DAY2-2 ウルフとの戦闘と、迎準備撃

「森には、どんな魔物とかがいるんですか?」

「浅い辺りに出るのはゴブリンやら、グレイ・ウルフなどだな。単体ではさして強くもないが、群れる事が多いので油断は危険だ」

「でしょうね。そういった魔物を倒したら、どこかで買い取ってもらえたりするんですか?そう、例えば、冒険者ギルドみたいのってあるんですか?」

「冒険者ギルド?その様な物は無いが、ゴブリンの右耳を門の兵士に渡せば、銅貨2枚と引き替えてもらえるし、狼の毛皮や肉は、狩人ギルドや商会などで引き取ってもらえる」


 森の中に時折訓練と魔物の間引きで訪れているというアイシャさん達に、森のそう深くない場所に流れてる小川の方へと案内してもらった。


「試したい事があるので、よっぽど危なくならない限り、任せて下さいね」

「わかった。だが、無理はしないように」

「ありがとうございます。びびりですし、無理はしませんよ」


 どうだか、と疑いの眼差しを向けられたが、今更だ。

 まとまってると魔物が寄ってきてくれないかも知れないので、小川についてからは、自分が先行して、アイシャさん達には少し離れてついてきてもらった。


 やがて、ゴブリンの三匹組と出会った。水を飲みに来てたらしく、ちょっと離れたところにもう二匹いた。思ってたより少し多めでも、かまわない、かな。


 こちらに気づいた三匹が威嚇してきたけど、近寄られる前に巨大化。一歩踏み出して、ドシン!と踏みつけたら、すぐに巨大化を解除。

 うん、一瞬ならほとんど空腹感を覚えないみたい。

 つま先や踵だけでなく、靴底も厚い革製のを選んで鉄板で補強してもらった甲斐もあって、ぐちゅりと何かを踏みつけた感覚こそあっても、靴底が抜けたり何かが染み込んできたりとかはなかった。

 ただ、さっき踏みつけた川辺の近くには大きな足跡が残って、ゴブリンの死体はほとんどがその底に埋まり込んでた。耳を切り離すのは難しいかも。


 ちょっと離れた辺りにいた二匹の片方が腰から下が潰された状態だけどまだ生きてたので、歩み寄ってさくっと殺ったら、また脳内にレベルアップのアナウンスが流れた。

 ステータス確認はどうせレベル表示しか変わってないだろとスルー。

 戦闘が一区切りついたところで、アイシャさんが声をかけてきた。


「数が多くてどうかとも思ったけど、心配は無用だったようだな」

「相手が弱かったせいもあったでしょうね。すばしっこい相手なら手間取る事もあるでしょうし」

「その為の道具か」

「ですね。うまくいくといいですけど」


 また小川沿いに進みながら、今一度装備を確かめた。背嚢にはテントなどのキャンプ用品が詰め込んであり、手には投げつけられもする短槍。もう片手には半身が隠れるくらいの盾。腰には短剣。腰裏には秘密兵器ってほどじゃないけど、重りを端につけてある投網。背嚢には予備の長槍をくくりつけてあった。


 しばらく歩いていくと、狼と出会った。

 えーと、おぼろげな記憶にある大型犬よりもさらに大きくて、すばしっこそうで、自分の背後から歩いてきてるアイシャさん達の匂いも嗅ぎつけたのか、すぐに襲ってくる事はせずに逃げ出したので、後を追った。


 川を背に森の中の方へと走る内に、何度か狼が吠えてたせいか、その仲間が集まってきて、いつしか取り囲まれてた。見えるだけで五頭以上。見え隠れするのを入れたら十頭以上はいそうだった。


 タイミングと位置取りを調整。見えてる狼達のちょうど真ん中辺りへと移動。


「ユート!」

 というアイシャさんの心配する声が聞こえてくるのと同時に、四方というか五方から狼達が一斉に飛びかかってきた。

 自分は、体の大きさを目一杯小さく、レベル4の2倍だから1/8?だいたい二メートル以上の身長が三十センチ未満くらいに縮み、狙い通り、狼達は自分の頭上で空中衝突して、キャンキャンとか苦痛の声を上げた。


「これでも食らえ!」


 自分は腰裏に下げてた秘密兵器、投網を掴み、頭上に放り投げて、後ずさりつつ、体のサイズを元の大きさの二倍にくらいにしてみた。

 結果。仲良く網の中でもがいている狼五頭の姿があり、さくっと槍で突き殺した。

 アイシャさん達の方に回ってた狼も何頭かやられたみたいで、生き残りは逃げていってしまってた。


「ユート、さっきのは?」

「ええと、大きさを変えられるって事で」

「そうか・・・。まだ狩るのか?」

「いいえ。明るい内にテントとか張らないとですし、この狼達をさばいて皮とか肉とか剥ぎ取らないとですし」

「わかった。それくらいであれば協力しよう」


 ついてきてた兵士さん二人を合わせて計四人で、五頭の狼を川辺で処理して、血抜きや皮の剥ぎ方を教わった。内蔵は抜いて、地面の下に埋めたりする事とかも。

 それから、川下へ、ゴブリン達を倒したところよりも森際へと移動。小川の側ではなく、少しだけ森に入った辺りで、テントを張り、下草や木の枝を刈ったりして、テントに被せて偽装したりもした。


 手頃な大きさの石を使った簡易竈の作り方や、火の付け方(火を付ける為のチャッカマン?ぽい道具を勧められて買ってあった)や育て方を学びながら、簡単に塩をふっただけの狼肉を、これも買っておいた大きめのフライパンで次々に焼いて、四人で狼焼き肉をした。

 素朴な味わいだけど、量も食べれたし充分だった。


 空腹を満たした後は、アイシャさんが兵士さん達に少し離れて見張りに立つように命じてから、小声での話し合いというか、忠告をくれた。


「ユート。君は、兄上を辱め、私の側に立つと宣言してくれた。その事を、私個人としては、嬉しく思う」

「自分がやりたくてそうしただけなんで、お礼はいらないです」

「礼ではない。落ち着いて聞いてくれ」

「はい」

「私は、妾腹とはいえ、同じ子爵家の人間だ。あの町と周辺の領地を治める貴族としての立場もある。巨人の襲来を一人で防ぎ、跡継ぎに屈辱を与え、跡継ぎにはなれない者の支持を宣言した君は、端的に言って、とても危うい立場にある」

「簡単に言うと、恨みを買ったという事です?」

「兄上からはそうだろうが、父上はそう単純ではない。この領地は、人間の領域の端の方にある。それだけ、他種族の脅威にさらされやすいのだから、神からの恩恵としか思えないスキルを与えられたユートは、そう簡単に罰したり出来る存在ではない。害するなぞ論外だ」

「じゃあ、やっぱり安全?」

「兄上が、そんな理屈を飲み込めるような存在ならな」

「えーっと、暗殺者とか、そういうの差し向けられたりするんでしょうか?」

「その可能性はある。ユートの図体は大きいから、どこかに隠れ潜むのはむずかしいだろう。ならば君自身が言っていた通り、なるべく早く強くなっていくしかない」

「元々そうするつもりだったから、問題ありません」

「私は、この町に家族もいるし、離れられない。だが君は違う。

 ここから川沿いに北へと森の中を進めば、巨人の領域に近づいていく。森を西へと進んでいけば獣人の領域へと近づく。巨人の領域よりは安全かも知れないが、獣人もまた人間よりは格上の存在だ」

「他の方角は?」

「南へ向かえば、港町ユーグと海へとたどり着くだろう。港から他種族の領域へと船で向かう事も出来るが、お勧めはしない」

「危険だから?」

「危険だけではないのが事実だとしてもな。そして残る東の方角には、人間の領域が広がっている。君が戦いを忌避するような存在なら、東がもっとも安全だったかも知れない」

「じゃあ、東は無いって事ですね」

「ああ。兄上やその手下が一番やりやすい方角になるのは間違いない」


 少し離れたところで、こちらをちらちらと見てる兵士さん達に視線を向けてから、思った。あの二人の内、最低でもどちらか片方は、アイシャさんのお兄さんかお父さんの息がかかった存在なんだろうな、と。


「君がどの方角を選ぶにせよ、今夜は眠らない事だ」

「うーん、そうですね。これから強くなっていく事がわかってるなら、早い内のが倒しやすいですもんね」

「・・・私ももう戻らなくてはならないが、他に何か聞いておきたい事は無いか?」

「魔物がたくさんいて、レベル上げにも、食べるのにも、困らないような場所ってどこかにありませんか?」


 魔物が多いところの方が、追ってこられなそうだし、強くなれて食べていけるなら、当面はそれだけで十分そうだけど、そんな都合が良いところが無いなら無いでも、とか考えてると、記憶を手繰っていたらしいアイシャさんが言った。


「無くもないが、危ないぞ?」

「どこに行っても程度問題なら、一番都合の良い所を選びたいです」

「そうか。ならば、北西の方角へ向かえ。巨人と獣人の領域の狭間辺りに、昆虫系魔物達の巣窟となっている森がある。そこにいる芋虫達はとても大きいが、見た目はともかくとして、食べてみると美味だ。糸を吐いてきて手足を捕らわれると危険だが、君は例外だろう」

「わかりました。助言、ありがとうございます」

「では、幸運を祈っている」

「あなたも、どうかご無事で」


 ありがとう、とつぶやいて、アイシャさんは兵士さん達と町に戻っていった。


 アイシャさん達が去ってしばらくしてから森の際まで戻ってみて、三人が完全にいなくなってるのを確認してから、キャンプ地の周辺にいろいろ細工しておいた。まだ眠くなかったし、暇でもあったし。

 適当に折った枝の先をナイフで尖らせて、キャンプ地を囲うように外向きに地面に刺しておいた。少なくとも百本くらいは。

 ゴブリンとか狼くらいなら、それだけであきらめてくれそうな外観にはなったので、テントの中と外の細工も仕上げてから、適当に掘った穴の中にごろりと横たわり、上に枝葉を被せていった。


 やがて焚火も消えたけど、本当に来るんだろうか。来て欲しくないような、来て欲しいような。どっちつかずの気分のまま、夜はふけていった。

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