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 しかし、ちょっと待て。


「そいつはルシフを殺した事になってんだろ?なのに何故代行は取れない?」


「代行は取れました。ですが、副王はその儘です。先代はあくまでも代行を命じて副王に任命したのですから」


 結局冥王にはなれないって事か。実質権力を握った程度か?それでも夢叶っただろうが。


「それに、我がミューラー家とフレーリヒ家が冥界の三分の二の権限を握っていますので、王にはなれない。我等が反対しますから」


 それでも三分の一程度しか持っていないのかよ。つか、一応多数決で決めんのか。なかなか民主的かもな。


「お前等とその…ワーグナーが戦えばどっちが勝つ?」


「恐らく序盤は五分。戦いが長引けば戦力差は向こうに分があるようになります。なので此方からは仕掛ける事は叶いませんし、ワーグナーもわざわざ我等と揉めようとは思っておりますまい。ですが、近い将来必ず戦になる。会議の度に冥王就任を認めろと詰め寄られるのですから」


 焦れて実力行使に出る、って事か。しかし、序盤が互角なのに、長引けば向こう有利になる意味が解らん。


「何故最後に負けるような事を言う?」


「それは、ワーグナーの術に有ります。あ奴は死霊使役ネクロマンシーを持っておりますので」


「なんだその……ナントカって術は?」


「簡単に言えば、魂を人形、死体に移して奴隷に仕立て上げる術です」


 戦死者が増えれば向こうに戦力が増えるって事か……


「ここは冥界。魂が集う場所。今は辛うじて我等が押さえている状況ですが、既に術を使って不死兵アンデットを所有している可能性も否めません」


 と、言うよりもそうしてんだろ。いずれやると言うのなら準備は必要だから。


「まあ、そこまでは冥界の事情で俺の知ったこっちゃない」


 椅子に体重を預けて言う。俺はルシフさえいいんだったらいいんだし、何なら地上に連れて行ってもいいんだし。


「はい、そこまでは冥界の事情。ルシフ様が死んでいるとの認識があるうちは、ですが」


「施した術が解けるって事か?解けたらそれでもいい。改めて殺しに来たら返り討ち宜しくぶち殺すだけだし、術で蘇った死人共ももう一度ぶち殺してやればいい」


 ここでオッサン、嬉しさを抑えきれない様に口尻を持ち上げた。


「なんで笑う?お前の要望、と言うか希望が叶わないかもしれないって時に?」


「……いえ、失礼しました。自分が敗れるとは微塵たりとも思っておらぬその自信を頼もしく思い、つい」


 だって負けるビジョンが全く浮かばないんだもの。木っ端微塵にしてぶち殺すイメージしかないんだよ。

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