038

 それでもシャンと姿勢を正してノックした。主人の部屋にお客を連れて来た仕事だから、泣いているのは違うんだろう。


「なんだ?」


「カイト様をお連れいたしました」


「うむ、お通ししろ」


「失礼します」


 ガチャリ、とお高そうなドアを開けて、俺に辞儀をして腕を伸ばして入室を促す。


「お待ちしておりましたカイト様」


 オッサンも辞儀を以て出迎える。逆にこっちは困るんだが。


「用事があるのは俺だから、そんなに畏まれちゃ困るが……」


「いえ、冥王の伴侶ならば当然の礼儀です故。おいお前、カイト様にお茶をお持ちしろ」


「畏まりました。カイト様、何かご所望はおありですか?」


 何が飲みたいのか問われてもだ。紅茶くらいしか知らんのだが、だがまあ、聞いてみるのもアリかな?


「コーヒーってあるか?」


「コーヒー……ですか?申し訳ありません、存じておりません」


 申し訳なさそうに深々と辞儀をしての謝罪。やっぱりないのか、冥界にも。


「ああ、無いならいいんだ。普通のお茶でいいや。悪いなパメラ、それ頼めるか?」


「はい。仰せの通りに」


 もう一度辞儀をして去るパメラ。う~ん、いい子だあれは。ウチに欲しい。


「……メイドの名前を覚えたのですか?」


「うん?そうだけど、駄目な事なのかひょっとして?」


「い、いえ、そんな事は…ですが、獄長ジャッジメント・マスターは下のメイドの名を覚える必要が無いので……特にミューラー家には1000を超えるメイドが在籍していますから……」


 ふ~ん…偉い人は下っ端の名前はいちいち覚えなくていいとの風潮があるのか。なんか気に食わねーな、そう言うの。


 まあ、数も数だからしょうがない部分もあるんだろうが。


「それよりも、話を聞きたんだが」


「はい。こちらにお掛け下さい」


 お高そうな椅子に案内された。まあ、座る。クッションがいい感じで、座り心地が実に良い。


 椅子の性能はまあ、置いといてだ。じゃあ早速話して貰おうか。


「お前は冥界では古参だよな?」


「はい。ミューラー家は冥王に代々仕えている御三家の一つ。よって冥界では最古参です」


「じゃあ聞くが、未だかつて純貴族の紋章印を二つ持っている奴隷はいるか、知っているか?」


 両袖を肩まで捲って紋章印を見せた。右肩にはユピテエル、左肩にはプルトエルの紋章印が刻まれている。


「ありません。そもそも、純貴族の異界召喚術自体滅多に行われる事は無いのです。命を半分使用するので」


 そりゃそうだな。寿命を半分使う術なんだ。使わない方が当たり前だ。納得の回答だな。

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