036

 もう時間がヤバい。結構待たせているような感じだ。


「じゃあ行ってくる」


「「「「は」」」」


 全員頭を下げて見送るが、ルルが気付いたようで顔を上げた。


「……行くってどうやって?」


 そこで全員顔を上げた。そりゃそうだって具合で。


「ラインハルトさんが連れて行ってくれんじゃねえの?来た時もそうだったんだろ?」


 ケガルの弁に怪訝な顔で返すラインハルトだった。


「いや、私はカイト様に連れてきて貰ったのだが……」


「「「「「どうやって?」」」」」


 どうやってって、こうやってだ。


航着アライヴ


 薄く光る魔法陣。流石に全員仰天した。


「カイト様が転移術を!?いつの間に!?」


「しかも航着アライヴとは……私も転移術を使いますが、これは霊力の消耗が大きい術ですよ!!」


 さっき奪った能力だから、いつの間にと問われたら、ついさっきと答えるしかない。


 まあ、そこは追々だ。


「ちゃんと仕事しろよセレス」


「カイトも浮気したら金玉握り潰しますからね」


 浮気って、お前とは恋人でも夫婦でもない筈だが。つか、女の子が金玉とか言っちゃダメだろ。言っていいのは銀魂の神楽ちゃんだけだ。


 だから俺ははっきり言う。


「浮気なんかしない。それは本気だからだ」


「それ前も言っていましたよね!余計駄目とも言いましたよね!」


 言ったな、つい昨日。


「あ、セレス、ちょっと来い」


「なんですか?行ってらっしゃいのキスでもねだるんですか?」


 にやけながら寄って来る。戯言を無視してセレスの頭に手を置いた。


 奪った能力で一番レアなのは、瞬速アクセル。推力を生み出す大気系の術だ。セレスは空を飛ぶ術は持っていたが、速度は期待できないと言った。つまり加速は持っていない筈。


 それをプレゼントだ。贈呈を試すのは打って付けだろ。


 球体になった術式を帯状に戻し、それをセレスに送る。セレスの魂の元アートマボディがそれを飲み込んで行くように、吸収する。なんかイメージがお札を入れている両替機みたいな感じだ。細かくなって戻って来ないだけで。


「!これが……?」


「その驚いた顔、成功か?」


 頷いて、だけど神妙な顔で。


「……純貴族の魂の元アートマボディは無数のプロテクトが掛かっていて、突破は不可能に近い筈なのに、こんなに簡単に……」


 そうなの?なんかするすると入って行ったけど?


「ま、まあ、だけど入っちゃったし。で、出来そうか?」


「可能です。今すぐ試しますか?」


「確認は後でいいや。だけどそれ奪った奴って雑魚っぽかったけど、その術結構なレアなんだろ?」


「大抵の術の威力は霊力に比例しますからね。多分、そいつは飛ぶんじゃなく、走る、跳ぶ方に使っていたんじゃないですかね?」


 そうかもしれないな。元剣闘士っぽかったから。


「じゃ、まあ、行ってくる」


「はい、行ってらっしゃい、カイト」


 見惚れるような可愛い笑顔で見送ってくれた。いつもそんな顔だったらマジで惚れるのにな。いや、好感度は一番か二番くらいに高いんだけどね。

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