DAY7~9 軍隊蟻戦と殺人蜂戦、新スキルの検証など
翌朝。日が昇る頃には起き出して、しっかりとした朝食を済ませて、食べられる動植物や虫やそうでないものなどのレクチャーを実地で受け始めた。
キャンプ地の周囲をぐるぐると巡りながら、2時間ほど経った頃。休憩中に果実をかじりつつ、周辺で狩りやすい魔物の類がいるか訊いてみた。
「あまり強すぎず、毒も持ってなくて、数が多くて、それなりに倒しやすい相手が望ましいんだけど、そんな都合が良い魔物って、いる?」
「数が多い魔物だと、蜂か蟻が多くて、見つけやすくもありますけど、毒持ちでないのを選ぶなら、蟻になりますね。ただ、普通のでもそれなりに堅いし大きいし、兵隊蟻だと簡単には倒せないでしょうけど、ユートさんなら」
「はぐれて歩いてるのを見つけて試してみよう」
ってことになり、ミジャが知ってる軍隊蟻の巣の方へと向かうと、そう苦労せずに単体でうろついてるのを見つけた。
人間族の領域にいるような小さな蟻の百倍以上のサイズになるのかな?背の高さは一メートルくらい。全長は二メートル以上かな。
こちらを見つけるなり足を早めて近寄ってきたから、食欲か勤労意欲が旺盛らしい。
自分は、振りかぶっておいた短剣を、五倍くらいの大きさにサイズ変更しながら振り下ろした。剣で切るというよりは、重量で押し潰す感じだね。
目の前まで近づいてきていた蟻さんは、地面に埋め込まれるように絶命した。
「普通のだと堅さは問題にならないみたいだから、だんだん巣に近づいていきながら、兵隊蟻とも戦ってみたいね」
「無理は禁物ですよ?獣人の里総出でも、軍隊蟻の相手は避けるくらいなんですから」
ミジャの忠告を受けて慎重に蟻さん達を狩り続けてると、やがて地面に空いた穴が見えてきた。穴の直径は、五メートル以上はあった。
「一つの巣穴に、どれくらいの蟻がいるかわかる?」
「さあ? 少なくとも百匹から、数百匹くらいはいるんじゃないかって言われてるみたいです」
「わざわざ巣に突っ込んでいって狩り倒そうなんてしない限り、わからないものね。
ところで、ここの昆虫というか魔物達って、火や煙を嫌がったりする?」
「ここの昆虫や魔物達に限らず、火や煙を好むものの方が希少でしょうね。蟻達を炙り出すんですか?」
「んー、今日は少数だけ試しに狩れれば良いから、巣の入り口に燃えた木の幹でも突っ込めれば、兵隊蟻さん達が出てきてくれるかな」
「・・・やりすぎないで下さいよ?」
「一応は気をつけるよ。まだ死にたくないし」
という訳で、少し引き返して、お手頃サイズの倒木の大きさをなるべく小さくして、ミジャに火を点けてもらった。(彼女はちょっとした魔法が使える便利屋さんでもあった。戦闘向きなほどではないけど)
火をある程度育てたら、木の大きさを元に戻して、自分の体のサイズを巨大化。燃えさかる倒木を手に、軍隊蟻の巣の入り口の目の前にまで運搬して地面に置いた。
煙にいぶられた普通の働き蟻?達は右往左往するだけだったけど、働き蟻の倍近く大きくて堅そうな兵隊蟻さん達は、燃えさかる木の幹を噛み砕いて消火しようとした。
そんな好機を逃す筈も無く、自分はそんな兵隊蟻さん達に向けて、短剣を何度も振り下ろした。頭部と胸部、または胸部と腹部の間に刃が当たれば一撃で倒せた。そうでなければ半殺しくらいにダメージは与えられたけど、押し潰せるというほどでも無かった。
完全に大型たいまつ?が噛み削られて消火されるまでに十匹以上の兵隊蟻他を倒して、レベルが7に上がったので、水場の方へと逃げた。足跡か何かを辿られてキャンプ地に復讐に来られると厄介だしね。
幸い、蟻達から追っ手はかからなかったので、水場からキャンプ地に戻る途中で見つけた大きな芋虫を狩って、お昼の食材にした。
午後からも、同じ巣に対してアタックをかけた。アタックというか、嫌がらせと虐殺の組み合わせとも言えたけれど。
何度目かのアタックでは数十匹の軍隊蟻を繰り出してきたので、いちいち剣で叩き潰すのだと間に合わなくなり、その場で思い切り地面を踏み固める感じで蟻の巣穴の出口ごと踏みつぶして塞ぎ、レベルがまた一つ上がった。
兵隊蟻の甲殻は、獣人達にも良い鎧の材料になるらしいので、破片をなるべく拾い集めてキャンプ地に帰ったらそれで日が暮れてしまった。
翌日の午前中は、なるべく食料になる魔物、芋虫さんとかを狩って、草や蔦を編み合わせた駕籠みたいのを作ってもらい、巨大化した状態で、素材や食料を一気に里に運んだりした。
エディンさん他、新たに里の長になった獣人のポイトさん(老狼という風貌の渋い人)に紹介してもらったり、獣人勢力の相関関係などを教えてもらったりしてから、キャンプ地へ戻った。
夕食後、ミジャが明日の予定を尋ねてきた。
「明日も軍隊蟻を狙うのですか?」
「そうだね。なるべく普通の蟻や兵隊蟻を倒した後に、たぶん巣の最奥にいる女王蟻を倒してみたい。それまでにレベルがあと1個か2個は上がるだろうし」
「そのれべるというのは何なのですか?」
「魔物とかと戦っていくと、その経験値が貯まっていって、一定値に達するとレベルが上がるんだ。自分の場合は、それでユニークスキルの威力とかが少しずつ上がる感じだよ」
「どんな風に上がっているのか、お伺いしても?秘密にされるなら、あえて教えていただかなくても大丈夫ですが」
「しばらくはミジャと二人でやっていくから教えておくけど、他の人たちにはなるべく話さないでね。って言っても、もう知られてる人たちには知られちゃってるけど」
「みだりには秘密を漏らさないと誓います」
「重いよ。とはいえ、そのくらいでいいのか。確かめようがないし。
でね、自分の力は、自分か自分が触れてる対象のサイズを変更すること。レベルが上がるほど、そのサイズ変更の大小の幅が大きくなる感じだね」
「なるほど。それで、里で見た時よりもさらに大きくなれるようになったのですね」
「そういうこと。レベルが上がるほど、より長く変化できるようにもなるし」
「それは、レベルを上げない理由がありませんね」
「だよね。だから、今はがんばって、なるべく上げておきたいんだ」
獣人の里に素材とかをお届けしたお礼というかで、巨人達が忘れていった巨人サイズの槍と、獣人さん達が木こりする時に使う大斧をもらった。油とかの日用品も。
燻すと虫が嫌がって近寄らない草をミジャに教えてもらい、なるべくたくさん集めて、火をつけた草の束を持った状態で巨大化したら、草の束を巣の入り口に詰め込んで塞ぎます。
ちょっと待ってから巨大化を解除。クールタイムが終わるまで待っても兵隊蟻とかが出てこないのを確認したら、小さくして運んであった巨人の槍を再び小さくして、地下に蟻の巣が広がってるだろうなー、って辺りで、槍をなるべく地中深くに突き刺してから、サイズ縮小を解除。巨人サイズに戻ったのを確認して、末端の握り束くらいしか地上に出てないのを確認したら、最大限巨大化!
今のレベルが8だから、7メートルくらいの長い槍は、8x2で16倍になるから、ええと、百メートルちょっとになるのかな?
サイズを戻す時に槍が地中深くに残らないように、自分もある程度大きくなって、槍の束を握りながら元のサイズに戻して、後は周辺でその繰り返し。
少しずつ経験値が入って、穴ぼこだらけになった頃にはレベルが上がった。
午後にはぼこぼこになった地面をスコップで掘り返しながら、蟻さんが出てきたら倒してというのを、ほぼ制限時間いっぱい巨大化してまた戻ってクールタイム終えたら再開してを繰り返した。
すりばち状に掘り進み、地表から百五十メートル以上は降りた辺りで、大きめの空洞、とはいえ高さは十五メートル、直径は五十メートルくらいはありそうな空間に足を踏み入れた。
ていうか、足が突き抜けた感じで、これまでより頑丈そうな兵隊蟻と、奥の方に女王蟻らしき十メートルはありそうなのがいたので、スタンピングしたりスコップを突き刺したりしながら一掃したら、また一つレベルが上がって、10に達しました。
――レベルが上がりました。
――新たなスキルを獲得しました。
――<蟻の殺戮者><孤軍奮闘><勇猛沈着>の称号を得ました。
――それぞれの詳細はステータス画面から確認して下さい。
地面に這い上がり、合間合間にミジャが用意してくれてた食料で空腹を満たしながら、ステータス画面を確認。
先ず、レベルが10に上がっていることを確認。
新たに得たスキルというのは、ユニークスキル:サイズ変更の派生したものらしく、サイズ固定という物だった。
サイズ固定:
・サイズ変更スキルで、サイズを変更した対象の大きさを、レベルx時間の間、固定する。
・消費されたり、死亡したりした場合は、変更され固定された大きさと質量のままとなる。
・任意のタイミングで、固定化を解除して、元の大きさに戻すことも可能。
・ただしその場合、固定化していた時間と等しいクールタイムが経過するまでの間、サイズを変更したり、再びサイズ固定することはできなくなる。
よくわからないけど、これは後で要検証だな。いろいろ使いではありそうだいし。
そして称号の方は、単純なメリットしか無さそうだった。
<蟻の殺戮者>
蟻系魔物の巣を単独で破壊し、その支配者まで倒しきった者に与えられる称号。蟻系魔物と戦う時の攻撃力が+20%、防御力が+20%される。
<孤軍奮闘>
単独で、数百体以上の魔物の群を倒しきった者に与えられる称号。同時に敵対する対象が多ければ多いほど、自身のステータスが底上げされる。
<勇猛沈着>
・レベル10まで己一人で闘い続けながら、一度も死なずに到達した者に与えられる称号。全てのステータスが+10%される。
・これまでと同様に死なずに闘いながらレベルを1上げる毎に、全てのステータスが+1%される。
・いずれかのタイミングで死んだ場合でも、この称号で蓄積されたステータス上昇ボーナスは破棄されず、また死なずにレベルを上げきった場合は、蓄積は再開される。
・・・・・はっ!?
基本的にメリットのあることばかりしか書いてなかったんだけど、勇猛沈着の称号の最後の記述を読んで、驚きのあまり意識が飛んだ。
ミジャにも心配されて声をかけられたけど、答えられなかった。
だって、仕方ないだろ。
死んだら終わりだと思ってたのに、まるでそうじゃないような書かれ方をしている・・・。
そんなんじゃ、まるで、xxxみたいじゃないか?
xxxって何だ?、ってのは思い出せなかった。たぶん、重要なキーワードぽいのだけど、思い出せない物は仕方ない。
ミジャが里からもらってきてたパンの大きさを二倍にしてサイズ固定してから、その半分くらいをちぎって食べてみたけど、見かけ通りの大きさのを食べたくらいの満腹感があった。
ミジャにも残りの半分くらいを食べてもらったけど、やはり見かけ通りくらいの食べ応えはあったみたい。
このスキルは、かなりやばない?と思ったけど、いったんスルー。
斧を持って外に出て、ミジャとも相談して、木材向きな木を何本か、巨大化して切り倒した。
三十メートルくらいの高さがある木を二本普通に切り倒してから、もう一本は切り込みを深く入れてから巨大化してサイズ固定。重みで
それぞれをキャンプ地の四方に置いてみて、翌朝。
そのままのサイズで普通に切り倒してから巨大化した二本は、元の大きさに戻っていた。切り倒す直前巨大化しサイズ固定してから倒した大小の木は、固定したサイズを保っていた。
自分の背丈くらいから十倍くらいの大きさにしサイズ固定してから切り倒した木を、試しに、1/10にサイズ変更してから解除したら、十倍くらいのサイズに戻った・・・。
いや、これ、やばいだろ・・・・・・。
何がやばいって、食糧や資源とかの大きさ変えられるだけでもやばいのに、いったんサイズ変更→サイズ固定した後に、さらにサイズ変更や解除が出来る。検証を重ねていって、いくつかの法則を明らかにした。
・いったんサイズ変更→サイズ固定した何かにさらにサイズ変更→固定した場合は、再固定したサイズが基準になる
・ただし、サイズ変更の最大限または最小限の範囲は、レベルによる制限が限度となる。(レベル10なら、20倍又は1/20倍が上限あるいは下限となる。例えば20倍で固定しておいた何かを、それ以上大きくは出来ない)
スキルの説明書きにもあった、「ただしその場合、固定化していた時間と等しいクールタイムが経過するまでの間、サイズを変更したり、再びサイズ固定することはできなくなる」という縛りはあるものの、トラップその他にいろいろと応用が効きそうだった。
ただし、使いどころを間違えると自分の首を絞めることになりそうなのはわかったので、ミジャに伝えた。
「この新しいスキルについては、しばらく秘密な」
「そうですね。大きくなったりできるだけで非常な存在のユート様の価値が、天井知らずにまで跳ね上がってしまいますからね・・・」
「好き勝手できるようにするには、もっともっと強くなっていかないとな」
「その時には、価値もまた跳ね上がってそうですが。別のスキルとかも身につけてて」
言い返せなかった自分は、とりあえず一番大きな木材を八等分に切ってから、さらに丸太を四等分に割って、薪みたくなった木材をキャンプ地の周囲に壁の様に突き立てておいた。
普通に切り倒した二本の木は、里に復興用の素材として運んでから、今日の狩りへ出発。
「今日は何を狙うのですか?」
と訊かれたので、蜂と答えておいた。
「新しく得た称号の一つが、相手の数が多ければ多いほど自分が有利になるみたいで、蟻は倒したから、次は蜂で試してみようかと」
「そしたら、万が一に備えて毒消しも用意しておきましょう」
「助かるよ」
ミジャは戦闘には参加してないけど、そのサポートには非常に助けられていた。
殺人蜂の巣がある方へと向かいながら、毒消しの素材も収集して、準備を整えながら進んで、やがて遠目に殺人蜂の巣を確認できる場所まで到達した。
「また蟻の時と同じように倒すのですか?」
「いいや。巣が地中じゃないし、もうちょっと単純にやってみようかと思う」
ひとまず、大きな音を立てても蜂が寄って来ないくらいにまで離れた場所まで戻って、手頃な高さの木を切り倒します。
次に、切り倒した木を小さくサイズ変更。虫除けの煙を炊くのに使う草や、火口に使う草とかを枝葉に結びつけたり、そうでない箇所には油を振りかけたりしてから火を点けます。
ある程度火が回ってから、木のサイズを戻し、体を巨大化。10x2だから、背の高さは四十メートル以上に達してた。
火の点いた木を持って蜂の巣の方へと戻り、木のサイズx20倍くらいの距離の地面に立ててから、最大限巨大化しながら、木の枝葉の部分が殺人蜂の巣を直撃するように、倒していった。
五十メートル近くの巨人が、二百数十メートルの木を倒していくので、ある意味壮観な光景だったと思う。スズメバチ、ってどこで知ったんだっけ?まあそんな存在を十倍くらい大きくしたのが殺人蜂で、そんなのが軽く百匹近く飛んでる巣の辺りを、燃え盛る巨木の枝葉が直撃。一撃で地面へと叩きつけて、たぶん中身もまとめて崩壊させてた。
レベルがまた一つ上がったみたいだけど、自分の体の何倍も大きな木を持ち上げては地面に叩きつけたりするのは、めちゃくちゃ大変だった。
そんなのを十分くらい続けてまた一つレベルが上がった頃には、周辺に散ってたらしい殺人蜂達が戻って来たので、巨大化を解除して、燃える木はサイズを縮小して持ち運びながら、エディンさん達を助けた場所へと逃げて行った。
殺人蜂達の動きも遅くは無かったんだけど、相手の数の分だけ自分の
大蜘蛛の巣が残ってるところに着いてからは、自由に飛び回れない蜂達の残党を落ち着いて倒しきった。
追加の蜂が現れない事を確認しながらしばし休んだら、蜂の巣の方へと戻り長槍と巨大化して、遠間から巣の残骸が落ちた辺りをしつこく叩き続けると、また一つレベルが上がって、<蜂の殺戮者>の称号もゲットした。内容は、蟻の蜂バージョン。
巣の大きさは直径十五メートルくらいあったから女王蜂やその子供達も巣の中に居たのだろう。蟻よりもレベルが上がったのは、毒持ちな分経験値が多かったのかな。経験値が何にせよ。
油断はせず、巣を落とした周囲は何時間か執拗に煙でいぶってから、巣を解体してみた。ミジャ曰く、蜂の子は獣人達にとっても滅多に食べれないご馳走らしいので、もし叩き潰されずに残っているのがあれば、里へ持ち帰ってあげる事にした。
数十体の殺人蜂の幼虫を駕籠に入れて里へと向かってる途中、ついこないだも見たような煙がまた上がってるのを見て、途中で駕籠を地面に下ろして、里まで全力で駆けて出したのだった。
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