DAY6-1 巨人族との接触

 朝食を済ませた後、エディン。元気な方がゴエラさんがマルヴさんに肩を貸し、プエトさんは杖をつきながら歩いた。魔物の類、特に群れに遭遇した時に、エディンさんが即座に対応できるように。


 周囲を警戒しながら歩きつつも、情報収集は互いにした。


「ユートはどうしてあの場所というか、森に?」

「端的に言うと、強くなる為?」

「あの蜘蛛の魔物に捕まってた我々が言えたものではないが、危険だぞ?」

「あの蜘蛛は、自分にとってそう危険な存在では無かったですね。他には、どんな危険な魔物達がいるんです?」

殺人蜂キラー・ビーの群が、その獰猛さと数の多さ、猛毒持ちと三拍子揃っている事で、出会ったらすぐに隠れるか逃げるかした方が良い」

「毒は厄介そうですね」

「巨人ならまだしも、我々や獣人などの大きさの生き物であれば、たいていは動けなくなる」

「他には、どんなのがいるんですか?」

暗殺蟷螂アサシン・マンティス。年を経た物ほど大きく育っていくが、小さくてもユートくらいには大きい。周囲の植物に紛れる事が得意で、ほとんど音を立てずに忍び寄り、その鋭い鎌は皮鎧の類なら容易に切り裂く」

「気付けないのは怖いですね」

「他にも、その鱗粉を吸い込むと動けなくなる蛾の類や、森の生態系でも最強に近い軍隊蟻アーミー・アント、鉄の武器でも跳ね返す甲殻を持つビートル系など、脅威は多い」

「お言葉ですが、成人の儀式ってのは聞きましたけど、なんで獣人のみなさんはそんな危ない森に出入りしてるんですか?」


 エディンさんは小さなため息をついて、他の三人の顔色を伺うように視線を飛ばしたけど、三人の男性は横に顔を振った。その回答を元に、エディンさんはすまなそうに言った。


「詳しい話は、里に着いてからするが、昔はもっと暮らしやすい別の場所に住んでいたのだ」

「まあ、何らかの事情があったんでしょうけど、ここら辺一帯って、巨人と獣人の領域がぶつかりあうような場所って聞いてます。昆虫系魔物達の領域が、その緩衝地帯になってるそうですが」

「詳細は里長達に語ってもらうとして、獣人達の間の勢力争いと、南下してきた巨人達との遭遇を出来るだけ避ける為だ」

「エディン、それ以上は」

「わかっている、ゴエラ」


 お話タイムは終わってしまったので、後は黙々と歩いたり、休んだりを繰り返して、そろそろ夕方が近づいてきた頃に、向かってる方角の空が赤く染まり、黒い煙が立ちのぼっているのが見えた。


「里が・・・!」

「エディン、先に行け!」

「すまん、ここは頼んだ、ゴエラ!」

「自分もついていきますよ」

「ついてこれなければ、置いていくだけだ」

「このまま真っ直ぐ進めばいいだけなら、いずれ追いつきます!」


 実際、自分の倍以上の速度で走り去っていった。よく分からないけど、人間なら誰も追いつけないくらいの早さで。それこそ、五輪のメダリストとかでもない限り・・・、って、五輪とか、メダリストとか、なんだったっけ?どうしてそんな事を知ってる・・・・んだっけ?


 まあ今はそんな事よりも、炎に包まれて、襲撃を受けてる真っ最中なエディンさん達の里と、襲撃してる巨人の一団の方が問題だった。


 人数は、五人。そのどれもが、自分が先日倒した巨人の倍以上は大きかったし、内一人は三倍から四倍くらいは大きかった。全員が鎧甲よろいかぶとを着込み、長剣や槍などで武装していた。

 あれらを不意打ちだけで、倒すのはたぶん無理だなと察した。人間達よりも身体能力に恵まれた獣人達が、数十人がかりで巨人達の足下を攻め立てているけれども、ダメージが入ってる様子は無くて、文字通りに蹴散らされたり、一人、また一人と巨人の武器の餌食になっていってた。


「エディンさんは見つからなそうだし。巨人達をどうにかしないとお話って状態にもならなそうだし、どうしたものかな~」


 自分は、獣人さん達よりも大きそうだったので、目立たないように物陰に隠れて考えた。


 小さくなって近づく?

 あの巨人達だけでなく、獣人さん達にも蹴飛ばされたりして無事じゃ済まなそう。

でも、大きいままだと見つかりそうだし・・・。


 そうして一番大きな巨人を見つめると、他の巨人達と違って、じっと立っているだけだった。他の四人の巨人達がその周囲に立って戦ってる感じ。


 つまり、守られる側?大きいし、単純に弱いとも思えないけど。五人全員を一度に相手取るよりは、やりやすそうだったので、目標ターゲットは君に決めた!


 里の燃えてる建物とかの背後をこそこそと伝いながら、なんとか大きな巨人の後ろの方へ移動。気が付かれずに近づく方法は考えてもわからなかったので、勢いに任せる事にした。


 とりま、炎上してる家屋から、燃えてる柱を二本引き抜いて脇に抱えたら、大きく息を吸い込んで(煙で咽せそうになったけど)、巨大化しつつ叫びながら突進した。


「どっけえぇぇぇっ!」


 獣人さん達踏み潰しそうだったしね。

 こちらを向いてた巨人二人が先ず自分に気付いて硬直した。獣人さん達は、大きな巨人よりもさらに大きな巨人が突っ込んできた事で逃げ出してくれた。

 大きな巨人がたぶん二十メートルくらい?声に反応してこちらに振り向きつつあったけど、目線はこっちのが高い。

 二メートルちょいの(最後に測った時で二メーター二十センチくらいだっけ。あれ、どこで測ったんだっけ?思い出せないけど、今はいいや)の自分が、レベル6x2で12倍なら、二十五メートルよりは大きくなる感じ?


 抱えてた燃えてる角材も同様に大きくなってるから、炎の固まりが突き出されてくれば、払いのけたり、防いだり、つまりはそっちにかかりきりになる訳で。

 自分は角材で二人を脇に押しのけて、大きな巨人へと突進。自分の姿を視線で捉えてはいたけど、武器を構える様子は無かったので、そのままタックル!

 二十五メートルの巨人に、二十メートル超の巨人が押し倒されると、その場にいる小さな人たち(小さめの巨人含む)にすれば、悪夢でしか無いよね。


 両足を抱えるように飛びついたので、その場?に押し倒す事は成功した。地響きが凄かった。体勢と互いの体の位置関係のせいか、顔に弾力的な何かの感触があった(当たった)気がしたけど、鎧越しだし気のせいだろう。

 体を起こしつつ、大きな巨人の体のサイズを最小サイズにまで縮めて、おおよそ人間の女性?くらいにまで小さくできた。

 うん、なんか、かぶとの下の面立ちとかが女性に見えなくもなかったけど、それはさて置いて、彼女の体を慎重につかんで、マントのフードの中に投げ入れた。


 貴様、お嬢様をどうしたぁっ!?、みたいな事をたぶん叫びながら巨人さんの一人が打ちかかってきた。

 盾を構えて攻撃を受け止めてから、その体を両手で掴んで、思い切り上に放り投げた。

 レベルが上がって、体の最大サイズが上がると力強さも上がっているのか、十メートルはある巨人さんの体が、自分の今の背丈の何倍かの高さまで飛んでいった。

 それを見つめて呆然としていたもう一人の巨人の両足を掴んでぐるぐると振り回す!いわゆるジャイアント・スイングっていうんだっけ?よくわからないけど、もう二人の巨人も打ち倒した後に、そーれ!と回しながらぶん投げた。


 その頃には上に投げた巨人さんも落ちてきて、地面にすごい勢いで激突!うん、自分の身長の何倍もの高さから落ちたら、怪我するよね。腕とか足とか折れてそうだった。


 この場に限っては圧倒したけど、ずっとはむずかしいのがわかってたから、フードに手を突っ込んで、小さくしてある巨人さんを取り出して、手の中にいる彼女?に尋ねた。


「これ以上酷い事はしたくないので、降参してもらえませんか?」と。


 言葉が通じるかどうかは半信半疑だったけど、彼女?はうなずいて、何かを周囲の巨人達に呼びかけて、それでとりあえず戦闘は収まりそうだった。


「エディンさん、獣人さん達にもいったん戦闘を止めるように言って。この人達にもいったん退かせるから」


 自分が里の外に歩いていくと、巨人さん達は倒れてる人に手を貸して運びながらついてきた。振り回されて投げ飛ばされた一人が頭を振りながら最後尾で警戒しつつ。


 獣人達の里から少し離れ、ゴエラさん達を待たせてる辺りで、大きな巨人さんを地面に下ろしてから、自分の巨大化を解いた。


 もちろんだけど、巨人さん達に驚かれた。

 中でも、自分がいったん小さくした一番大きな巨人さんがたぶん一番驚いて、自分を思わずといった感じでがしっと捕まえて握りしめたので、そのまま殺されるかとも思いました、はい・・・。


 でも、彼女は自分の苦しそうな表情を見て、手の力を緩めて、女の人の声で尋ねてきた。


「さっきのは、何だったのだ?幻ではないのは、確かだ。私が人間の女性くらいに大きさを縮められたのも、そなたが我が一族の男子らを放り投げていたのも、現実だった。ならばなぜ、そなたは小さく縮んでいる?いつでも大きくなれるのか?ならばなぜ大きくなっていないのか?誰か決まって相手はいるのか?そう、婚約者とかだ。もしいないのなら、私はどうだ?」


 とか何とか。一息に言われたので逐一突っ込めはしなかったけど、最後の一言だけは看過できなかった。


「とりあえず、会ってすぐ結婚を決めるとかは無いと思います。お互いに良く知り合ってからでないと」

「それもそうだな。ではそうしよう」


 おかしいな。言葉が通じ始めた筈なのに、通じてない気がする・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る