DAY15-17 弓矢の練習と、超巨大ムカデとの戦闘

 翌朝。これからの活動方針をミジャとまた相談した。


「甲虫系はそろそろ卒業して、次に戦うとしたら、何がお勧め?」

「森の奥に進めば、より大きかったり、より強い魔物達がいるのは確かなのですけど、それらと本格的に闘い始める前に、ユート様の攻め手を増やしておきませんか?」

「どゆこと?」

「以前にもお話しした通り、ただ大きくなって力押しするだけで倒してしまえる魔物は、これからも多いでしょう。それらに備える意味はあまりありません。

 リノやスタグといったビートルがそうだった様に、大きくなれば済むという訳ではない敵と出会う機会が、今後増えていくのは、おそらく間違いありません。

 中でも、ぷれいやあなる者達は、ユート様とは異なる特別な力を与えられ、倒しても蘇るそうですし」

「確かにね。ソウイチみたいのがまた出てきたら厄介だし、徒党組まれてたりしたら、もっと厄介だろうね」

「狼人だけでなく、猿人達もユート様のお力になろうと努めるでしょうけれど、最大の力はやはりユート様自身になるでしょうから」

「それで、具体的には、次に何をすればいいと思うの?」

「弓矢とか、いかがでしょうか?」

「放った矢を巨大化とか出来れば、かなり便利そうだね」

「はい。殺人蜂を大量に倒したお陰で、毒針素材から毒矢も大量に作れますし」


 ミジャがすでに狼人族に頼んであったのか、甲虫系素材で作ったらしい弓と、普通の矢、兵隊蟻や甲虫素材や、殺人蜂の毒針を鏃に使ったらしい矢が、たくさん用意されていた。


 最初は、キャンプ地近くの木の幹に的となる目印を刻んで、弓を引き矢を放つ動作に慣れていった。最初はまっすぐ飛ばなかったり、的を大外しする事がほとんどだったのに、何時間か練習すれば、的にはだいたい当たるようになった。

 当たるようになってからは、的までの距離をだんだん離していって、初日は十メートルくらいから始めて五十メートルくらいで練習を終えた。


 翌日は、隠れているカマキリとか動かない標的に対して弓矢を放ってみた。ちゃんと当たれば一撃で倒せたりもしたけど、細い体に当てるのはなかなか難しかった。ついでに、矢が弓を離れる瞬間に倍の大きさにしてみる訓練も積み重ねてみた。矢と弦を引く手を離す瞬間だと、矢が弓を離れるまでに狙いが少しずれてしまうので、難しいけど矢をつがえる時に弓に添えている左手で、矢が弓を離れる瞬間に巨大化できるよう練習していった。矢が離れる瞬間なら、最大限に巨大化できるしね。


 動かない標的から動く標的を、だんだん遠間から狙うようにもし始めて、三日目には百メートルくらい離れていても、樹液を啜ってるリノ・ビートルの背中くらいは貫けるようになった。飛び回ってる時はまだまだ無理だけど、単純な投擲よりは遠間を攻撃し続けられるようになったのは大きかった。巨大化した毒矢とか、効き目やばかったしね。


 弓矢の訓練をしながら、森の奥部の探索も進めた。

 甲虫とは違う黒い光沢を放つやたら嫌悪感をかきたてる存在は問答無用に射殺したり、巨大と言ってよいサイズの食虫植物は火矢で射殺したり、見た事の無い形状の昆虫系魔物を見るのは、怖いもの見たさ的な楽しみまであった。

 そして、帰り道を考えるとそろそろ引き返そうかと考え始めた辺りで黒い壁の様な何かに行き当たった。


「壁?こんなところに?」


 と左右を見回してみると、一定間隔で、巨大な足が生えているのがわかった。二メーターちょっとの身長だとどちらが頭か尾かもわからなかったので、一瞬だけ五倍くらいの大きさになってみてわかった。超巨大なムカデだと。全長は軽く百メートル以上ありそうだった。


 その場からちょっと離れて、ミジャと相談してみた。

「あれって、手を出してみても良い類?」

「普通なら、絶対に手を出してはいけない類です。ただし、ユート様なら話は異なります。今、最大でどれほど大きくなれましたっけ?」

「レベル13だから、その2倍で、26倍って事は、だいたい五十五メートルとちょっとくらい? 相手の全長は、たぶん百メートルかもう少し長いくらいに見えた」

「近くから見えてるのは、胴体のどれくらいの部分でした?」

「だいたい真ん中くらい」


 それからミジャと作戦をいろいろ練ってみて、相手が動いてない内に仕掛けてみる事にした。相手が暴れ回っても良いように、ミジャにはだいぶ離れた位置にある木の上で見守ってもらう事になった。


 初手。殺人蜂の毒をたっぷりと塗ったリノの角槍を持って最大限の巨大化。思い切り振りかぶって、超巨大ムカデの胴体に向かって突き刺して、地面に縫い止めました!


 寝てたか何かで動いてなかったムカデさんは大激怒!角槍はサイズ固定して地中深くまで突き刺さってるから、簡単には抜けない。地表をびったんびったんと激しく暴れ回る振動とかを避け、巨大化を解除した状態で頭側へ。


 おそらく最大の弱点というか急所である頭部は、のたうち回ってるのもあって弓矢とかで狙えそうにはなかったし、体の中央を地面に縫い止めてる角槍を何とかしようと攻撃してたけど、超巨大ムカデの顎の大牙でもすぐには壊れそうになかった。


 つまり、頭側に回った自分の事は完全に奴の警戒対象から外れていた。

 超巨大ムカデが角槍にかじりついてるタイミングで最大限に巨大化。両手に持ったスタグ・ビートルの双刀で、超巨大ムカデの腹側を乱打していった。


 太鼓の達人とか、ってxxxがあったよーな、とかまた誰のどことも知れない思い出がよぎりもしたけど、上半身?の腹側にいくつも大穴を開けられてはたまらなかったらしい。


 こちらを振り向いて反撃しようとしてきたところでバックステップ。相手の体が限界まで延びきったところで、両手の双刀をムカデの頭に向かって振り下ろし、地面に叩きつけた。

 後はもう、超巨大ムカデが動かなくなるまで、殴打を続けて、そろそろ空腹がやばい頃になって、ようやく微動だにしなくなった。下半身の方を含めて。


 レベルが一気にいくつか上がったけど、確認は後回しにした。称号もなんか増えてたし。


 その場で一休みしてから、ミジャを迎えに行って木の上から下ろして食事を済ませて、超巨大ムカデの頭部の方へと戻ったけど、ほとんど原型を留めていなかった。


 ミジャは何かを言おうとして、いったん口を閉じ、言葉を選ぶように労ってくれた。


「ご無事で何よりでした」

「ありがとう」

「しかしまた、とんでもない相手を倒してしまいましたね」

「状況と、相性というか噛み合わせが良かったんだろうね。いきなり遭遇してたら、もっともっと苦戦してたろうし」

「その時は逃げるか隠れるかして欲しかったですけどね。強くなり続けていくのであれば、いずれどこかで倒していた相手でしょうけれど」

「だね。それで、こいつの素材とか、どうする?」

「普通は持って帰れませんが、ユート様なら何とかなってしまうのでしょうけど、丸ごとというのは、さすがに悪目立ちし過ぎるでしょうね」

「そうだねぇ、さすがにね」

「今でさえ、各種族の間の力関係をユートさん一人で崩してしまうかも知れないのですから、今後はより注意が必要になっていくでしょう。はっきりした後ろ盾も増やしていった方が良いのかも知れませんね」

「そっちの方のむずかしい話は、ミジャとかにお任せするよ」

「あの巨人のお嬢様も、いつ戻ってきてもおかしくないですけどね」

「・・・とりあえず今は、持って帰れそうな物を持って帰って休もう」


 ミジャに運んでもらってた背負い駕籠と共に、最大限に巨大化。大ざっぱに超巨大ムカデの頭部付近を解体したら駕籠の中へ放り込んだ。顎の大牙は、鋭くて使い勝手が良さそうだった。巨大ムカデの胴体も背中側からすぱすぱ切れるくらいに。


 顎の牙も背負い駕籠に放り込んだら、まとめてサイズを縮めていったん大きさを固定。十メートル以上のサイズの駕籠が中身と一緒に一メートルくらいまで縮められるって超便利!重さもその分軽くなるし。


 家に帰るまで遠足・・・、ってなんだそれ?とか思いながら帰宅。塀の外にいつの間にかテントが増えてる?

 荷物を塀の内側に置くと、エディンさん達が待ってた外側へ移動。


「お疲れのところ申し訳ございません。一族の間で相談したところ、ユート様のお側に、何名かを侍らせて頂きたいという事になりまして、お許しを頂きに参りました」

「侍る、って、仕えたいって事?」

「おおよそ、そうです。手下というか配下は必要でないと仰せなのは重々承知しておりますが、軍隊蟻や殺人蜂、甲虫の素材などを数多くご提供頂いており、一族の間でも武装を急速に整えてはいますが、より大きな勢力に狙われた時に堪えきれるかというと、危ういものがありますので・・・」

「猿人達にもかぎつけられたのですか?」


 ミジャさんの声が、なんか冷ややかだった。


「かぎつけられた、というよりは、先日来何かにつけて往来が生まれており、目に見えて連日の様に変化があり、それらは全てユート様由来で、彼らにしてもユート様にお仕えしたいと望む者は多く、彼らの里長も、我らの里長も苦慮しつつ、なんとか思いとどまらせている状況なのです・・・」


 ミジャはため息をつきながら、自分に問いかけてきた。


「どうなさいますか、ユート様?この上に、森の主の一角を倒してきたなどといったら、押し留めるのは不可能に近くなりますが」

「細かい調整はミジャやエディンさんや里長さん達にお任せするけど、自分がいつでも彼らを守ってあげられるとかは、思わないでね。この森の中に全員で移住してくるとかもいろいろ問題があるだろうし」

「他のぷれいやあなる者達に目をつけられる事もあるでしょうからね。・・・この際です。あの巨人達も、私の母の氏族も、巻き込んでしまいましょうか」

「大丈夫なのですか?」

「皆が、あの森の主の死体を見れば、様々な波が方々から起こるでしょう。あの大きさは隠しきれる物でもありませんから」


 そして、まるでタイミングを計ったように、狼人の里の方から、巨人達の足音が響いてきた。その先頭にいるのは、あのお嬢様で、従えてる人数は前回の2倍くらいに増えていたけど、あの爺や的ポジションの人もいた。


「明日。その森の主とかいうのを倒した場所に連れていくから、狼人と猿人の里長達にも来てもらって。

 今日はもう疲れたから休む。休みたい」


 そう言いながら、こちらを見るなりつまみ上げようとした巨人のお嬢様の指先に触れて、自分と同じくらいにサイズを縮めて、さてどこまで説明して、いつになったら休めるのやら、と少し気が遠くなったのだった。


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