DAY? 他プレイヤーの動きと運営の反応

「ソウイチが、ロストしただって?」


 人間族領域で最大の権域を誇るマルダスティア皇国の皇都リディストに、プレイヤー達の間で初めてクラン設立を果たしたリーダー、アルスは、にわかには信じ難いニュースをもたらした副リーダー、ルディアに問いただした。


「疑うなら自分でプレイヤーサーチしてみれば? 存在しないプレイヤーネームって反応返ってくるから」


 言われて試してみて、サーチ結果のプレイヤー表示がグレーアウト灰色表示になってるのを確認したアルスは、周囲に聞こえるような感想を漏らした。


「あれは、プレイヤー間で初めて、NPC氏族の一つを支配下に置いたとか、アナウンスが流れてなかったか?」

「確か、猿人族だっけ?たいして強そうでもなかったけど」

「それでも、配下の数が増えれば増えるほど自身も強化されるユニークスキル持ちは一応警戒しとくかって話をしてたような」


 クランハウスのリビングルームでくつろいでいたメンバー達が、思い思いに会話に参加していた。ある者は茶をしばきながら、別の者は菓子をつまみながら、また別の者は酒を啜りながらといった感じで。まだ昼間だったが、風紀を著しく乱したり、クランハウスやメンバーに被害をもたらさなければ罰は与えないというルールは、メンバーの間で歓迎されていたし、メンバー達からの要望が強まらない限りは独断でルールを変えるつもりは、アルスには無かった。


「誰か、偵察に出向いてなかったか?」

「あー、行ったよ。往復で一週間以上かかったけど、大したことない連中だったよ。人語を解する手長猿一族みたいな?」

「グデン、連中がただのNPCで、プレイヤーにとってはモブにしか過ぎないとしても、数は力に成り得る」

「へーへー。リーダー様は真面目過ぎだよ。さすがに集落や住居の中にまで入り込んでいけなかったんで推測だけど、300から500くらいかな」

「つまり、それくらいのステータスを底上げされていたソウイチを倒した存在が、獣人領域の方にいるという事だな」


 自分達のリーダーが考え込み始めたのを見て、他のメンバー達は副リーダーであるルディアに進言した。


「うちらは、人間族の領域で最強のプレイヤー集団を形成する。その方針は間違っていないと思うし、継続すべきだと思うんすけど」

「自分も、今でも間違ってないと思うよ」

「人間族が、プレイヤー達にとって一番やりやすい領域なのは確かだし」

「でも、全種族の間でおそらく最弱な存在ってのも、ほぼ確定してるでしょ」

「現在までに判明している他種族の間で、最強が竜族、次点が巨人族なのは、ほぼ間違い無いだろう。貴族勢力の差異を認識しておく必要はあるが、プレイヤー達のレベルは上がるし、βテスト開始や、本サービス開始では、今と比較にならないくらいの数のプレイヤー達がこの世界に訪れる。レベルアップによる強化などを考えれば、現状勢力は参考情報にしかならない」

「にしては、リーダーさんは熟考されてるみたいだけど?」


 アルスは、自分に会話のボールが振られたのに気がついて、思考プロセスをいったん中断した。


「皆が話している内容は、それぞれ間違い無いだろう。これまでのMMORPGなら、αからβ、βから本サービスまでに、ユーザーデータに逐一リセットが入るのが普通だった。ただし、これは人類史上初のフルダイブ式のMMORPGだ。これまでの常識に囚われては足下を掬われる可能性もある」

「わかったよ。また様子を見に行ってくればいいんだろ?」

「すまないな。ソウイチをロストさせた相手がどう出てくるか読めないので、1パーティーで向かってくれ」

「では、副リーダーの私と、前回も様子を見に行ったグデンと、他に2、3人見繕って行ってきますよ」

「行くのは構わないんだけど、ただ様子見に行ってくるだけってのはつまらないかもな」

「敵対的な相手なら、力試しをするくらいは構わない。ただし、交渉の余地があるなら、交渉を優先してくれ。なにせ、獣人も全体の中での地位は低い。猿人族自体が、獣人族の間でも低めの地位だったらしいしな」


 それから遠征メンバーの選出と調整を詰めて、αテスターの間で攻略最前線を突き進む有力クラン、<夜の無い世界デイライト・オンリー>の副リーダーで中位ジョブの魔導師として三属性の魔法を操るルディアと、盗賊から中位ジョブの暗殺者に昇格したゾルグ、守護戦士のパティア、双刀剣士のジュウゾー、森では回復魔法を含めた万能役とも言えるドルイドのウルシュの五人で、獣人領域の探索に向かう事になったのだった。


☆★☆


 人類史上初となる、フルダイブ技術を駆使したMMORPGを開発し、αテスト集団人体実験を実施している世界的ゲーム企業イズゥオルデの開発チームのリーダーでマネージャーでもあるマルクは、チームメンバーと進捗を確認していた。


「記憶を制限されていない、一般のαテスター達の大半は人間領域からゲームを開始。多くのプレイヤーは一日の最大プレイ時間を8時間までと制限されて、毎日健康診断で異常が確認されない事を条件にプレイし続け、ゲーム内時間で十日が経過して、平均レベルが10前後。ここまでは、αテスト開始前の想定通りか」

「記憶を制限された特別なテスター達は、今のところ健康状態に異常無し、健康状態が理由の脱落者も無しです。健闘していると言えるでしょう」

「彼らは、潜りっぱなしだからな。それだけ異世界として没入し易くもあるだろう」

「それぞれ異なる特典ユニークスキルも与えてあるしね」

「現在までで、特筆すべきプレイヤーはいるか?」

「人間族の領域で注目すべきは、最速でクランを結成し、レベルだけでなく、人間領域内で確固たる地歩を築きつつあるアルスとそのクランメンバー達。

 竜族の大陸でスタートしたプレイヤーの中で唯一生き延びて竜達との交流を育みつつあるソフィー。巨人族の大陸で同様に活躍しつつあるロイド。以上三名が、一般のαテスターとしては頭角を現しつつあります。まぁ、ソフィーは特殊な扱いではありますが」

「彼女に関しては置いておけ。他の特別枠のプレイヤーの間では?」

「南大陸からスタートして、冒頭で人間族と接触を持ったものの、その後は昆虫系の魔物の森へと向かい、そこで獣人族の一氏族である狼人族を助けつつ、巨人族の一部や、猿人族達とも協力関係を築き、攻略も極めて効率的に進めている者がいます」

「そのプレイヤーに与えられた特典ユニークスキルは?」

「サイズ変更です」

「・・・よろしい。経過報告は随時上げてくれ」

「了解しました。何かバランス調整などは必要でしょうか?」

「まだゲームは始まったばかりで第一段階の途中だ。第二か第三段階の進展に支障をきたすようなら検討しよう」

「承知しました」


 そうして、各スタッフはそれぞれの仕事タスクへと戻っていったのだが、マルクは、話題になっていた特別枠のプレイヤーを検索して、プレイ開始からこれまでのプレイ動画を等倍速で見始めたのだった。

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