032

「カイト様、宥めて止めてください。お願いします」


 焦った様子を見せずに何とかしろと俺に言うとは。だから付いてきたようだな、こうなるだろうと予測して。


「おいセレス、誰と戦争するつもりなんだ?」


「そんなもん決まっています!!冥王の娘なんでしょそいつ!!」


 そいつとは、俺を喚んだルシフの事だな。だがしかし。


「ルシフと戦争は出来ないぞ。何故ならあいつは天涯孤独でボッチだからだ。つまりお前の言う図式では、ルシフ対ユピテエル軍と言う事になるが?」


「ルシフ!?もう名前で呼んじゃっていますよこのタラシの浮気者が……え?天涯孤独?」


 頷く。つうか誰がタラシで浮気者だ。お前とは恋人でもないだろうが。つうか時間もあんま無いのでだ。


「端折って説明すると、ルシフは多分赤ん坊の頃に親と死別している。何らかの事情により孤独を強いられている。まるで昨日までの誰かさんのようにな」


 それでもセレスはクーデター前は親父がいた。ルシフは親父の記憶すらないだろう。


「こいつの家……ミューラー家が面倒を見ていたみたいだ。その事情も解らんが、こいつの親父が話してくれるそうだ。そうだろラインハルト?」


「はい、父上が全てカイト様にお話しすると思います。今の冥界の事情も」


 何となく静かになった。セレスですら。昨日までの自分と同じと言われちゃ黙るしかない。奴隷を欲する理由も理解できるだろうし。


「そんな訳だからルル、ロッティ、その拳はどうするんだ?」


 静かぁに振り上げた拳を下げる二人。なんとなくだが、辛い境遇にあると理解したのだろう。まるで昨日までの自分達と同じように。


「そんな訳で俺は冥界に行かねばならんのだ。お前も言っただろ?主人が紅茶飲みたいと思ったら用意しろと」


「……カイトが出張れば冥界は大惨事になりますよ?」


「そんなもん知ったこっちゃねーのが俺だろ。喚んだ主人の為に働くのが奴隷の仕事。お前の時とおんなじだ」


「……そうでしょうけど、カイトはその糞アマに好意を抱いていますよね?」


「ああ、可愛いな、とは思うし、庇護欲も抱いている。だが、それは恐らく思考の反映・・・・・のせいだろ」


「……そこまで承知なのに、それでも冥界のごたごたに首を突っ込みますか?」


「俺が首を突っ込むのはルシフの幸せのみだ。他は知らね。そこもお前の時と同じだ」


「滅茶苦茶不愉快で凄く納得いきませんが……それがカイトがやりたい事なんですね?」


 そうでもない。俺がやりたかった事はだ。


「俺は自分の世界で、普通に学校行って、普通に仕事したかったんだが?」


「いいでしょう解りました許します冥界に向かうのはですが糞アマに本気にならないように何故ならカイトのお嫁さんは私なんですから因みに愛人も必要ないですからね私一人居れば事足りますしカイトの事を一番大事だと思っているのは私なんですからそれは絶対に忘れないようにあと早く帰って来るんですよ具体的には明日とか解りましたか解りましたら頷いてください」


 捲し立てるように一気に言うな。俺がやりたかった事を壊したのは自分だとの自覚があったのは救いだが。まあ、流石に無茶な事を要求されたのでやんわりと濁そう。


「早口だったから何言っているか解んねーよ」


「むう……」


 つか、別に毎日帰って来ても構わんのだが。それはそうととセレスの手を握った。

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