DAY1-1 初めての戦闘 vs.巨人

 気が付けば草原に立ちすくんでいた。

 自分がどこから来て、どこに行こうとしていたのかも思い出せなかった。


 見覚えのない森の裾野から広がる緩やかな斜面の先に、大きくも小さくもない町が見えた。

 その外壁辺りに何かがとりついていて、騒ぎが起きているのが遠目に見えた。


 この草原をわたる風も、穏やかな日差しも心地よかったけれど、空腹感が、自分を動かした。


 自分、ええと、名前、なんだっけ?

 町の方に行けば、食べ物にありつけるかな?

 とか、あさましくも思いながら歩き続ける内に、名前を思い出せた。


 ユート。

 

 それが自分の名前だけれど、他にはほとんど何も思い出せなかった。

 町の外壁が近づいてくるにつれて、壁の高さと同じくらい背が高い人と、外壁の上にいる人達が戦っているのが見えてきた。


 背の高さが、倍以上も違いそうだ。三倍くらいあるのかな?


 ぼんやりとそう思いながら近づいていくと、大きな人は、外壁の上にいる小さな人達を捕まえては放り投げたり、打ち払ったり、叩き潰したりしていた。


 そうそう。

 自分がこの草原に降り立つ前に、誰とどんな話をして、自分がどんな特典、ユニークスキルを選んできたのかも思い出せた。


 どう使おうかな、と考えている内に、悲鳴が空に響くのと同時に、誰かが壁の方から弾き飛ばされてきた。

 鎧を纏っているけど、被っていた兜が脱げて赤い長髪と顔が見えた。女性かな?

 自分の方に飛んできたので、受け止めた。


 何か言っていたけど、何を言っているのか、よくわからなかった。

 たぶん、自分が人間なのかそうでないのかを尋ねてるのは伝わってきた。

 なんとなくうなずいてから女性を地面に下ろして、暴れながら外壁の上に登ろうとしていた大きな人の足首を掴んだ。


 少なくとも、自分の倍以上大きな相手がこちらを振り返りもせずに、足を振るだけで手が払われてしまった。

 地面にしりもちをついて辺りを見回すと、外壁の上で戦っていたのだろう兵士達や、彼らの武器があちこちに散らばっていた。


「ちょっと、借りますね」


 通じてるかはわからなかったけど、落ちていた槍を掴んで、誰かからもらった特典、ユニークスキルを使ってみた。

 ぐぐぐっと、視線の高さが上がって、持っていた槍も大きくなって、外壁に半身を乗り上げていた大きな人、というか巨人?の太股に、槍の穂先が突き刺さった。


 巨人が大きな叫び声を上げると、とてもうるさかった。それだけじゃなく、壁の上にいた人を掴んで投げつけてきた。

 槍を両手で握ってたから受け止められなかったので、顔をそらしてよけて、いったん槍を抜き、今度はお尻に突き刺してやった。


「ぐあうあああああ!お前、許さねえからな!」

 と巨人が叫んで、下半身から血を流しながら、殴りかかってきた。

 ただ、太股とお尻に刺された傷が痛かったせいか、壁から飛び降りてくるような、単純な動きだった。


 自分は、槍の末端を地面に突き立てて、穂先を飛び降りてくる巨人の体に向けてしっかりと固定した。

 互いの体が大きいせいもあってか、大きくなってた槍との距離も近くて、考え無しに飛び降りてきた巨人の喉元に槍が突き刺さった。


 血がどばっと吹き出して気持ち悪くなりかけたけど、こっちは巨人の拳に殴り倒されてたので、それどころじゃなかった。

 巨人は槍を喉元から引き抜こうとしながら地面に倒れて、やがて動かなくなった。


――レベルが上がりました。詳細はステータス画面を確認して下さい。


 脳内に誰かの声が響いて、自分が戦闘に勝った事と、これまでとは違う世界に来た事が分かった。


 さっき助けた女の人が恐る恐る近づいてきたので、自分は体を元の大きさに戻した。


 ぐうううぅっっっ、とお腹が派手に何かを主張したので、恥ずかしかったけど、お願いしてみた。


「あの、お腹が空いて倒れそうなので、何か、食べ物を頂けませんか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る