適性が高いのが特徴との事。


「初めまして。クラン<夜のない世界>の副リーダー、ルディアです。ユートさんとお呼びしてよろしいですか?」

「ええと、構わないですけど、初対面ですよね?どうやって自分の名前を?」

「どうって、プ#$&ー同士なら、頭上に表示されてますから」

「プ#$&ーって何?」

「*#イ&ーは*#イ&ーだろ?」

「ここにいるクランメンバーの四人とあなた以外は全員@p¥npcですよ?」

「ミジャ、この人達の言葉が一部聞き取れないというか、理解出来ないんだけど、何言ってるのか分かる?」


 ミジャは、自分をちょっと離れた場所まで引っ張っていってから、小声で教えてくれたけど、ルディア達を厳しい眼差しで見つめていた。


「おそらくですが、ユート様は、一部の言葉が聞き取れないか、聞こえても理解出来ないような制限をかけられているのではないでしょうか?」

「制限?って誰に?どうして?」

「私にも分かりませんが、ユート様をこの世界に遣わして下さった神様が、考えられますね」


 神様?

 自分が浮かべたぽかんとした表情を見て、ミジャが説明を追加してくれた。


「あの四人は自分達をユート様と同類としましたが、それ以外は、えぬぴーしーなる存在として区分しました。ユート様は、えぬぴーしーが何かをご存知ですか?」

「いいや、知らない。けど、ソウイチも似たような事言ってた気がする。ソウイチと俺は、猿人族や狼人族とは違う。死んでも蘇れるとか」

「それがおそらく、ぷれいやあなる存在に等しく与えられた特権なのでしょう。えぬぴーしーとはすなわち、ぷれいやあとは異なり、この世界で産まれ、生き、死ねば終わる者達を指していると考えて、ほぼ間違い無いでしょう」

「普通、生き物ってそーゆーものだと思うけどね」

「だから、ぷれいやあ達は、神々が何らかの意図があって、この世に招き入れた存在なのでしょう。だとしたら、同じぷれいやあである筈なのに、ユート様には一定の制限がかけられている事から、ぷれいやあの間にも明らかな違いがあるようです」


「なの、かな・・・?」

「ええ。先ほど、彼らはユート様が名乗らなくてもその名前が表示されていたから分かったと言いました。それがぷれいやあ同士なら当たり前の事だと」


 う~ん、自分で自分の事がさらにわからなくなった。死んでも生き返れるか試す為に死にたくも無いし。


「彼らにユート様の名前が見えているというのなら、ユート様も間違いなくぷれいやあでしょう。ですが、今の問題はそこにありません」

「なんでぷれいやあの間に違いが付けられてるかってとこ?」

「それと、その違いについて、彼らに知られても問題が無いかどうか、私達にはわからないという事です。もっとも、ユート様には彼らの名前が見えない事や、通じていない言葉がある事などはもう伝わってしまってるでしょうけど」


 ルディアさん達は、特に悪い人達には見えなかった。自分がミジャと内緒話をしている間、彼らは彼らの間で相談をしていた。


「彼らはどうやら、ユート様を彼らの寄り合い組織であるクランに招き入れて、ぷれいやあ間の競争に役立てたいと考えているようです」

「もしかして、向こうの話し声が聞こえてるの?」

「狐人族の耳の良さはまだぷれいやあ達の間には伝わってないようですね。気付かれるまでは有効活用しましょう。それで、ユート様は彼らと共に行かれるのですか?」


 ほとんど迷う理由が無かった。


「いや?情報収集というか交換はしといた方が良いかもだけど、特に彼らの仲間にならないといけない理由は無さそうだし」

「では、必要そうな情報だけ交換したら、彼らにはお引き取り頂きましょう。ユート様は、これから忙しくなるでしょうから」

「その詳細はまだ教えてもらえないの?」

「不確定な要素がいくつかありますから。それに知らない事が彼らに漏らしようが無いでしょう?」


 うなずいた俺は、内緒話を終えて彼らに近付き、話し合いを再開した。


「中断してすまなかった。ぷれいやあとえぬぴーしーの違いについては、だいたい分かったと思う。自分が他のぷれいやあ達と違うかも知れないという事も」

「そうですか。待ってる間に私達の間でも話し合ったのですが、同じ様な推測を立てました。

 そこでうかがっておきたいのですが、ユートさんは、どこからxxxを開始されたのですか?」

「xxxってのはまたわからない言葉だけど、ええと、ここから南東にずっと行ったところにある人間の街、名前は忘れたな。アイシャさんて人とか、メウピザ子爵って名前は覚えてるけど、その近くの森に気が付いたらいたんだ」

「ここからずっと南東だと、人間族の領域の外縁に位置するジョールクかな」

「そんな名前だったかも」

「えーと、そこでチュートリアルは受けられたんですか?」

「ちゅうとりある?」

「xxx開始直後に、プレイヤーなら全員受けてる筈の、トレーニングみたいなものですけど」

「受けてない。街の外壁の方で騒ぎが起きてたからそっちに歩いていったら、巨人、っていっても背丈は5メートルくらいだったかな。そいつと戦ってたアイシャさん達を助けて、そいつを倒したりしたとかはあったけど」


 巨人達に知られたらマズいんじゃなかったっけ?とか今更ながらに思い出してみたけど、アレグシアさん達が気にした様子は無かった。


「ええと、今更だけど、ここからずっと南東の人間族の街に、ギュベレー氏族の誰かを偵察に送ったりしてた?」

「いいえ」

「良かったよ」

「騒ぎを起こしていたというなら、押し入ろうとしたのでしょうね。それで戦いになり、討ち取られたのなら、文句を言う筋合いは無いでしょう」

「ありがとう、アレグシアさん。それで、その後はまたいろいろあって」


 子爵の息子さんをお手玉して、その逆恨み?で狙われたけど返り討ちにしてから逃げてきたとか、このぷれいやあ達が人間族の領域で活動してるなら、知られてないなら知られてないままの方が良さそうだし、話さない事に決めた。


「アイシャさんの勧めもあって、この森に来て、狼人族や巨人族と会って、またいろいろあって今に至る感じ」

「猿人族とは?」

「ソウイチというプレイヤーと接触しなかったのか?」


 やっぱり見当をつけてたのかとあきらめて、こちらについてはなるべく簡略に話す事にした。


「自分がこの森に来てすぐ後に、巨人と狼人族の衝突があったからそれを止めたんだけど、その数日後に猿人族を連れて狼人族の里に来て、狼人族を支配下に置こうとしたのがソウイチって奴だ。

 詳細は話せないけど、ソウイチは猿人族も強引に支配下に置いてたから恨みを買ってて、あいつは猿人族達に繰り返し殺されて、戻ってこなくなった」

「止めなかったのか?」

「どうして?悪いことをしてたのはソウイチの方だろ?猿人族じゃない」

「プレイヤーが@p¥npcを利用しようとするのは当然の事じゃないか。むしろ、PKのが罪が重いだろ」

「何の方が罪が重いって?」

「ぴーけー、だそうです」


 一部の言葉はパターンから内容を推測できるようになってたけど、また違う言葉が出てきたので、ミジャに頼った。


「ぴーけー、って何?」

「プレイヤー・キル。プレイヤーをプレイヤーが殺す事です」

「ええと、先に言っておきたいんだけど、いいかな?」

「どうぞ?」

「自分にとって、自分も、そちらがえぬぴーしーと呼ぶ対象も、同じ、生きている存在なんだ」

「同じじゃない。生きている本当の@&人間は、俺たちプレイヤーだけだろ。何なんだお前は?!」

「あのさ、死んだら生き返れないのが生き物の当たり前じゃないの?だとしたら、自分達をぷれいやあと呼ぶ生き返る連中と、死んだら生き返れない連中、どっちが本当に生きている事になる?」

「ロールプレイのつもりだとしても、行き過ぎだ」

「これはxxxだぞ?現実を取り違えるなよ」

「ミジャ。何度も繰り返されてるぽい、これは~、と、~だぞ、の間に言われた言葉が何か、聞き取れた?」

「不思議ですね。その言葉だけは、理解できず、近い発音の言葉で言い換える事も出来ないようです」


 自分は苛立ち始めてたし、向こうも向こうの常識が通じない事で苛ついてるのが目に見えていた。

 ルディアという四人組のリーダーが他の連中を説得しようとしてたけど、今までずっと黙って発言してこなかった一人が、俺と言い合いをしていた男達の後頭部を剣の鞘で軽く殴りつけて諫めた。


「痛っ!」

「何すんだよ!?」

「落ち着け。話し合いの為に来たのに殺気立ってどうする?」

「だってよ」

「プレイヤーより@p¥npc優先するとか、その為ならPKもリスキルもありだとか、ありえねーだろ?」

「あのな。向こうはこっちの名前が見えないだけじゃなくて、こっちが言う一定の言葉が聞こえなかったり理解できなかったりする。それがどうしてそうされてるかくらい、考えられないのか?」

「そんな制限をかけられるとしたら、ーーーー側だけ、だろうな」

「そう。これはxxx「ーーーーーアリスティア興亡史」のーーーーαテストだ。プレイヤーによって、課されてる制限に差がある事に何の不思議がある?むしろ、あって当然だろうが」


 ーーーーの部分は、言葉としてすら聞こえず、ぴーっという様な音でかき消されていた。ミジャの方を見ても左右に首を振ったので、えぬぴーしーと彼らが呼ぶ、この世界に生きる者達にも聞こえないか、聞こえても理解できない言葉らしい。

 やっぱり、神様の仕業か?


「で、ルディア達<夜の無い世界>ってクランは、ユート、あんたを利用しようとしてる。人間族のクラン同士の攻略競争を優位に進める為に、あんたの持つユニークスキルは絶対に役立つだろうからな」

「当然、見返りも用意されるんだろうけど、断るつもりだよ」

「なっ・・・!?グデン、どういうつもりだ?!」

「ルディア。あんたがクランの面倒事を一切合切引き受けてるのは、アルスの気を引く為だって、バレバレなんだよ。今回の件に強引に割り込んできたのだって、ポイント稼ぎの為だろ?」


 なんか、仲間割れを始めた感じだけど、他の二人が頭から否定せず、ルディアという女性も言い返せないのを見ると、グデンという奴が言ってる事が図星っぽい。


「えーと、グデンさん?ここでぶっちゃけて、仲間内の雰囲気悪くしてまで、何を狙ってるの?」

「自分がこのクランに加わってたのは、参加していて特に損が無いかな、ってくらいの理由しか無かったんだよ。

 でも、あんたみたいな特別扱いなプレーヤーが、攻略も真っ先に進めてるなら、そこに絡んだ方が楽しそうってのがわかっちゃったからな。

 ルディア、悪いな。アルスにはそう伝えておいてくれ」

「お前だけ抜け駆けするつもりか?!」

「そんな事が許されるとでも?」

「参加するのも自由なら、抜けるのも自由だろ。違うか?」


 グデンという相手だけは、他の四人と違って飄々とした態度を崩していなかったけど、言葉通りの思惑以外にも何かあるんだろうな。


 グデンとルディアともう二人との話し合いは、すぐにけりも折り合いもつきそうに見えなかった。

 ミジャはそんな様子を見て取ると、アルデシアに話しかけた。


「あなた方巨人族でこの場というか、ギガント・センチピードの死体をここで確保し、有効活用する事は可能ですか?」

「どんな相手が出てくるか次第、だな。今ここにいる巨人達だけで、ギガント・センチピードか同等の魔物の相手をするのは、おそらく厳しい、というか負けるだろう」

「でしょうね」

「ユートがいればもちろん負ける事は無いが、私達だけで、という事は、獣人族とユートだけでどこかへ行くのか?」

「そうですね。足場固めと、これから先への布石の為に」

「なるべく多くを活用し確保しようとはするでしょうけど、いざとなれば逃げても良いかな、ユート?」

「死んだらおしまいなら、命大事にするのは当たり前の事だろ?魔物の死体が有用な素材とかになるとしても、命に釣り合う物でもないし」

「ここにユート様が拠点を作られるのなら、狼人族や猿人族からも人手を呼び寄せられますが?」

「無理しなくていいよ。何度も言ってる通り、ここにずっと居るかどうかすら分からないし、ビートル系の魔物とかだって十分危険だしね」

「わかりました」

「それで、ミジャ。ユートを連れてどこに行くの?」


 ミジャはちらりとルディア達に視線を向けながら小声で言った。


「あの人達がいるからここでは言えない」

「そっか、残念。でも、危なくはないんだよね?」

「アレグシアが何を気にしてるかは分かってるけど、危険は特にないと思うよ。足というか羽があれば、往復もそんなに時間かからないと思うし」

「足?羽?」

「あの人達には見られない方がいいと思うから、ここから少し離れましょう。グアルドゥフさん、例の籠を」

「はい、こちらですね」


 ミジャはグアルドゥフさんが運んでくれてた大きな籠を受け取ったのだけど、彼女には少し大きすぎる気がしたので、代わりに持ってあげた。

 籠の中で何かがごそごそと動いてるのが感じられて、

「ミジャ、これって」

と思わず尋ねようとしたけど、ミジャが口の前に指を立てたので、質問を飲み込んだ。


 そしてミジャに先導されて、ギガント・センチピードの死体の反対側に出て、ルディア達から直接見られない位置へ出ると、籠を地面に置かされて、蓋を外した。


「やっぱり、へらくれすか。かなり大きくなってるよね。ていうか、どうしてここへ連れてきたの?」

「詳細は移動しながら説明しますから、籠から出して、サイズを、私とユートさんが乗ってもへらくれすが疲れずに運べるくらいに大きくして、固定してもらえませんか?」

「ええと、サイズはある程度自由に出来るから問題無いだろうけど、甲殻つるつる滑って乗るのは危なくない?空飛ぶつもりなんだろ?」

「へらくれすの今のサイズに合わせた鞍や手綱などを準備してあるから大丈夫ですよ。風は私の結界魔法で防げますし」

「そんなの使えたんだ!?」

「他のぷれいやあの皆さんとかには秘密ですよ?さ、急いで下さい。見つかるとまたつきまとわれて出発がそれだけ遅れますから」


 へらくれすの全長は、軽く60センチを超えていた。角を除いたらその半分くらい。ミニチュアサイズの鞍とかも、獣人の職人に用意してもらったとかで、小さいけどしっかり作り込まれていた。

 へらくれすに鞍や手綱とかを取り付けた後、十倍だとたぶんきつそうだと思ったから、十五倍にしてみた。


「だいぶ立派になりましたが、もう少し大きい方がへらくれすも楽でしょうね」

「その分、ミジャと俺の体を小さくすれば良いんじゃない?」

「・・・その方が楽かも知れませんが、飛び立った時に少しは見られてしまうでしょうから、伏せられる手札はまだ伏せておきたいですね」


 という事で二十倍の大きさにして、ミジャのOKが出て、全長が12メートルほどに達したへらくれすの背中の鞍へと移動。ちゃんと縄梯子みたいのも準備されてた。ミジャまじ有能過ぎ!


 体の大きさ的に前の鞍にミジャが、後ろの鞍に自分が座り、ベルトの様な物で一応体を固定。


「いったん、この場から離れる為に、あの人達がいる方とは反対の方向へしばらく飛んで下さい」

「わかった。けど、へらくれすにはどう伝えたらいいの?」


 馬とかに乗った事も無かったしね。


「私が魔法で仲介しますから、ユート様が手綱なり言葉で進みたい速度なり方角なりを伝えて下さい」

「りょーかい。とりあえずやってみるよ」


 男の子の一人として、カブトムシの超絶進化版生物に跨がり空を飛べるとか、ワクテカしかない!

 手綱でルディア達がいる方とは反対方向に頭を向けさせて、飛び立って、とお願いしてみたら、ちょっとの間を空けて、背中の羽がばばっと開いて、空へと飛び立った。


 地上にいるあの五人組が何かをわめいてたっぽいけど、その雑音はすぐに聞こえなくなった。


 ジャングル?ではないけど、虫系魔物の森の上空およそ二百から三百メートルくらいに上昇して、ギガント・センチピードの死体もミミズの大きさくらいにしか見えなくなってから、ミジャは飛ぶ方角を南へ、そして西の方へと時々変更するよう指示してきた。


「で、これはどこに向かってるの?」

「私の古里というか、正確には私の母の母や、狐人族のはぐれ者達が隠れるように住んでいる場所です」

「どうしてそこに向かっているの?足場固めとか、布石とか言ってたけど」

「そのままですよ。ユートさんは、おそらく最速で中央島に向かうべき人です。だから、島に渡れるだけの条件を揃えなければならないんです」

「中央島って、異界への門があって、各種族の英傑達が守っているんだっけ?そこになんで自分が?」

「中央島にいるのは、英傑だけでなくその従者や生活を支える為の者達も含まれますが、基本的に、四種族以上から認められた者でないと、島に渡る事も出来ないと言い伝えられています」

「えーと、狼人と猿人と、巨人というかそこの一氏族でいいなら、狐人で条件揃えられるって事?なんで自分が?」

「狐人族の長に代々伝わる伝承がありまして。異界へつながる門が破られる前に、この世界でも異界でもない何処かから招かれし者達が現れる。その者達は死んでも死なず、その心が折れるまで去る事も無い。

 その不死の異邦人達の内、格別と認められる者がいれば、中央島へ導くべし。何を犠牲にしてでも、最優先せよ、と」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る