DAY2-1 メウピザ子爵と、その長子との面会とか
翌朝。
たっぷり寝て、ちゃんと朝食も頂いて、お昼すら頂いて、お昼過ぎに予定された子爵様との会見とやらに歩いて向かった。馬車に乗るには少しばかり自分の体が大きすぎたから。
子爵様は、ゆったりした体型と面もち通りのお方で、巨人を倒したお礼として、金一封って感じの謝礼というか報酬をくれると申し出てくれた。
でもその息子、おめーはだめだ。
「ありがたく思え。このイェギスがお前を召し上げてやろう。己が身命を賭けてメウピザ子爵家に仕えるが良い!」
金髪の、整った顔立ちではあるのだろうし、言ってることも貴族としては間違ってないのかも知れない。
自分は、脊髄反射はしないよう、一つ深呼吸を挟んでから、子爵家当主に尋ねました。次期当主と同じ見解ですか?、と。
「無理にとは言わないが、協力してもらえればうれしいとは思っている」
「はぁ」
身分が上の言う事には無言で従え、って事ね?
子爵様を囲う、なんなら護衛の兵士さん達の眼差しや雰囲気も似た感じだし。自分の味方は、自分の隣に座ってくれてるアイシャさんしかいない感じ。
「ちなみに、お断りしたらどうなる感じです?
あ、いちおう申し上げておくと、何事も無い内に、レベルとか上げておいた方が、後々役立ちそうってのもありますけど、ここにずっといられるのか、わからないですしね」
次期当主のイェギスさんの沸点はとても低かった。こめかみに青筋立てる人とか、初めて見たかも。
「貴族の申し出を断るのが何を意味するのか、体に叩き込んで教えてやろう!」
「兄上。この方は町を守って下さった恩人にございます。どうかご再考を!」
「兄などと呼ぶな、妾腹めが!」
ご当主様も止める様子が無いし、次期当主様の言う事に兵士さん達も素直に従うらしかった。アイシャさんは立って剣の束に手をかけ、自分を守ろうとしてくれた。そんな姿が、何とも言えないくらい、嬉しかった。
だから。自分のやる事は決まった。
「一宿一飯の恩だったかな。自分は、あなた達ではなく、アイシャさんの
体を、目一杯大きくしてみた。後頭部を天井で打つのが嫌だったから両手で覆ったけど、すぐに体が二階の天井まで突き抜けたのがわかった。
自分の前にいたアイシャさんが、自分の股下で無事にいたのを確認してから、次期当主のイェギスさんを軽く握りしめて、上空へと放り投げた。全力でじゃないけどね。
「う、あっぁぁぁっぁっぁっぁあ!?」
とかなんとかわめいてたけど、落ちてきたらキャッチして、また上空にリリースするのを何度か繰り返した。
地上何十メートルかに、何の安全装具も付けずに放り投げられて、自由落下を繰り返されたら、涙も鼻水も小便も、放出し放題になるらしい。
まだしばらく大きなままでいられたけど、ばっちいので、子爵様の目の前に、いろんな液体まみれになった息子さんをそっと下ろした。
「続けます?」
とも問いかけてみたけど、返事は無かった。
兵士さん達も腰抜かしてたし。
ばっちくなった息子さんを、子爵様は執事さんや侍女さんに命じて、どこかに運び去った。着替えは必須だろうしね。
兵士さん達が実力行使に及ぶ様子も見られなかったので、自分は元の大きさに戻った。壊れてなかった長椅子に腰を下ろして、子爵様に尋ねた。
「それで?」
何となく、格好付けた台詞を言ってみた。
アイシャさんは、顔色を悪くしてて、とすんと自分の隣に座った。
子爵様はうつむいて何度か首を左右に振ってから面を上げた。
「この町にいる間だけでも、何かあった時に協力してもらえると助かる。昨日の働きについてもそうだが、都度、働きに応じた謝礼を渡そう」
「一文無しなので、お金をもらえると助かります」
率直な物言いに、子爵様は微笑み、戻ってきた執事さんに命じて、たぶんそれなりの価値が詰まってる筈の革袋を渡してくれた。
細かい取り決めは、アイシャさんを通じて行う事になって、退出させられた。
城門を出るまで、背後は兵士さん達に固められていたけど、どう見ても自分達ではなく彼らの方が怯えていた。
城門から出て兵士さん達がほっとしているのを見たアイシャさんは一つため息をついてから言った。
「あれは、やりすぎだったのではないか?」
「すみません。つい、かっとして」
「イェギス兄・・様を殺してしまうのではないかと、心配した。傷一つなかったから良かったものの」
「反省はしますが、後悔はしてません。まあ、あんなのでもアイシャさんのお兄さんらしいですし」
「あんなのでも。確かにな。ちょっとだけ、胸がすいたのも事実だ。
が、城を壊すのはやりすぎだ。幸い、父上が不問にしてくれたから良かったものの」
「以後気を付けます」
お小言が一区切りついてから、この町というか、この世界?の通貨価値とかわからないので、子爵様からもらった謝礼のお金の価値を教えてもらった。
「金貨25枚、ってどれくらいの価値があるんですか?」
「少なくはない。一般的な兵士の一家が、一年暮らしていけるくらいと言えば伝わるか?」
「んー、だいたい一枚が十万円くらいかな」
「十万円?」
「自分がいたところの通貨単位って感じです」
どんな場所にいて、どんな生活をしてたかは思い出せないんだけどね。
「だいたい、金貨二枚くらいを毎月もらえれば生きてけるみたいな」
「それなら、一般的な兵士の給与と同じくらいだな」
「ただ、自分の食べる量からすると、たぶん足りないくらいになりませんか?」
「大人の3ー4倍食べるなら、おそらく足りないくらいになるだろうな」
「そしたら、やっぱり、自給自足に近い生活しないとダメそうですね」
インスタント食品なんて物は無い世の中みたいだったけど、パンとか、数日以上は長持ちする食品類はあった。
アイシャさんに付き合ってもらって、テントやマントや毛布や武器防具、野営に必要な道具類を見繕ってもらって、五日分くらいの食料も買い込んだら、子爵様にもらったお金が半分近く無くなってしまった。
ま、仕方ないね。
そんな風に割り切って、町を出て森へ向かった。
一人ででも向かうつもりだったけど、アイシャさんと、彼女の部下らしい二人の兵士さんもついてきた。
いきなりひとりぼっちになるよりは心強かったので、何も言わずについてきてもらった。
さて。レベルとか、上げられる時に上げておこうか。
上げておきたい、な。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます