DAY1-2 アイシャさんとの対話

 言葉ははっきりと通じてこなかったんだけど、まるきり通じてないわけでもなくて、空腹の音と、身振り手振りも交えれば、意志疎通は可能だった。


 なんだろ。言葉じゃなくて、意志がダイレクトに伝わってるような・・・?


 赤毛の女の人は外壁の内側へいったん入ってから、いくつかの長いパンと、何かが入った駕籠と、水が入ってそうな壷を抱えて戻ってきた。武器を構えた兵士さん達と一緒に。


 言い合いをしてる言葉を聞いてる内に、だんだん、何を言ってるのか理解できるようになってきた。


 助けてもらった恩人に手を出すんじゃないよ!

 とか、

 何か狙いがあってそうしたかもわからないだろ!

 とか、たぶん、そんな感じ。


 自分を取り囲もうとした兵士さん達をすごい剣幕で少し遠ざけてくれてから、自分の前に食べ物や飲み物が入った籠を置いてくれた。駕籠の中には、長いパンが数本と、ベーコンかハムの固まりぽい物と、チーズらしき何かまで入っていた。


「これ全部、食べて良いですか?」

「足りるかどうかわからないけど、どうぞ。

 ああ、私の名前はアイシャ。アイシャ・クラウド。

 あなたの名前は?」

「ユート。ただの、ユート」

「そう。お腹がとっても空いてるみたいだから、お話とかは後ででも良いのだけれど、食べ終わったら一つお願いしても良い?」

「何でしょうか?ぼくに出来る事なら」


 パンは、そう、フランスパンが一番近い感じ。滅多に食べた事無かったけど、お肉やチーズと一緒にかじるととても美味しくて、自分の指先から肘くらいまでの長さがありそうなパンを3本、ぺろりと平らげてしまった。

 食後の水をがぶがぶと飲んでいると、アイシャさんが尋ねてきた。


「ユートは、巨人なのか?」

「違うよ。人間だよ」

「そう。あの大きくなったのは、魔法?」

「魔法っていうか、誰かからもらった特典ユニーク・スキル?」


 アイシャさんも、後ろにいた兵士さん達も驚いて、ざわめきだしたけど、アイシャさんは背後を一瞥してから、尋ねてきた。


「その、誰かというのは?」

「うーん、はっきりとは、思い出せないんだ」


 どこともわからないところで、声だけ聞こえてきてた、ような・・・。


「神様とか?」

「わからない。ごめんなさい」

「あやまってくれなくていい。私達を助けてくれたのだしな。それで、ユートはどこから来て、どこに行こうとしてたのか?」

「えーと、・・・覚えてないんだ。気づいたら、森の際の方にいて、こっちで何か騒ぎが起きてたから来てみただけ」


 お腹も空いてたしね、とは言わなかった。

 けれど、お代わりを催促するような、お腹の音が、さっきよりはだいぶ控えめに鳴ったので、伝わってはしまったけれど。

 アイシャさんはくすりと笑うと、立ち上がって言った。


「さっき言ったお願い事というのは、あの巨人の死体を、森のどこかにでも埋めてきてほしいのだ」

「・・・大きくなれば出来ると思うけど、どうしてか聞いてもいい?」

「構わない。ここら辺にはめったに巨人とか他種族の誰かは来ないのだけれど、もしあの殺された巨人の仲間とか家族が探しに来たりすると厄介だからだ」

「わかりました。やりますけど、スコップみたいの、借りれますか?」


 アイシャさんが後ろにいる兵士さん達に声をかけて、スコップを持ってきてくれた。

 

「それで、申し訳ないのだが、ここから森まで引きずっていって、その跡が残ると面倒に事になるかも知れないので、どうにか持ち上げて運ぶ事は出来るだろうか?」

「・・・ちょっと待って下さいね。確かめてみますので」


 レベルが上がったとか聞こえてきてたしね。

 ・・・えーと、あの声はなんて言ってたっけかな。

 ステータス?オープン?


 言葉にしなくても、思うだけで、半透明な画面?が視野に表示された。


名前:ユート

種族:人間

レベル:3

ユニークスキル:サイズ変更


 ゲームとかだと、力とか素早さとか器用さとかいろいろ書かれてたと思うけど、表示されたのはたったの四項目だった。

 サイズ変更って何だ?、と思うと、より詳しい情報が表示された。


サイズ変更:自分と自分が身につけたり触れている何かの大きさを、レベルの数字x2倍の大きさ、または小ささに変更できます。

 持続時間は、レベルの数字x2分の間です。(例:レベル2なら4分=240秒、レベル3なら3分=180秒、以降も同様に計算)

 一度サイズ変更が解けた後は、サイズ変更していたのと同じ時間が経つまで、再びサイズ変更できなくなります。

 サイズを大きくすればするほど、空腹度は高まり、小さくすれば逆になります。満腹であればあるほど、より大きく、より長く、より頻繁に、大きくなれるでしょう。


 なるほど・・・?

 つまり、レベルを上げれば上げるほど、使い勝手も良くなるのかな。

 それだけわかってれば、とりあえずはいいかと、ステータス画面を消した。


 よっこらしょ、と立ち上がり、壁際で倒れてる巨人の側まで近寄ってみると、体の大きさが五メートルくらいはありそうだった。

 自分がさっき大きくなって、ほとんど同じくらいになってたってことは、レベルが上がった今なら、もっと大きくなれる、のかな?


「ちょっと離れてて下さいね」


 アイシャさんや他の兵士さん達に声をかけてから、大きくなあれと念じてみると、さっきの倍以上には、大きくなったみたい。

 壁の位置が、腰くらいにあるから、ざっと十メートル以上?

 レベルが3で、その2倍だから、元の身長の6倍か。さっきまでは1でその2倍で、壁よりは少し低いくらいだったから、自分の身長は二メートルちょっとかな。


 同じくらいの大きさならきつかったろうけど、半分以下の大きさなら、簡単に持ち上げられた。

 血塗れの死体を背負いたくはなかったので、両手を脇の下に入れて小走りに森に向かうと、自分の足跡は地面に残ったけど、森まではすぐに着いた。


 森の中の少し開けた場所を探して、自分サイズに巨大化したスコップでさくさくと大きな穴を掘っていったけど、途中で体もスコップも縮んでしまった。


 ぐうううっとお腹が鳴ったので、ついてきてたアイシャさんがまた指示を出して、食べ物を運んできてもらった。


「大きくなるのには、食べ物が必要なのか?」

「そうみたい。お腹が空いてると、きつい感じです」


 さっきよりも少な目な量を平らげ、残り半分くらいだった大きさと深さの穴をさっさと掘り終えて、巨人の死体を穴の底に横たえた。


 自分が殺したんだよな、という感慨はわいたんだけど、罪悪感はわかなかった。

 どこか、夢を見ているような心地もあったから、かな。


 いちおう両手を合わせて拝んでから、土をかけ始める前に、腰の辺りにつけてた袋を見つけたのでもらっておいた。なんとかの沙汰もなんとか次第とか、ふと思い出したので。


 土をかけた終わった頃にはまた元の大きさに戻ってた。汗だくってほどでもないけど、ちょっと疲れて地面に座ると、アイシャさんがまた水瓶を差し出してくれたので、ありがたく頂いておいた。


「さきほどは命を助けて頂いて、今もまた厄介事を引き受けて頂いたお礼に、我が家に招かれてはくれまいか?」

「えーと、もしお邪魔じゃなければうれしいですけど、大丈夫なんですか?」


 アイシャさんは二十代半の女性に見えた。

 こちらの心配を読みとったのか、アイシャさんは朗らかに笑って言った。


「大丈夫だ。ユートには手狭な家かも知れないが、夫と娘と、母もいる。命の恩人に、感謝の夕餉くらい馳走させて欲しい」


 ご家族も一緒なら大丈夫かと自分はうなずき、アイシャさんと一緒に町の門をくぐり、町の人達の注目を浴びながら、アイシャさんの家へと向かったのだった。

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