DAY10-night(閑話1)

 ユートさんが寝息を立て始めてしばらくしてから、私は傍を離れて外へ出た。


 キャンプ地を覆う背の高い塀が目に入る。

 最初は大樹に寄り添った掘っ立て小屋しか無かったのに、ユートさんのスキル検証で作られた木材を活かして、掘っ立て小屋は、ユートさんが窮屈な思いをせずに一通りの生活が出来る大き目の小屋に建て替えられていたし、調理場や資材置き場、厠、普段使いする薬草や調味料の素となる香草の類を育てている畑など、だいぶ施設が整えられてきていた。


 私は次に何を建ててもらおうか考えながら、塀に囲われた敷地の端の方へと足を運び、小屋から一番遠い隅の前で立ち止まった。


 そう待たずに、塀の向こう側から声がかかってきて、私はホウ、と小さく応えた。

 すると塀の上に手がかかり、エディンさんが塀を乗り越えてこちらに降りてきた。


「ご苦労様です、お嬢様。今日もいろいろ大変だったようですね」

「下手をすればまた何人傷ついて死んでいたかもわからなかったが、今回もユート様のおかげだな。それはともかく、ミジャはもう私の侍女ではない。むしろ」

「いえ、もう今更ですから。母の本当の古里にまで戻れる事もあるかどうか」

「受け入れてもらうのが難しいのは確かだろうが、それもひとまず置いておこう。ユート様のご様子は?」

「帰られてからも、悩まれてるというか、考え事をされていました。ぷれいやあとか、りすぽおんとか」

「何か尋ねられたか?」

「死んだら蘇るのかとか」

「無いな」

「そう答えました」

「であればやはり」

「わざと死ぬつもりは無いそうですが、ぷれいやあと呼ばれる人々の一人なのでしょうね。あの特別なお力もそうですけど」

「巨人達の間にも、そして猿人達の間にも存在を知られれた。私達と出会う前には、人間族の領域にもいたという。いずれ、隠れようとしても隠れられない存在になるだろう」

「あの巨人族のお嬢様は、ユート様につきまとうでしょうしね」

「頭の痛い事だが、全てはユート様の意志次第だ。ユート様がどうされるかは、ユート様自身が決めるだろう。ミジャ、あなたも同じようにするといい」

「同じように、ですか」


 ユートさんは、人助けはするものの、積極的に責任を負おうとはしない。手下を欲しがらないのも表裏になっているだろうし。

 でも、冷たい人間ではないのよね。ここ数日を一緒に過ごしてきてわかったけど、変な事をしようとしてこないし、戦闘とか危ない事からは遠ざけておいてくれるし、食べ物はお腹いっぱいまで食べさせてくれようとして、でも無理強いはしないし。

何より、何かしようとしてる時に、私がどう思うか聞いてきてくれるし、私の意志を尊重してくれるところがいい。


 ユートさんは、どちらかというと朴訥だけど、甘い果物を食べて頬を緩めたりするところとかはかわいい。

 料理に関して、下手すると自分で全部やろうとして任せきりにはしてくれないのは、今後要交渉かな。


 そんな想いに耽っていたら、エディンさんが私をにまにまと見つめているのに気付いた。

 気恥ずかしいのをごまかすように睨んでみたけど、効果は無かった。


「なんですか、その目は」

「くくっ、また来るよ、ミジャ。ユート様がお土産にくれたという殺人蜂キラービーの蜂の子、里で大好評だったと伝えておいてくれ」

「わかりました。お伝えしておきます」

「それと、ユート様をよろしくな」

「言われなくても」

「わかっている。それに、彼女アレグシアよりもあなたの方が有利な立場にいると、覚えていて損は無いと思うな」

「それって・・・、もうっ!」


 少し頬が火照ってしまっているのを感じた。

 エディンさんは笑いつつ塀を飛び越えて去ってしまい、足音も聞こえなくなった。


 私はついでのように塀の内側をぐるりと見回った。

 就寝前に異常が無い事を確認するのと、頬の火照りと胸のざわめきを落ち着かせる為に。


 普段なら一周で済む普段のルーチンは、三周もかかった。

 ユートさんが近くで眠っている寝床へと戻り、普段ならすぐに寝付けるのに、この晩はなかなか寝付くのに苦労して、結局翌朝は寝不足になったのだった。

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