DAY19 大幅レベルアップと新派生スキル

 翌朝。すっきりと起きれた。なんで昨日は、あんな短時間の戦闘であれだけ疲れたのかわからないままだったけど、ステータスを確認してみて、何となく推測できそうだった。


「レベルが、跳ね上がってる?」


 13だったレベルは、いきなり7つも上がって、20の大台に達していた。

 なんだか体つきも、より筋肉質になってる気がしたけど、ステータス画面の表示は相変わらず素っ気なかった。


名前:ユート

種族:人間

レベル:20

ユニークスキル:サイズ変更

派生スキル:サイズ固定

派生スキル:サイズ拡張


 サイズ拡張というのが増えてたので、早速その詳細を見てみた。


サイズ拡張:サイズ変更の大小に関わらず、その変更幅を倍に拡張する。その分、通常のサイズ変更の倍のリソース満腹度が消費される。

※注意事項:サイズ拡張した対象にサイズ固定は重ねて使用できない


 つまり、どういうことだ?倍の倍?

 サイズ変更がレベルの数の2倍の大きさか小ささになれるってユニークスキルだ。今のレベルが20で、元の身長が約二.二メートルだから、2.2x20x2で、八十八メートルか。大きすぎだろ。

 でも、そこからさらに倍、百九十六メートル?そんな大きくなってどうするんだ感しか無いけど・・・。

 燃費が悪くなるし、どんな時に使うんだとか考えてみた。ふと、ベッドサイドに、いつもミジャが置いてくれてる、果物籠が目に留まった。

 りんごとみかんを足した様な不思議な果物をサイズ変更で倍にしてからサイズ固定して、食べてみた。うん、食べ応えは二倍。

 で、次のりんごを持ってみて、さすがに40倍とかにすると自分が壁との間に挟まれてやばい事になりそうだったから、さっきと同じ大きさにサイズ拡張してみたら、出来た。


 解除してみたら、元の大きさにすぐに戻った。りんごとみかんの中間くらいだから、直径が5センチくらい?それを十センチ程にするのは、大して満腹度を消費しなかった。ほとんど気にならないくらい。

 最大あるいは最小サイズを倍に拡張できるのは、確かにどこかで使いどころはあるかも知れなくても、どんな時に使うんだろと悩んでる内に、無意識にサイズ拡張を、大きい方と小さい方に繰り返し試していて、気が付いた。気が付いてしまった!


「ユート、起きてますか?」

「ミジャ、大変だ!すごい事になってしまったかも!?」

「いったい何があったのですか!?」


 互いの就寝スペースの間は、布一枚で仕切られてたけど、すでに起きて着替えていた(いつもミジャは先に起きて朝食とかの準備を整えてくれてる)のだけど、自分の様子を見て、何かに襲われてるとか容態が急変したとかでは無さそうなのを察して安堵した。


「見たところ、異常は無さそうですが、その手にされた果物がどうかしたのですか?」

「聞いてくれ。昨日のあの大物を倒して、レベルが一気に20まで上がったんだけどさ」

「おめでとうございます。さらに大きくなれるようになったという事が?」

「いや、それもそうなんだけど、それが大変な事じゃなくて、新しく得たスキルがさ。見てもらった方が早いか」


 手にしてる果物をミジャの前に掲げて、バレーボールくらいの大きさとサクランボくらいの小ささを往復させてみた。


「サイズ拡張って派生スキルで、サイズ固定とは重ねられないし、空腹度は通常のサイズ変更の倍かかるから、短時間しか使えないだろうけど、元々小さい物とか、すぐに元の大きさに戻すなら、ほとんどお腹は減らない」

「・・・いつの間にか、複数の対象をサイズ変更出来るようになってた時も驚きましたけど、それ以上ですね」

「あれはたぶん、レベル10から二つに増えたっぽいね。だとすると、今は三つか四つに増えたのかも」


 実際、籠に入ってた果物で試してみて、四ついけたので、10で2個、20で4個という風に増えていくらしい。


「サイズ拡張は、最大幅と最小幅の間を自由に設定できるという事ですか」

「サイズ変更で大きくまたは小さく出来る以上にしようとすると、コストが倍かかるけどね」

「・・・ユート様は、手に持ったり触れてる何かだけをサイズ変えられますよね?」

「今のこの果物もそうだけど、槍とか矢とかでも試したよね」

「なら、体の一部だけはどうなのでしょう?」

「えーと、例えば足だけ大きくするとか、立ってられないだろうし、何の意味があるの?」

「狭い空間、例えば建物の中で巨大化は出来ないけれど、とっさに拳とか腕の先だけ、必要な分だけ大きく出来たりしたら、役立ちそうではありませんか?」

「んー、もしかしたら役に立つかもだけど、そんな使い時あるかな?」

「まあ、物は試しという事で」


 勧めてくるので仕方なく、役立つのかは半信半疑だった。とりあえず、拳だけ倍の大きさにしてみたら、出来た。すぐ元の大きさに戻したら、空腹度はほぼ変わらなかった。


「出来ましたね!じゃあ、次は何かを手に持った状態ではどうでしょう?」


 自分よりもミジャの方がわくわくしてるのは何でだろう?といぶかりながらも、さっきの果物を持った状態で、同じ事をしてみた。意識した手首から先、果物までの大きさを倍にしたら、意識した対象の大きさを変えられた。


「これは、いろいろ工夫のしがいがありそうですね」

「そうかも?」

「その話は追々しましょう。もう夜が明けてしばらく経ってますからね。狼人と猿人の里長達もすでに来ています」

「だったら、起こしてくれても良かったのに」

「いいえ。あれだけお疲れだったのですから、体調に何か普通でない変化が起きたと考えるべきで、ユート様の体調以上に考慮すべき事などほとんど存在しませんから」

「ちなみに、存在するとしたら何になるの?」


 寝床から起き上がり、着替えながら尋ねると、ミジャはにっこりと微笑みながら答えてくれた。


「ユート様の身命に関わる様な事態くらいでしょうね」

「せめて、そこにミジャ達に危険が迫った時くらいは加えておいてね」

「わかりました」


 わかってくれたかどうかあいまいな笑いに誤魔化された気がしないではないけど、外に出て、食卓に用意されてた肉と野菜を挟んだパンで食事を済ませて満腹にしてから、塀を乗り越えた先に用意されてた巨人サイズの広場に、結構な人数が揃っていた。


「ユート、おはよう!体調はどうだ?」

「おはよう、アレグシア。うん、ぐっすり休めたから、万全かな」


 それは良かったとアレグシアが満面の笑顔を浮かべたところで、狼人と猿人の里長とその付き添い達も来て挨拶を交わしたところで、早速、昨日倒した森の主のところに向かった。

 あの大顎の牙二本は、昨日の内に巨人の職人さんが持ち手を付けてくれたというか細工しておいてくれたけど、自分が普段持ち歩くには大きすぎるので、一本はアレグシアが背中に長剣の様に背負い、もう一本は二人がかりで運んでくれていた。


 やはり、巨人が集団でいると雑多な魔物は避けてくれるようで、昼頃にはたどり着けた。


「改めて見ても、大きいな~」

「大きいって言葉じゃ済まないと思いますが」


 狼人も猿人も、巨人達でさえも、大半が絶句していて、一部は腰を抜かしている人たちもいた。


「話には聞いていたものの、実際見るとすごいな、ユート!」

「そうかな。自分と相性が良かったというか、噛み合わせがうまくいっただけだと思うよ」

「謙遜も過ぎると嫌みになるぞ。それで、この死体はどうするつもりなのだ?」

「どうするって、何かの素材になるの?」

「ギガント・センチピードの甲殻は、なまなかな攻撃では傷つかない。それが武器であれ魔法であれな。これだけの大物なら、きっと優れた武具に出来るだろう」

「うーん、それはそうかもだけど、この大きさを解体するって大変そうじゃない?」

「小さな人達や、私達だけだとそうだったろうけど、ユートならそこまで大変じゃないのでは?」

「迷ってる暇があるなら、試してみるか。みんな、いったん離れててね。あ、大顎の剣は解体に使ってみるから、地面に置いといて」


 みんなが離れてくれてから、サイズ変更での最大まで大きくなってみた。身長およそ九十メートル近くって、高層ビルとかの高さかよ、ってそれ何だってのはいつも通りスルー。考えてもわからないし、思い出せないしね。


 グロいのはある程度慣れたとはいえ、見てて気持ちの良いものではないし、空腹度は刻々と進んでいくので、ちゃっちゃと済ます事にした。


「これくらいの大きさになると、大顎の牙の剣も短剣サイズに感じるな。みんな、もう少し離れててね」


 ふらふら近寄られても気付かずに踏みつぶしちゃいそうだしね!

 大顎の牙の剣、長いので大顎剣で、を両手に持って、試しに体の節目に切り込んでみると、すっぱりと両断出来た。全長で百メートルほどで、体の節としては、20個から30個の間くらい?

 太鼓のばちを叩くように大顎剣で切断していって、10分もかからずに終わった。それなりにお腹が減ったので元の大きさに戻って、背負い袋の中から取り出した焼いてある肉の固まりを倍のサイズで固定してかじっていると、アレグシアさんとミジャその他大勢がやってきた。


「ユート!なんだあの大きさは!?あれではまるで巨人の王族達にも匹敵していたぞ!」

「え、マジ?あんな大きな巨人がいるの?」

「あそこまでの大きさとなると、王や英傑その人くらいにはなるが。他の王族でも、その2/3程度の大きさがせいぜいではあるだろう」

「食料とか、大変そうだね」

「それは巨人族全体の問題だが、長年取り組んでもきてるからな。それはそれとして、ユート、ここに居を構えぬか?」

「居ってのは、家って事?」

「そうだけど、ただの家ではなく、ユートとその配下というか、周辺に集まった者達の為の拠点、かな。いずれは町などに育てられれば良いが、それは今後の目標だ」

「前にも言ったけど、自分はいつまでもここにいるかどうかわからないよ?」

「それでも、帰れる場所があるかどうかは大きな違いであろう?どうだ、ミジャ?そなたはどう思う?」

「悪くないと思います。外壁や門の一部に、このギガント・センチピードの素材を使う事も出来るでしょうし、売ればそれなりのお金や資材に換える事も可能でしょう」

「お金、かあ。ここで生活してると特に必要無い感じだけど、いつまでもそうできるかはわからないか」


 その時、周囲で騒ぎが起きてた。狼人族が不審者を見つけたらしく、里長の付き人が駆けつけてきた。


「ぷれいやあなる者達が数名、近くまで紛れ込んでおりました。どうやら、ユート様目当てで近づいてきたようですが、いかがいたしましょう?」

「え、うーん、こっちは特に用が無いんだけどな・・・」


 どうしよ?と考えて、ミジャをちらりと見てみると、


「今後を見据えて、言葉を交わしておく事は無駄にはならないのでは?もちろん、安全は確保した上でですが」

「わかった。そうしてみよっか」


 アレグシアの氏族の巨人達には、ギガント・センチピードの解体を進めてもらう事にして、人間族のぷれいやあと面会する事が急に決まったのだった。


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