DAY6-2 アレグシアからの求愛と、ミジャとの出会い
「お嬢様、落ち着いて下され」
五人の巨人の中でも、一番背が低いだろう一人が、自分を握りつぶしかけた直後に求婚してきた誰かを諫めてくれた。
「落ち着いている」
また自分を握る力がぎゅっと強まったので、
「落ち着いてない!」
と指をタップしつつアピールしてから、一言余計かも知れない言葉を付け加えてしまった。
「お嬢様だったら、誰かと出会ってすぐにプロポーズなんてしないし、その相手を握りつぶそうともしないと思います!」
そんな常識?めいた事をいつどこで聞いたのかとかは相変わらず思い出せないのでスルー。でも巨人のお嬢様?はちゃんと聞き届けてくれたらしく、そっと地面に下ろしてくれた。
下ろしてくれたのは嬉しいのだけど、ついさっき痛めつけたと言ってよい巨人さん達に囲まれてる状況は、なかなかに命の危険を感じました。
だから、せめて会話の主導権くらいは握ろうと思ったのだけど、
「そなたの名前はなんというのだ?私の名は、アレグシア・ギュベレーという。これでも巨人族の十大氏族の末席の跡取り候補だ」
「お嬢様、がっつき過ぎです。いくら釣り合うかも知れない殿方とようやく出会えたのだとしても、相手は人間族ではございませぬか」
「だとしても、そなたらよりは大きくなれるし、強くもあるだろう」
「それはそうかも知れませぬが」
巨人の他の二人は、手足を骨折した一人を手当てしたり介抱するのに忙しそうなので、お嬢様であるらしいアレグシアさんのブレーキ役を買って出てくれてるのは、一番小さくて一番老人ぽくもある一人だけだった。
で、自分についての情報をどこまで明かすかは迷ったけど、話し合えるぽい巨人族とは、最低でも情報交換出来る関係性は保っておきたいとも思ったので、自分の生死に直結しそうな情報以外は段階的に開示してみる事に決めた。
「自分の名前はユート。ここではないどこかから来たらしいけど、どこから来たのかははっきり覚えてない」
「なんと」「まぁ」
「それで、最初は人間族の領域の方に出たんだけど、いろいろあって、強い魔物がたくさんいて、食べるのにも困らない場所として、昆虫系魔物の森を紹介してもらって、そこで獣人の人達をたまたま助けて、里に送り届けるところに、あなた達が襲撃してるのに出くわして、止めてみた感じ。
こっち側の事情はそんなところだけど、そっち側の事情は?獣人達を食べようとして襲ってたの?」
「まさか!違うわよ」
「巨人族内の事情と、お嬢様が次期当主であられるギュベレー氏族の内情とによります。ユート殿」
「ユートでいいですよ」
「いえ、人間族の身で我々を打ち負かし、お嬢様の配偶者になるかも知れない方ですから」
「まあいいや。どうぞ先を続けて下さい」
グアルドゥフさんという老巨人さんが語ってくれた話をまとめると。
・この世界には、中央島と呼ばれる、各種族で最優と認められた英傑達が集っている。異界からの門の守護がその役割とされている
・その中央島の北東にあるのが竜族の大陸ラグランデ、北西にあるのが巨人族の大陸マーヅイヴァ。南の大陸オイゲンではその他の種族が覇権を争っていて、人間族や獣人族がいるのも、ここらしい
・アレグシアさん達が属するギュベレー氏族は、長らく巨人達の十大氏族に名前を連ねる名門だったけど、ある時期から落ち目となり、下位氏族が力をつけて地位を(ほぼ)奪われ、領地から追い出されてしまったので、南大陸に安住の地を求めてやってきた
・巨人の間では、より大きな者が、より強い力を持つ者として崇められ、有力氏族の高位の者ほど大きな者が多く力もまた強い
・アレグシアさんは、次第に小さな者しか生まれなくなっていたギュベレー氏族の間では飛び抜けて大きな体躯をもって生まれてきた為、次代の氏族長として定められたものの、氏族全体の地位が低下していて上位氏族からの婿入りが絶望的な状況に重ねて、氏族内に釣り合う者もおらず、結婚が絶望視されていた
・南大陸に巨人はほとんどいないものの、希にはぐれ氏族と呼ばれる者達もひっそりと居着いてはいる(竜族や巨人族の大陸にも、同様に根付いている他種族の者達もいる)ので、その中から婿を探す目的もあって来ていたところに、自分と釣り合うくらいに大きく力も強い自分に出会い、当然求婚した
・というか、巨人の男性から女性への求愛行為の一つが、男性が女性を正面から押し倒せるかどうかで、自分ははからずもその試験に合格してしまっていたらしい。なんですかその蛮族ルールは・・・?
一気に情報を流し込まれて頭がパンクしかけそうになった。わかりやすく説明してくれたグアルドゥフさんにお礼を言ってから、アレグシアさんに尋ねた。
「それで、アレグシアさんの氏族はまるごとこちらに渡ってきたのですか?」
「いや、私たちは先遣隊としてやってきた。ここから昆虫系魔物の森を迂回するように西と北の間を数日進んでいった先の海岸に、ひとまずの居留地は築いてあるが、そこにあと五人ほど来ている」
「氏族全体で何人くらいいるかも気になりますが、十人だとしてもほとんど敵無しなのでは?獣人さん達もけっこうやられてしまってましたし」
「大神の定めし規則はある。それぞれの種族を根絶やしにしてはいけない。しようとした者達は神罰を受けて滅ぼされると」
「我々としても、視察先で遭遇して、良く言葉も通じないところに険悪な雰囲気になって、争いとなり、彼らの里を襲いはしたものの、彼らを根絶やしにするつもりはありませぬ」
「うーん、獣人さん達としては、言葉もあまり通じない巨人さん達がおしかけてきて、たぶんお帰り願ったんだけど押し負けてしまったって感じだと思うな・・・」
「種族間の争いそのものは禁じられていない。それは種族内の間での争いとそう変わらない」
「みんな武闘派だな~。というか神様禁じておいてよ、そういうの・・・」
「それは、無理な相談だろうな」
背後から聞き覚えのある声が聞こえてきて、振り返ればエディンさんと他数人の獣人さん達がやってきていた。
「無事だったんですね、良かった」
「ユートのお陰でな。それで、戦っていた筈の巨人達となれ合ったのか?」
「なれ合うというか、この世界の事とかまるでわかってなかったから、いろいろ教えてもらってたところですよ」
「なるほど。ここではないどこかから来たというのは本当の様だな」
「というと?」
「さっきの神様についての話だ。各種族を創造された神は、あくまでも各種族にとっての神だ。獣人なら獣神オクスル、人間なら人神ユエル、巨人族なら巨神ならウェギン、竜族なら竜神シアといった感じに」
「あれ、でも、そしたら世界は誰が作った事になってるんですか?」
「主神が創造された。主神が世界と神々を創造され、世界の理(ことわり)と掟を定められてから、お隠れになられた」
「消えたって、死んだって事?」
巨人達も獣人達もざわめいて、こいつ何言ってるんだという目で見られるだけでなく、殺気めいたものまで感じたけど、仕方ないじゃん。知らないんだもの。
「ユート。今の様な発言には注意した方が良い。相手によっては、即座に攻撃されても文句は言えないくらいに危険だ」
「ありがと、アレグシアさん。以後気をつけるけどさ、その為にも、何で危険な発言になるのか、理由も教えてもらえないかな?」
「端的に言えば、主神が亡くなった時には、世界そのものが滅び消失すると言われているからだ」
「それ、本当なの?いや、確かめようも無いんだろうけどさ」
「ユート・・・、本当に気をつけてくれ」
「エディンさんまで。ごめんね、わかってなくて」
「人間族でも子供の頃から叩き込まれてるだろう常識が無いのだから、ここではないどこかから現れたのだとも、だからこそ悪気も無いのだと私達はわかるが」
宗教、怖い。
まあ神様が本当にいるらしい世界だから、元いた世界とは違うのかもだけど・・・、って、元いた世界ってなんだ?
「というかだな。それぞれの種族は、それそれの種族の生み親たる神が亡くなれば滅びるとも、世界と神々を生んだ主神が亡くなれば世界も神々も、つまり我々もすべて滅びるとも言われている。だから隠れられているだけとどの種族の間でも信じられているし、その常識を疑い否定するような言動をする様な者は、主神と神々と世界とそこに生きる全ての種族を敵に回すと覚えて、決して忘れないでくれ。絶対に、だ」
「わかった。忘れないし、もう不用意な発言はしないよう気をつけるけど、この場でもう一つだけ聞いておいていい?」
アレグシアさんとエディンさんが視線を交わして、やれやれとかぶりを振ったりため息をついたりしたけど、仕方ないじゃん。たぶん大切な事だと思うから。
「えっとさ、主神はなんで隠れたの?世界と神々の創造神なら、そのままずっと君臨?してればいいのに」
「それは神話に伝えられています」、とグアルドゥフさんがまた教えてくれた。
この世界と神々を生み、神々はその眷属たる各種族を生んで、この世界に満ちていき、平穏な時代がかなり長い間続いたらしい。
だが、ある時、世界の中心に異界からの穴が開いて、侵略を受けた。神々と各種族が力を合わせて戦い、異界からの侵略者達を撃退。主神が異界からの穴を塞ぐ門を作って封じ、その守護を、各種族から選ばれた英傑達に命じ、再度の侵略に備えて力を蓄える為に主神はお隠れになられた、ってことらしい。
うん、神話、だね。自分がこの世界で目覚める前にどんな神話を知ってたのかは思い出せないけど、神話だと思った。神様についての話なんだから、そのまんまとも言えるんだけど。
「つまり、いざという時の為に、各種族がまた力を合わせないといけないから、どこの種族でも根絶やしにしちゃいけないってことね」
「そういうことにもなるな」
「じゃあ、巨人族と獣人族の間の話はそれでケリがついてるってことで。自分は自分で、いざという時の為に、なるべく強くなっておきたいから」
正直、世界とか神様とか、どうでも良かったし、戦ってた巨人と獣人の間に立って仲裁とかも面倒でやりたくなかった。本気で巨人達が獣人達を殲滅する気なら、自分にはたぶん止められないだろうし。
自分は自分の荷物を拾いに行ってから、エディンさんに教えてもらった昆虫系魔物の森、獣人達はポートラの森と呼んでるらしい、の水場へと戻り始めた。
当然の様にアレグシアさんはついてきた。グアルドゥフさんが止めようとしても聞き入れない。
エディンさんは、自分がどこに向かおうとしてるのかだけ聞いて、後日また一族の代表とお礼をしに行くと言い残して里へ帰っていった。けが人や死んだ人も多いだろうし、里が燃えてしまってこれから大変だろうから気にしないでいいよとは言ったのだけど、苦しい時だからこそ、恩知らずにはなりたくないとのことだった。
「ねぇねぇ、また私を小さくしてよ。君と同じくらいに」
「やだよ。あれだってずっとは出来ないから」
自分が小さくなる分にはコストはかからないっぽいのだけど、どちらにせよレベル数x2分の制限はかかってるし、能力はいざという時の為に取っておきたいしね。
アレグシアさんはその存在だけで虫除けになるみたいで、水場につくまでに魔物と遭遇せずに済んだ。
自分が水場の傍らに拠点を設営し始めると、彼女は尋ねてきた。
「しばらくはここにいるの?」
「ここから移動するかも知れないけど、しばらくはこの森にはいると思うよ」
「わかった。私もいったん氏族の居留地に報告しに帰らないといけないしね。用事が終わったらまた戻ってくるから!」
「別に戻ってこなくていいから」
レベル上げの助けにもなりそうなんだけど、戦う相手がみんな逃げちゃうなら、邪魔にしかならないんだよね。。
兜を外した素顔は、巨人ではあるけど、整ってて綺麗だとも思えたんだけどね。でも婚約者とかって無理じゃないの?としかまだ思えないし。
「ねえ、何日か会えなくなるんだし、別れる前に、また私を小さくしてよ」
「なんで?」
「あなたが大きくなるのでもいいけど、とにかく、触れ合っておきたいでしょ。そのまま掴みあげてもいいんだけど、同じくらいの大きさのがいいでしょ?」
「・・・まだ恋人同士でも無いのに?」
「ユートは、私じゃダメ?」
んー、と考えてみて、改めて彼女を小さくしてみて、自分よりだいぶ目線が低い彼女を見下ろしてみると、綺麗で、かわいらしいとも言えなくもない。
彼女は彼女で、誰かを見上げるという機会そのものが少ないのか、感極まったように抱きついてきて、なされるがままにしておいた。
それでも、やっぱり気になったことは聞いておいた。聞かないよりは、聞いておいた方が良いからね。後々の面倒が少なくなるし、これからの方針立てやすくなるし。
「あのさ。想像してみてほしいんだけど」
「うん?」
「自分に関して、ほとんど何も思い出せない状態で、見知らぬところに放り出されて、たぶんとにかく強くなっていかなきゃいけないことがわかってる時に、出会ったばかりの誰かと恋仲になったり、結婚したいと思う?」
彼女は自分の瞳をじっとのぞき込み、考えながら、答えてくれた。
「私は、ユートの力になれると思うぞ?」
「だろうね。ただそれに慣れちゃうと、対等じゃなくなっちゃわない?人間と巨人という違いもあるし、依存しちゃいそうだし、そういうのは、嫌かな」
「ユートが言うこともわからないでもないし、大事なことだとも思う。けど、そうしたら、私はいつまで待てば良い?ユートは今でも私を倒せるではないか?」
「少なくとも、ここで一人でやっていけるくらいには強くなって、さっきいろいろ聞いたことを理解して、うまく言えないけど、この世界に自分の足で立てたら、かな」
「わかった。ユートならそんなに時間はかからないだろうし。少し屈んで」
言われた通りに、視線が合うくらいに屈むと、首に両腕を回して抱き寄せられて、互いの頬を左右交互にすり合わせてきた。
最後に額をこつんと合わせてささやいた。
「今は、ここまでで。気をつけてね!」
「あ、ああ」
気が済んだようなのでサイズ変更を解除すると、みるみると元の大きさに戻り、仲間達を置いてきた方へと戻っていった。
あれはたぶん、巨人族の間の親愛を示す行為というか、恋人同士がやるようなことなんだろうなぁ、と推測はできた。けど、嫌か嫌じゃないかで言ったら、嫌じゃなかったので、受け入れておいた。
「ま、なるようになるだろ」
そうつぶやいて夕飯を、焼いておいた芋虫肉を暖め直して食べていると、今度はエディンさんがやってきた。
「大変でしたね」
「私と他3人の命だけでなく、里の危機を救って頂いたことには、感謝の念しかありません」
「いいよ。成り行きだったし」
「でも、だからこそ、一つお聞かせ下さい。ユート殿は、巨人達とつるみ、あの女を娶るのですか?」
「さあね。まだほとんど何の状況も分かってない内から、身を固めようとか思わないし、巨人達とも敵対的な関係じゃない方がいいかなってだけだよ。獣人達ともそうだけどね」
「・・・そうですか。重ねて助けて頂いた身で、差し出口を挟むことも難しいのですが、先ずは、こちらを」
エディンさんが差し出してきたのは、何かの植物繊維とかを織り込んだ編み紐の腕輪だった。
「この森には、様々な毒虫の類が棲んでいます。魔物だけに注意していれば良いという物ではありません。その腕輪は、その類の虫を近寄らせない効果があります」
「ありがとう。すごく助かります」
「それと、こちらはもしお気に召したら、で構わないのですが・・・」
エディンさんとこの森に同行していた内の歩けていた二人もついてきてたのだけど、その後ろから、獣人にしては人間に近い容姿の、たぶん女の子が姿を現した。というか、二人に背中を押されて、恐る恐るという感じだったけど。
「ミジャといいます。見ての通り、生粋の獣人ではなく、人間族との間に生まれたものの、そちらの暮らしが馴染まなかったのか母親が里に連れ帰ってきましたが、やはりどうしても浮いてしまっていました。
母親の方は数年前に病で亡くなっており、里全体で養ってきましたが、先ほどの襲撃で蓄えはほぼ底を尽きました」
「えーと、つまり、人身御供?」
なんでそんな言葉をってのは以下略で。
「ユート様の身の回りのお世話くらいは出来るでしょうし、この森で食べれる植物や虫や動物や魔物の見分けも一通り教え込まれております。お邪魔にはならないかと」
「えと、それだけ聞けば、助かるだけかもしれないけど、自分はいろいろ危ない相手とも戦うつもり、だよ?」
女の子、といっても、自分と年はそう違わないかも、せいぜい三年前後?中学生くらい?中学生ってなんだ?、とかは今はいい。
ミジャと呼ばれた女の子はびくびく怯えてたけど、危ない相手と戦うという一言には、はっきりと目に見えてわかるほどに震えた。
「ああ、君に戦わせるつもりは無いからそこは安心して欲しいけど、留守番任せるにしても、そこ襲われたりしたら責任持てないんだけど?」
「里に預けられていた命です。逃げ足は一人前にありますので、危なくなれば逃げることも出来ましょう。今はその預けられ育まれた命を使うべき時です」
エディンさんや、ミジャの背後にいる二人も、覚悟の決まった目をしてるので、こりゃ覚悟が覆らなそうだな、と内心ため息をついた。
巨人側にはっきりとついてほしくないからなんだろうけどさ・・・。
「ミジャさん。戦ってもらう必要は無いし、基本、留守番してもらって、自分が持ち帰った物から食べられる物の選別とかしてもらえるだけでもうれしいかな」
「あの、それは、構わないんですけど、でも、その・・・・、へ、変なこととか、しませんか!?」
「変なこと、って」
背中の方から小突かれたのか不自然に体が揺れて痛そうな表情を浮かべていたので、注意した。
「とりあえず無理矢理誰かをそうするつもりはないし、誰かにそんなことを無理強いする誰かを助けるつもりは無いかな。もう何度か助けたことを後悔するくらいには」
それでミジャはほっとした表情を浮かべて、背後にいた男達から離れて数歩近寄ってきた。
「では、ミジャ。我らは戻るが、ユート殿のお世話を頼んだぞ」
「は、はい!」
エディンさんがそれでも念を押してから他の二人と完全に去ってから、自分は言った。
「さっきまでいたアレグシアさんて巨人の女の人に求婚されてる身っぽいから、そういう心配はとりあえずしなくていいよ」
「そうなんですか?」
「いろいろあって、そうなってるぽい。まだ婚約者でも恋人の関係でも無いけどね。気に入られてはいるみたいだから」
「そ、そうですか!良かっ」
口を慌ててつぐんだけど、少し遅かったね。
まあでもとりあえずやらないといけないことは他にある。
「キャンプ地選びだけど、お勧めの場所はある?」
「はい。水場の近くは便利ですけど、それだけ他の生き物も寄ってきますからね。虫除けの腕輪にも使われてるアムニシダって草が生い茂ってる所の近くで、大きな木の幹を背に出来る場所が良いですね。そこを壁にして、三方をアムニシダの茂みで囲えば、かなり安全になると思います、から」
アミッドさん達の思惑がいろいろあったにせよ。このミジャさんは決して口減らしとか美人局みたいな思惑だけで自分に預けられた訳ではなくて、自分への恩返しの意図が強くあったのだろうなと伝わってきた。
十五歳くらいなら、たいていのことは出来ておかしくないし、怪我人の手当とか、その為の薬草集めとかだって出来そうだし。
「任せるよ。今夜はゆっくり休んで、明日から食料に出来る魔物を狩ったり、薬に出来るような植物を刈ったりして、余ったら里のみんなにも分けてあげるようにしよう。困った時はお互い様ってね」
「はいっ!」
歩く間にも、ミジャは目に付いた雑草にしか見えない、でも特定の特徴を持つ草花とかを収集して駕籠に収めていた。
いろんなことが立て続けに起こった六日目も、暗くなる前にミジャの見立てによるキャンプ地の選定と、自分とミジャの二人分の就寝スペースと煮炊きできる調理スペースと、少し離れた場所のトイレスペースの確保と設営を日が落ちるまでに済ませられた。
雨漏りせず、虫除け素材もふんだんに組み込み、通気性まで保たれた快適な空間で、落ち着いて夕食を作り済ませられた。虫除け素材の一部は刺激の強い匂いの物が少なくなかったけど、我慢できる範囲。
夕食後、ミジャといくらか言葉を交わした。
「自分は助かってるけど、本当に自分のところに来て良かったの?」
「はい。里に余裕が無いのも、自分が周囲から浮いてる存在ってのも事実でしたし」
「その浮いてるってのは、お母さんが出戻りってだけではなく?」
「はい。母自身が別種族との間に生まれてましたから」
「ハーフじゃなく、クォーターってわけか」
「はーふ?くおーたー?」
「忘れていいよ。エディンさん達とは、毛並みの色とか模様とかも違ってたしね」
エディンさん達が狼系の獣人だとすれば、ミジャは狐系の獣人に見えた。人間との混血ってのもあって、だいぶ人間寄りだけど。体の表面の大半は人間と同じ皮膚に覆われてて、エディンさん達みたいに体毛に覆われてる獣人とは明らかに違ってた。その一点だけでも、かなり浮いてた存在というのは伝わってきた。
「それに、私も命を救って頂いた一人ですから」
「そこは成り行きだから気にしないでいいよ。助けられなかった人達もたくさんいただろうし」
「いいえ。偶然にしろ、恩は恩ですから。
さ、明日は、ここから徐々に探索範囲を広げていきますから、早めに休みましょう!」
別に否定する理由も無かったから草葉で作った寝床に横たわり、マントにくるまった。
明かりになってた焚き火はミジャが消して、彼女は別の寝床に収まった。しばらくして、寝息が聞こえてきた。狸寝入りかどうかは知らないけど、彼女にとってもきっと大変な一日だったことは間違いないだろう。
それに、彼女くらいの年齢の女の子が、暮らしてた共同体からハブられてたとすれば、なんで危険な森に詳しくなったのか、ある程度察せた。
詳しくならざるを得なかった。その知識や経験を、里の恩人で、守り手になるかも知れない存在に恩を返すというより着せる為に寄越した。他種族間でも、同種族間でも、争いは起こってるみたいだし、どこの世界でも大変だな~、とか思ったりした。
どこの世界でもって、何のことだ?とも思わないでも無かったけれど、自分もいろいろあって疲れていたらしく、すぐに眠りは訪れてくれた。
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