第27話 薔薇色デートは突然に
命吸う棘にご用心
昇たちが馬渕と和解を果たしてから数日後、水野は美術大学の広場で友人と談笑していた。
鞄から紅い薔薇のブローチを取り出して、友人が嬉しそうに言う。
「見てよこれ。やっぱり噂は本当だったんだよ」
「噂って?」
「知らないの? しょうがない、あたしが教えてあげる」
友人はやれやれと肩を竦めると、呆れと親切心の混ざった口調で『噂』についての説明を始める。
それは美しい女性の元には謎の紳士が現れ、薔薇のブローチを授けるというものだった。
噂について言及したSNSの投稿を見せながら、彼女は更に続ける。
「しかもその紳士は、ブローチを渡す時に決まって『美しい女性には、美しい薔薇がよく似合う』って言うんだって。あたしも言われたし、こりゃもう間違いないよ!」
「は、はぁ」
「大丈夫。あんたの所にも必ず来るから。だって水野ちゃんかわいいし」
「か、かわいいなんてそんな」
突然容姿を褒められ、水野の頬がほんのりと紅潮する。
生真面目な芸術馬鹿の素顔を暴くチャンスだと、友人はニヤリと笑って詰め寄った。
「本当だよ。化粧や服にも気を配るようになったし、まさに恋する乙女って感じで……もしかして、好きな人できた?」
友人に図星を突かれ、水野の赤面が更に酷くなる。
黙り込んで俯く彼女に、友人が意外そうに言った。
「あ、マジで恋する乙女だったんだ」
「……なんで分かるのよ」
「なんでも分かるの。それより相手はどんな人? 年上? 年下? 名前、は……」
ずけずけと質問責めを繰り出していた友人が、突然力なく倒れ込む。
間一髪で受け止めた水野が、心配そうに言った。
「大丈夫? 貧血?」
「平気平気。最近たまにこうなるんだよね。それよりあたしの質問に答えてよ」
「はいはい」
水野は両手で友人を宥めながら、彼女の質問に答える。
「名前はヒューさん。歳は同じかちょっと下くらいかな。人を守る仕事に就いていて、凄く強くて優しいの。私も何度も助けて貰って……」
「好きになっちゃったんだ?」
「それもあるんだけど、彼はノボルくん……小さい時の思い出の男の子に似てるの。だから、自然と惹きつけられて」
「それってヒューさんを通して、ノボルくんを見てるってことじゃない?」
友人の質問に、水野の思考回路が停止する。
自分でも気付いていなかった矛盾を突きつけられた彼女に、友人は問いかけた。
「結局さ、ヒューさんとノボルくんのどっちが好きなの?」
思い出の少年と、その面影を持つ謎多き青年。
水野は胸に手を当てて、想いの向かっている先を考える。
長い自問自答の末、彼女は小さく呟いた。
「……分からない」
「そっか、分からないか」
ならこうしよう、と友人は一つの提案をする。
それは水野にとって、思いもよらないものだった。
「その人とデートしちゃうんだよ。二人っきりで出かければ、何か見えてくるんじゃない?」
「デート……デートか!」
想いの正体が分からないなら、確かめてしまえばいい。
コペルニクス的転回を得た水野は友人の手を握ると、何度もお礼を言って大学を飛び出した。
昇のいる麻婆堂に向かって、彼女は真っ直ぐにひた走る。
その背中を見つめる怪紳士の視線には、ついぞ気付かぬまま。
「水野さーん!」
聞き覚えのある声で呼びかけられ、水野は慌てて立ち止まる。
公園のベンチに座っていた昇が元気よく駆け寄り、無垢な笑顔で言った。
「やっぱり水野さんだ。スケッチの題材探しですか?」
「え、ええ。でもこれから休憩しようと思ってて。よければ隣いいですか?」
昇が目当てだとは口が裂けても言えず、水野は早口で出まかせを言う。
どうにか昇の隣を確保した水野は、デートの話をいつ切り出そうか考えた。
まだ早いか、今か、それとももうタイミングを逃したか。
袋小路に嵌まる水野の思考は、昇の声によって断ち切られた。
「にしても、ここで水野さんと会えてよかった」
「えっ?」
「実はおれ、水野さんに渡したいものがあるんです」
昇はそう言って、足元の紙袋から綺麗な小箱を取り出す。
そして水野に手渡すと、彼は箱を開けるよう促した。
「開けてみて下さい」
水野が小箱のリボンを解くと、白い薔薇のブローチが姿を現す。
その可憐さに、彼女は思わず顔を輝かせた。
「わぁ……!」
「アクセサリーショップで見つけたんです。水野さんに似合うかと思って」
街灯の陰で木原が頷く。
どうやら彼女の差し金らしい。
水野は勢いよく立ち上がり、昇と木原の二人に向けてお礼を言った。
「ありがとうございます!」
その流れに身を任せて、昇の手を取る。
驚く昇の目を見据え、水野は覚悟を決めて言い切った。
「あの! 今度の日曜日、私とデートしませんかっ!?」
「で……デートぉ!?」
突然すぎる誘いに、昇と木原が同時に叫ぶ。
木原がそそくさと街灯に隠れると、水野は昇に一枚のチラシを握らせた。
「午後1時くらいに、東都美術館の入り口で待ってます!」
「水野さん、ちょっ」
昇の呼び止める声にも振り向かず、水野は晩秋の公園を走り去っていく。
呆然と立ち尽くす昇の横を、冬の冷たい風が吹き抜けた。
「……はあっ」
脇腹に痛みを覚えて、水野はようやく立ち止まる。
大きく深呼吸をすると、先程の出来事が鮮明に蘇ってきた。
後悔と羞恥の念に抗うように、水野は白い薔薇のブローチを握りしめる。
ようやく痛みが引いてきた頃、目の前に一人の男が現れた。
「こんにちは、お嬢さん」
高級そうなスーツに身を包んだ怪紳士は丁寧に頭を下げ、革靴を鳴らして水野に歩み寄る。
怪紳士は紅い薔薇のブローチを取り出し、慇懃な口調で言った。
「美しい女性には、美しい薔薇がよく似合う。さあ、これをどうぞ」
友人から聞いた噂を思い出し、水野はブローチを受け取るのを躊躇う。
彼女の手に握られた白い薔薇を見た怪紳士が、それを取り上げんと手を伸ばした。
「そんな見窄らしいものは捨てて、これを身につけなさい。そうすれば、貴女はもっと輝ける」
「やめて下さい!」
怪紳士の手を払い、水野が叫ぶ。
目を見開く怪紳士に、彼女は強い口調で言った。
「これは、大切な人がくれたプレゼントなんです。それを悪く言うような人から貰うものなんてありません。失礼します」
水野は怪紳士に背を向け、振り向きもせずにその場を去る。
彼女の背を見送る怪紳士の陰には、無数の棘を持つ薔薇のシルエットが巻きついていた。
「あのレディ……必ず我がものにする」
絡みつくような怪紳士の視線が、水野の背中を舐め上げる。
粘ついた悪意の標的にされたことも知らぬまま、昇と水野は約束の日を迎えた。
——————
紅白薔薇合戦
約束の時間よりも少し早く、昇は東都美術館の入り口に辿り着いた。
白いジャンパーに身を包んだ彼は建物の壁に背を預けて、待ち人に想いを馳せる。
吐いた息が白い霧となって、澄んだ青空に溶けた。
「ヒューさん」
清楚な声で名を呼ばれ、昇は振り向く。
ベージュのトレンチコートを着込んだ待ち人––水野が、柔らかい微笑を浮かべて駆け寄った。
「来てくれたんですね」
「あんな直球で誘われたら断れませんよ。それにおれも、美術館にはいつか行きたいと思ってましたし」
後頭部を掻きながら、昇は照れくさそうに言う。
更に言葉を重ねようとする彼の鼻を、不意に風が擽った。
「ぶぇっくしょい! さ、寒いですね。早く中に入りましょう」
「……はい!」
空っ風に急かされて、二人は美術館へと足を踏み入れる。
暖房の効いた館内では、老若男女が思い思いに絵を眺めていた。
昇と水野も受付を済ませ、人々の中に加わる。
程なくして、二人は個展の開かれているコーナーに辿り着いた。
「わぁ……」
一番最初に出迎えたのは、マンションのベランダから覗く朝日の絵だった。
風に揺れる洗濯物と白く輝く太陽が、絵本のような淡いタッチで描かれている。
昇はその絵を見つめたまま、飾り気のない感想を呟いた。
「なんかいいなぁ、こういうの……」
「ふふっ、他にも色々あるんですよ」
水野に手を引かれて、昇は画廊に飾られた数々の絵を鑑賞する。
挨拶を交わす学生や出来立てのカレーライス、木漏れ日の散歩道。
どこにでもある日常を切り取ったかのような作品群を眺める内、昇は胸に何かが込み上げるのを感じた。
やがて目頭が熱くなり、一筋の涙が頬を伝う。
隣で微笑む水野に、昇はぽつぽつと胸の内を明かした。
「ここにあるのは、おれの夢そのものです。平凡だけどささやかな幸せがある暮らし。みんなが当たり前に持っていて、時には捨てようとさえするそれが……おれはどうしても欲しいんだ」
「……きっと手に入れられますよ」
震える昇の右手に、水野はそっと自分の左手を伸ばす。
二人の手が触れ合う刹那、昇のショックブレスに通信が入った。
「すみませんっ」
昇は慌てて化粧室に向かい、鳴り止まない着信音に応答する。
腕輪の向こうの月岡は挨拶もそこそこに、通信の要件を説明した。
「日向昇、聞こえるか。都内で数十人が相次いで衰弱、病院に搬送される事件が起こった。被害者は全員女性で、赤い薔薇のブローチを持っているという共通点がある。特危獣の仕業である可能性が高い。お前も調査に加わってくれ」
「分かりました!」
通信を切ると同時に、平和な時間は終わりを告げる。
戦いに赴かなければならないと水野に伝えるべく、昇は小走りで画廊に戻った。
「あれ、水野さん?」
しかし、どこを探しても水野の姿はなかった。
それだけでなく、館内全体から完全に人の気配が消えている。
戸惑う昇の視界を、赤い薔薇の花弁が埋め尽くした。
「うわっ!」
幾つもの茨が絡みつき、画廊は薄暗い密林へと姿を変える。
茨に咲いた赤い薔薇が、室内に不気味な彩りを添えた。
「赤い薔薇……!」
その瞬間、昇の特危獣としての超感覚が咽せ返るような薔薇の香りを捉える。
血のように粘ついた殺意が織り交ぜられた芳香を嗅いで、昇は特危獣の存在を確信した。
「こちら日向昇。東都美術館に特危獣のものと思われる痕跡を発見。これより追跡します」
「東都美術館だな。俺と島先輩と金城で援護に向かう。あまり無茶はするなよ」
「分かりました」
月岡に連絡を済ませ、昇は密林を駆け抜ける。
最深部まで辿り着いた彼を、スーツ姿の怪紳士が出迎えた。
「ようこそ、我が薔薇園へ」
「ヒューさん……!」
怪紳士の腕の中で踠きながら、水野は息も絶え絶えに昇を呼ぶ。
怪紳士は口の端を邪悪に歪めながらカーテンを開き、昇に茨の壁を見せつけた。
「助けてくれ!」
「痛い、苦しい……!」
茨に囚われた美術館の客や従業員たちが、悲鳴の大合唱を響かせる。
絶句する昇に、怪紳士が言った。
「彼らは皆、私の薔薇を咲かせる養分になるのです。素晴らしいでしょう?」
「……まさか、衰弱事件もお前が!」
「ええ、そうですよ」
昇の追及を、怪紳士は笑って肯定する。
彼は水野の首筋に茨を食い込ませ、芝居がかった口調で語り始めた。
「私は偏食家でしてね。美しい女性しか食べない主義なんですよ。しかしそんなことをしていてはすぐに足がついてしまう……そこで私は考えました。獲物を直接喰らわず、じわじわと生命力を吸い取ればいいとね!」
自身の細胞から生成した赤薔薇のブローチを介して少しずつ栄養素を吸収し、最後には衰弱死させる。
友人が立ち眩みを起こした理由に思い至り、水野の顔が青褪めた。
「……それだけ緻密な計画を立てながら、どうして美術館を襲ったんだ」
「この子のせいですよ。私の愛を拒む彼女は死ななければならない。彼女が愛するもの諸共ね!」
怪紳士は狂気じみた理屈を展開し、醜悪な高笑いを響かせる。
それに呼応して伸びた茨が、怪紳士を守る衛兵のように棘を尖らせた。
「あなたにも死んで頂きましょう。はあッ!」
怪紳士に操られた茨が昇の全身に絡みつき、鋭い棘で皮膚を突き破る。
彼は嗜虐的な笑みを浮かべ、今度は茨の鞭打ちを執行した。
「さあ、惨めな悲鳴を上げなさい!」
「……そんな程度じゃ、おれを啼かせることはできませんよ」
「な、何ですとッ!?」
泣き叫ぶどころか挑発までしてのける昇に、怪紳士は激しく狼狽する。
そして鞭の数を2倍に増やし、更に苛烈な拷問を開始した。
「これでもかこれでもか! こぉーれぇーでぇーもぉーかぁーっ!!」
しかし昇は呻き声一つ上げず、頑なな態度で怪紳士の怒りに火を焚べる。
とうとう我慢の限界に達した怪紳士が、甚振るためでなく殺すための鞭を振るった。
「……今です!!」
昇が叫んだ瞬間、館内を支配していた薔薇園が一斉に枯れ果てる。
戸惑う怪紳士たちの耳に、月岡の冷静な声が響いた。
「作戦は成功だな」
ホースつきタンクを背負った月岡、火崎、金城が現れ、怪紳士目掛けて中身を噴射する。
白い煙を浴びた怪紳士は悶え苦しみ、先程までの威勢が嘘のように怯え出した。
デフォルメされた木原の顔が描かれたパッケージを見せつけて、火崎が言う。
「木原印の強力除草剤だ。こいつは効くぜぇ?」
「い、いつの間に……」
「あなたか気持ち良さそうに日向さんを甚振っている間ですよ」
金城は眼鏡を閃かせ、奇襲のカラクリを明かす。
月岡との通信を終えた後、昇は通話を切らずに最深部へと突入した。
そうすることで敵の能力と目的を明らかにし、月岡たちに手掛かりを与えたのだ。
「そして時間稼ぎをしている間に木原さんが除草剤を開発し、俺たちがそれを持って館内に忍び込む。初めてにしては上出来な作戦だ」
「おれだって、いつまでも素人じゃないってことですよ」
「ああ。それでこそ俺のバディだ」
月岡は除草剤で昇を自由にし、二人は拳を突き合わせる。
火崎と金城の迅速な避難誘導により、残る人質は水野だけとなった。
「くっ……せめて、この娘の命だけは!」
「させるかッ!!」
昇は渾身の右ストレートを放ち、怪紳士の体を枯れた茨の絨毯に叩きつける。
即座に水野を茨から解放する彼の姿は、幾つもの死線を潜り抜けた戦士のそれだった。
「……ありがとうございます。助けてくれるって、信じてました」
水野の言葉に、昇は無言で頷く。
彼は走り去る水野の背中を守るように立ち上がり、ショックブレスを起動した。
「後はお前を倒すだけだ……!」
「戯れ事を。死ぬのは貴様だ!」
「超動!!」
昇はアライブに変身し、ゴートブレードで怪紳士に斬りかかる。
怒りの一撃を受け止めた怪紳士が、花吹雪と共に特危獣ローズへと姿を変えた。
棘を纏った緑色の胴体と赤く鮮やかな頭部を持つローズは茨の鞭を振るい、アライブの剣を絡め取る。
月岡がすかさずライフルを投げ渡し、形態変化を支持した。
「相手は植物だ。獅子の姿で燃やせ!」
「分かりました!」
月岡たちが除草剤を噴射して作った隙を利用し、アライブはライオンフェーズに形態変化する。
そしてライフルをライオンキャノンに変え、全火力を集中させた。
「こうなったら奥の手だ……見ろ!」
ローズは茨の奥に隠していた絵を取り出し、盾代わりとしてアライブに見せつける。
それは彼が涙を流した、木漏れ日の散歩道の絵だった。
「貴様がこの絵を見て泣いていたのを私は知ってるぞ。心を動かされた特別な絵、撃てるものなら撃ってみろ!」
武器を手にした現在でも、ライオンフェーズの負担は依然として大きい。
迷えば迷うだけ体力を削られてしまう。
しかしアライブの心に、もはや迷いはなかった。
「おれは……撃たない!」
放り投げられたライオンキャノンに、月岡たちの視線が集まる。
勝利を確信したローズはアライブの息の根を止めるべく、薔薇の花吹雪を繰り出した。
「斬り刻む!!」
アライブはゴートフェーズに更なる形態変化を遂げ、二本のゴートブレードを構えて走り出す。
美しくも勇ましい剣舞で遮る花弁を切り裂きながら、彼はローズへと肉薄した。
「ぅおりゃあああっ!!」
斬撃を受けたローズの肉体が、花吹雪となって美術館に舞う。
赤い花弁に彩られながら、純白の双剣士はゆっくりと振り向いた––。
「助けてくれてありがとうございました。日向さん」
特危獣ローズの撃破から数時間後、公園に場所を移した水野は改めて昇に礼を言った。
自分の名前を覚えられたことに気付き、昇が慌てて狼狽える。
「いえいえ、水野さんが無事でよかっ……日向さん!?」
「眼鏡の人がそう呼んでたのを聞いたんです。ここまでしないと名前が分からないなんて、本当に秘密主義なんですから」
「ごめんなさい。でも、水野さんを危険に巻き込みたくなくて」
何度も特危獣事件に遭遇している以上、昇の理屈は全くの詭弁だ。
しかしそれが昇の不器用な優しさであることを、水野はよく知っている。
あたふたする昇を見つめながら、彼女は自分の想いに結論を出した。
「日向さんが思い出の男の子かどうかなんて関係ない。私は勇敢で優しくて純粋な、この人が好きなんだ」
水野は鞄から小箱を取り出し、そっと昇の掌に握らせる。
中を開けると、それは昇が渡したのと同型のブローチだった。
「青い薔薇のブローチです。花言葉は、夢叶う」
個展で語った『普通の暮らし』をするという夢が叶うようにと願いを込めた、特別なプレゼント。
満面の笑みで礼を言う昇の左胸に、水野は青薔薇のブローチをつけた。
「私にも、お願いします」
「……はい」
昇は水野から白薔薇のブローチを受け取り、彼女の上着にそれをつける。
日常の象徴でいてくれる水野への、尊敬と感謝を込めて。
そして二人は互いの目を見つめて、同時に告げた。
「凄く似合ってる!」
日が暮れ始めた公園に、昇と水野の笑い声が響く。
仲睦まじい二人の姿を物陰から観察しながら、火崎がしみじみと呟いた。
「あまずっぺー……」
「これで付き合ってないとか、一体どうなってるんですかあの二人は」
「戦闘データも相互理解のデータも集められて、あたし幸せ〜!」
金城は呆れ返りつつも興味を示し、木原はホクホク顔でデータの取得を喜ぶ。
そんな二人に挟まれながら、月岡はげんなりした様子で言った。
「……帰っていいですか」
「そんなこと言って、本当は興味あるんでしょ? この思春期男子め!」
「俺の思春期はとっくに終わってます」
ちょっかいをかける木原をあしらいながら、月岡は改めて昇の笑顔を見つめる。
特危獣事件のない世界––昇や皆がいつでも心から笑える世界を、一日も早く作らなければならない。
決意を新たにする月岡の視線の先で、青と白の薔薇が寄り添い合うように咲いていた。
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