第33話 勇者金城と電気ウナギの城

そのウナギ、電脳につき




 眼前に聳えるのは決戦の地・魔王城。

 これから始まる熾烈な戦いを前に、勇者金城は仲間たちに呼びかける。


「皆さん、準備はいいですか」


「勿論です。共に世界を救いましょう!」


「おうよ。魔王討伐の使命、今こそ果たす時だ!」


 狩人昇が大きく頷いた。

 斧を担いだ戦士火崎も、力強く応じる。

 そして魔法使い月岡が、目深に被った三角帽子から瞳を覗かせて言った。


「みんなの絆こそが、最大の魔法だ」


「皆さん……!」


 四人は決意を胸に秘め、魔王城の門を潜る。

 何故突如として魔王城なるものが出てきたのか。

 何故昇たちは勇者パーティを結成しているのか。

 何故木原だけがいないのか。

 全ては半日前に遡る––。


「連続感電死事件?」


 特撃班本部の研究室で、木原が金城に聞き返す。

 金城は頷くと、今日の朝刊を昇に見せた。


「はい。数日前から、人が突然感電死するという事件が相次いでいるんです。被害者には死の直前、電子機器を操作していたという共通点がありました」


「なるほどねぇ。確かにこの間不審なウイルスプログラムを見たけど、それと何か関係あるのかな……調べてみよっと」


「待って下さい!」


 コンピュータを立ち上げようとする木原を、金城が慌てて止める。

 木原を画面から遠ざけながら、彼は冷静に忠告した。


「今、電子機器を弄るのは危険です。月岡さんたちの聞き込み調査が終わってからにして下さい」


「ちぇー……」


 木原は退屈そうに伸びをして、ぐるぐると椅子を回転させる。

 更に勢いをつけようとしたその時、特危獣出現を知らせる警報が鳴り響いた。


「うわーっ!?」


 椅子を止めるタイミングが狂い、木原の体が椅子から投げ出される。

 出動準備を終えた金城が、彼女を助け起こしながら言った。


「ここからすぐの市街地です、急ぎましょう!」


「……そうだね。情報は足で稼ぐとしますか!」


 木原と金城は特殊車両に乗り込み、特危獣の出現地点へと向かう。

 二人が到着すると、そこでは既にアライブと特危獣の戦闘が繰り広げられていた。

 ウナギのような姿の特危獣は全身に粘液を纏い、アライブの打撃を無効化する。

 そして至近距離で高圧電流を放ち、アライブを大きく怯ませた。


「電気ウナギ……エレクトリックイールか!」


 敵の姿と能力から、金城が敵の呼称を定める。

 月岡と火崎が銃撃を仕掛け、エレクトリックイールの追撃を阻んだ。


「今だ! エボリューション21・バトルモー……」


 アライブが強化変身しようとした途端、エレクトリックイールは危険を予知してその場から逃げ出そうとする。

 そして特危獣は眩い閃光を放ち、一瞬にして姿を消した。


「逃げられたか……」


 敵が逃げていったであろう道の先を見据えながら、月岡が険しい表情で呟く。

 変身を解いたアライブ––昇の頬には、火傷の痕がついていた。


「ヒューちゃん、その傷ちょっと見せて」


 木原は火傷痕に引っ掛かるものを覚え、昇の顔をまじまじと覗き込む。

 脳内に記憶した朝刊の記事と照らし合わせ、彼女は一つの手掛かりを見つけ出した。


「分かった!」


「え、分かったって何が」


「これ見て!」


 木原は金城から例の新聞を受け取り、全員に連続感電死事件の記事を見せる。

 写真に写っていた被害者の火傷痕と昇の火傷痕は、奇妙なまでに一致していた。


「これで確定したな。連続感電死事件の犯人は、あの電気ウナギ野郎だ」


 次こそは逃すまいと、火崎が拳を握りしめる。

 エレクトリックイールと事件の関連性をメモに書き記しながら、金城が次なる疑問をぶつけた。


「となると、気になるのは殺害方法ですね。理性を持たない獣が、姿を現さずどうやって大勢の人間を殺したのか……」


「その辺りも踏まえて、本部で分析と作戦会議だ」


 月岡の提案で、五人は特撃班本部へと帰還する。

 同じ頃、洋館の実験室ではGODが思索に耽りながら、一人で長銃を磨いていた。


「エボリューションアライブか……面倒なことになった。ソウギ様は『あの部屋』に籠りきりで、マイナスナンバーたちも今は使い物にならん。私がどうにかしなくては」


 GODは銃磨きを終えると、空の試験管を手に取ってしげしげと眺める。

 そのラベルには、達筆な英字でエレクトリックイールと記されていた。


「こいつが自分の体を電気信号に変え、インターネットに出入りできるとは予想外だった。しかし電気ウナギの特性を考えれば、あり得ない話ではない」


 ソウギを喜ばせるべく、GODは電子頭脳をフル稼働させて更なる作戦を考える。

 それから数時間後、木原は数々のデータと実証実験からエレクトリックイールの能力を探り当てた。


「……つまり、奴はインターネットの中にいるということか?」


「そう。今も電子の海を泳ぎ回りながら、次の獲物を探してると思う」


 木原は自分の鞄を漁りながら、月岡に頷く。

 右の人差し指でこめかみを押さえながら、金城が口を開いた。


「特危獣の能力や事件に前例がないのはいつものことですが、ここまで異質なのは初めてですね。一体どうやって対抗すればいいのか……って、さっきから何を探してるんですか?」


「秘密兵器だよ。対エレクトリックイール用のね」


 そう言って木原が取り出したのは、ファミコンのゲームカセットにしか見えない小箱だった。

 霞んだ赤色をしたそれを指差して、昇が怪訝そうに言う。


「……それが最終兵器、ですか?」


「そう。名付けてアライブクエスト! 昔暇潰しで作ったゲームを、今回の作戦用にアレンジしたんだよね!」


 自作のゲームを見せびらかしながら、木原は誇らしげに胸を張った。

 月岡が尋ねる。


「それで、どうやって特危獣を倒すんですか?」


「ふふふ……よくぞ聞いてくれました!」


 彼の質問で、木原のテンションは最高潮に達する。

 そして木原は歌うような口ぶりで、昇たちに作戦を説明した。


「このゲームにエレクトリックイールを誘い込んで、奴をその世界の魔王にするの。で、ヒューちゃんたち四人がゲームの中に入って、勇者として魔王を倒すってわけ」


「木原さんはどうするんですか?」


「あたしはこっちでナビゲーター。万が一に備えて、現実世界にも人を残しておかないと」


 木原はカセットをコンピュータに接続し、エレクトリックイールが侵入してくるのを待つ。

 それから数分後、コンピュータの画面に特危獣を示すアイコンが出現した。


「来たっ、食いついたっ!」


 椅子に座らせた昇たちに、木原は特殊なヘッドギアを被せる。

 昇たちはガイダンス通りに全身の力を抜き、転移の準備を整えた。


「今から意識をゲームの世界に移すよ。準備はいい!?」


 四人は異口同音に頷き、移動の瞬間を待つ。

 木原は大きく深呼吸をして、ひと思いにボタンを押した。


「夢と! 冒険と! アライブクエストの世界へ……レッツゴー!!」


 脳に流れる電流が、昇たちの意識を強制的に遮断する。

 次に目が覚めた時、広がっていたのは広大な草原だった。


「……よし!」


 金城は革の服を靡かせて、剣と魔法の異世界を駆け抜ける。

 勇者たちの冒険が、ここに始まった。

——————

勇者の条件



 電脳世界を自在に行き来する特危獣を倒すため、昇たちは剣と魔法のロールプレイングゲーム『アライブクエスト』の世界に降り立った。

 開放感に包まれながら広がる草原を駆け抜ける勇者金城だったが、程なく異変に気がついた。

 仲間が一人もいないのだ。


「……あれ、日向さん? 月岡さん? 火崎さん?」


 幾ら呼びかけても返事はなく、金城の声だけが地平線の向こうに溶けていく。

 金城は孤独と不安に襲われながらも、仲間と合流するべく歩き始めた。


「ここは……何処なんでしょうか」


 しかしいくら歩いても仲間どころか人の姿すら見つからず、彼はやがて深い森へと迷い込んでしまう。

 そんな無防備な獲物を見逃す筈もなく、一体の魔物––否、特危獣フォックスが現れた。


「敵は特危獣なんですか!? 例えゲームの中と言えど、犠牲者を出すわけには行きません……うぉおおお!」


 金城は勇気を振り絞り、フォックス目掛けて銅の剣を振り下ろす。

 そして栄光ある1ダメージと引き換えに、銅の剣は無残にもへし折れた。


『フォックスのこうげき! 金城に9999のダメージ!』


「ぐわーっ!」


 金城は為す術なく敗北し、元いた草原へと戻される。

 時が巻き戻ったような感覚に安堵と困惑を覚えていると、天から神々しい光が降り注いだ。


「やられちゃったみたいだね」


 古代ギリシャ風の服装に身を包んだ木原の姿が、雲の中に浮かび上がる。

 金城は軽く頭を下げて言った。


「申し訳ありません、仏様」


「神様だよ! 月桂樹の冠被ってるでしょ! ……まあいいや。それより金ちゃん、さっき森に行ったよね」


「行きました」


「実はあれ、結構終盤のダンジョンなんだよ。バッジで例えると7個目とかそのくらい」


「かなり終盤の方じゃないですか! 何でそんなもんを初期位置の近くに置いたんですか!」


「いやぁ、スタート地点は完全に運だから。それで言うと職業も運だよ」


「運ゲーじゃないですか。……しかし幾ら偶然とは言え、私が勇者というのは荷が重いですね」


「えっ、どうして?」


「勇者は世界を救う要ではないですか。日向さんや月岡さんがなるならまだしも、私では少々荷が勝ちすぎているかと……」


 人の命が懸かったゲームの主人公になったことを意識して、金城の背中に重圧がのしかかる。

 見かねた木原が大きく嘆息し、呟いた。


「金ちゃんは充分勇者の器だと思うけどなぁ。……しょうがない、木原ビーム使うか」


「木原ビーム!? それは一体」


「チートだよチート。ゲームバランスが壊れるから使いたくなかったんだけど、緊急事態だし仕方ないよね」


 木原は投げやりにそう言って、頭の冠に力を集中させる。

 そして彼女は叫びと共に、眩い光を解き放った。


「木原ビーム!!」


「うわっ!」


 金城は両腕で顔覆い、木原ビームから目を守る。

 次に目を開けた瞬間、そこには昇たち三人が立っていた。


「みんながいる……これは幻覚……?」


 運悪く雪山に飛ばされたのだろうか、軽装の昇は雪を被って身を震わせている。

 すかさず火の玉を出現させて、ローブ姿の月岡が言った。


「しっかりしろ。俺たちは合流したんだ」


「一人じゃ心細かったからな。助かったぜ、木原!」


「どういたしまして。あたしは現実世界の動向を見ておくんで、そっちはよろしくお願いしますね」


 鎧を纏った火崎に頷いて、木原の姿が消える。

 昇たちの顔を見渡して、金城が口を開いた。


「出で立ちから見るに、月岡さんは魔法使いで火崎さんは戦士ですね。日向さんは?」


「か、狩人です……ゔぇっくしょい!!」


 盛大なくしゃみの音に驚きつつも、金城は仲間たちの職業をメモに書き記す。

 月岡が言った。


「となると、勇者は金城か」


「はい。頼りないかもしれませんが、よろしくお願いします」


「頼りなくなんかねえよ。さ、行こうぜ!」


 火崎の号令で、三人は金城の後ろに並ぶ。

 何とも言えない圧迫感を覚えながら、金城は重い足取りで一歩を踏み出した。


「やっぱりこういう感じなんですね……気が重い」


「え、何か言いました?」


「何でもありません。では、行きますよ」


 かくして勇者金城、狩人昇、魔法使い月岡、戦士火崎の四人は魔王討伐の旅に出る。

 その旅路は恐ろしい程に順調だった。

 昇たちの高い能力はゲーム世界においても健在であり、待ち受ける難関を次々と突破していく。

 そして魔王城が目前に迫った日の夜、金城は木原を呼び出した。


「……これ、私いらなくないですか」


「そう? 金ちゃんは充分頑張ってると思うけど」


「頑張ってるじゃダメなんです! もっと目立つ活躍をしないと」


 金城の切実な声色に、木原は思わず姿勢を正す。

 溜め込んできた苦悩の色を滲ませて、彼は語り始めた。


「私には火崎さんのような戦闘力もなければ、あなたのような天才的頭脳もありません。中途半端なんですよ」


「……そう?」


 木原はいまいちピンと来ないながらも、悩む金城を助けるべく考えを巡らせる。

 そして彼女は何かを思いつき、二度目の木原ビームを発動した。


「……これは」


「勇者の剣。その剣が輝く時、きっと金ちゃんのモヤモヤは晴れるよ」


「……そうだといいのですが」


 地味で目立たない自分と勇ましく煌びやかな剣を見比べながら、金城は小さく呟く。

 そして翌日、四人はとうとう魔王城の門前へと辿り着いた。

 これから始まる熾烈な戦いを前に、勇者金城は仲間たちに呼びかける。


「皆さん、準備はいいですか」


「勿論です。共に世界を救いましょう!」


「おうよ。魔王討伐の使命、今こそ果たす時だ!」


 狩人昇が大きく頷いた。

 斧を担いだ戦士火崎も、力強く応じる。

 そして魔法使い月岡が、目深に被った三角帽子から瞳を覗かせて言った。


「みんなの絆こそが、最大の魔法だ」


「皆さん……!」


 四人は決意を胸に秘め、魔王城の門を潜る。

 現れた勇者たちを、魔王––否、特危獣エレクトリックイールが出迎えた。


『よく来たな勇者よ。我が力の前に散るがよい』


 メッセージウィンドウが表示され、魔王との戦闘が開始される。

 月岡がすかさず炎で敵を牽制し、昇と火崎が一気に駆け出した。

 果敢に攻め立てる二人の背中に、金城の中で焦りが募る。

 そして月岡の言葉をきっかけに、それはとうとう爆発した。


「何としても金城を守るんだ!」


「……っ!」


 金城は未だ光らぬ勇者の剣を振るい、魔王エレクトリックイールに無謀な攻撃を仕掛ける。

 1のダメージすら受けぬまま、エレクトリックイールが電流で反撃した。


『これで終わりにしてくれよう』


 最大攻撃を告げるメッセージが表示され、魔王の両手に凄まじい電流が迸る。

 そしてついに最大攻撃が放たれ、魔王城を揺るがす程の爆発と衝撃が轟いた。


「っ!!」


 理不尽なまでの破壊力を前に、金城は死を覚悟する。

 次の瞬間、彼の眼前に一つのメッセージが映し出された。


『仲間が勇者を庇った!』


 エレクトリックイールの最大攻撃から金城を庇い、昇たちが魔王城の床に崩れ落ちる。

 彼らを嘲笑うかのように、エレクトリックイールが低い唸り声を上げた。


「……私のせいだ。私が勝手なことをしたから」


 心配と後悔が胸に込み上げ、金城の顔が青褪める。

 握り拳を震わせながら、彼はひたすらに謝り続けた。


「私の弱さがみんなを傷つけたんだ。ごめんなさい、ごめんなさい……!」


「何言ってやがる」


 火崎に言葉を遮られ、金城が眼鏡の奥の目を見開く。

 火崎は最後の力を振り絞って立ち上がり、はっきりと告げた。


「俺たちは、お前を弱いだなんて思ったこと一度もねえ!」


「そうです。金城さんには、おれたちにない強さがある!」


「観察眼と分析力……金城の働きに何度助けられてきたことか!」


 昇と月岡も立ち上がり、口々に金城を称える。

 仲間の本音を聞き、金城は悟った。

 自分を弱いと思い見下していたのは、本当は自分だったのだと。

 それに気付いた瞬間、勇者の剣が輝いた。


「木原さんも、これを伝えたくて……」


「そういうこと」


 魔王城の入り口から、女神木原がエボリューション21に乗って姿を現す。

 彼女は勇者の剣を拾い上げると、金城の前に突き出して言った。


「知恵と力の光が宿った。あとはあなたが勇気を出せば、この剣は完成する」


「私の、勇気……」


 昇たちの視線が、金城に集まる。

 彼はいつものように眼鏡の位置を直すと、いつもより強い自信を持って剣を掴んだ。


「私は勇者……勇者金城です!」


 金城が勇者の剣を掲げると、眩い光が周囲に満ちる。

 その光は善なるものを癒し、邪悪の魔王を大きく怯ませた。


「喰らいなさい! スーパー金城スラッシュ!!」


 全ての力を剣に込め、金城が渾身の斬撃を放つ。

 光の刃はエレクトリックイールを両断し、その全身に白い電流を迸らせた。


「やったか!?」


 勝利を確信して、火崎が叫ぶ。

 しかしエレクトリックイールの生命力は、彼らの想像を遥かに超えていた。


「ギシャアアアアッ!!」


 崩れ去る魔王城の残骸を取り込み、エレクトリックイールの肉体が禍々しい龍の姿・電脳体へと変貌する。

 電脳体の荒れ狂う巨躯を掻い潜りながら、金城が考えを巡らせた。


「アライブ変身のメカニズムは、強い電気ショックによる進化の種の異常活性……だったら!」


 この空間には、エレクトリックイールが放った電力が充満している。

 金城は電流を纏った瓦礫を昇に投げ渡し、腹の底から叫んだ。


「これを使って下さい! ショックブレスの代わりになる筈です!」


「ありがとうございます! 超動!!」


 昇は迷いなく瓦礫を握り締め、心臓を殴りつけて口上を唱える。

 金城の予測は見事に的中し、昇はアライブへの変身を果たした。


「一気に決める! エボリューション21・バトルモード!!」


 彼はエボリューションアライブに強化変身し、強烈な拳で電脳体を怯ませる。

 命懸けのゲームを終わらせるべく、ゴートブレードを二刀流で構えた。

 怒涛の勢いで剣を振るい、敵の頑強な装甲を破壊していく。

 しかしトドメの一撃を放とうとした時、剣の耐久力がとうとう限界を迎えてしまった。


「なっ……!」


 一瞬動揺した隙を突き、電脳体が丸太のような尻尾を叩きつける。

 電脳体の一撃を受け止めながら、アライブは吹き飛ばされまいと足腰に力を込めた。


「おれにはまだこれがある! 金城さんが目覚めさせてくれた勇者の剣が!」


 アライブは電脳体を投げ飛ばし、床に突き刺さった勇者の剣を引き抜く。

 そして瓦礫の中で踠く電脳体を、今度こそ一刀の下に切り捨てた。


「ぅおりゃああああっ!!」


 光の刃が魔王城ごと敵を断ち、特危獣エレクトリックイールは撃滅される。

 爆風に包まれながら、昇たちは現実世界へと帰還した––。


「クリアおめでとう! これで事件は解決だよ!」


 一足先に戻っていた木原が、昇たちのヘッドギアを外す。

 汗で蒸れた頭を掻きながら、昇が疲労感たっぷりに呟いた。


「現実では何もしてないのに、何だかどっと疲れました……」


「全くだ。金城がいなければ、今頃どうなっていたか」


「そんな、私なんて」


 月岡の言葉を否定しようとして、金城は今回の戦いで学んだことを思い出す。

 彼は自然体の笑みを浮かべて、自信たっぷりに言い切った。


「……そうですね。今日の私は、勇者でした!」


 一つの事件を終えて、金城は大きな成長を遂げた。

 その後調子に乗った木原が作った新作ゲームが今年最大のクソゲーとして世間を騒がせるのは、また別の話である。

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