029

 そんなジジィは置いといて、俺の要望が先だ。


「鉱山はしばらく閉鎖してくれ。その間別の工事やってくれ」


「べ、別の工事とは?」


「鉱山廃水そのまま垂れ流しして人狼ワーウルフの里が汚染されたんだろ?処理施設が先だ。水は中和して、汚泥は更にリサイクルして鉱物を取り切る」


「わ、ワシもその事を相談しようとしておりました!」


 そうなの?じゃあ話は早いな。


「それの技術はあるか?」


鋼妖精ドワーフは技術屋ですぜ!!」


 胸を叩いて頼もし気に。可能だと言う事だな。良かった。


「あんなに話が進まなかったのに、カイトの指示でやる事が明確になったつうかな…」


「にゃー。流石はカイトさんにゃー」


「カイト様ならば当然の事です」


 なんか俺に羨望の眼差しが送られている気配がする。気のせいか?いや、好意には敏感なのだ俺は。よって気のせいではない。


「カイト殿、冥界に滞在なさっていると伺いましたが……」


「うん?その通りだが、何かあるのか?」


「……………いえ、何でもありませぬ」


 何か言いかけたが飲み込んだ。遠慮しないで言えばいいんだが。


「冥界の温泉にでも入りたいのか?お前もジジィだから身体を労わらんとな」


「……ほっほっほ……機会があったらお願いしますじゃ」


 なんでそんなに乾いたように笑う?なんでそんなに寂しそうに笑う?


「あ、そうそう、お嬢様ですが、ニフス、ノーマ両名に、カイト殿が言うインフラ整備の説明をしていますのじゃ」


「一応仕事してんのか」


 感心するが、それはそれ。俺の店を燃やした罪「カイト!!」ほらキター!!!!


「ほ、本当にカイト様!!」


「な、何故!?帰るまでのエネルギー充填には最低二日必要なのに!?」


「そんなもん決まっています!!カイトは私に早く会いたかったんです!!地脈エネルギーなんざカイトと私の愛には及ばないって事です!!」


「愛は兎も角、会いたかったぜセレス……」


「私もですカイトぐあ!?」


 抱き付いて来るセレスにアイアンクローをかます。つかお前、「ぐあ!?」って。ヒロインの台詞じゃねーぞそれ。


「な!?いきなり何をなさるカイト様!?そのお方はユピテエル様では!?」


 突然の事に動揺しまくるラインハルト。ユピテエル?だからなんだ?


「俺はこいつの奴隷だ。ユピテエルなんか知るか。なあセレス……」


「いだいいだいいだいいだいいだい!!!何するんですかカイトマジいだい!!!!」


 ばったんばったん暴れるセレス。凄んで言う。


「おい……俺の店火事になって消失しちまったんだが、お前なんか心当たりあるだろ……」


「店が火事で無くなったのとこのアイアンクローになんの関係がいだあああああああああああいいいいい!!!」


「出火原因は厨房だ。鍋に火をかけっぱなしにして出掛けたからだよ。さて、どこに誰に連れられたんだ俺は?」


「それは私に天界に連れられ……え!?」


「え?じゃねーよ。なんで火を止めなかったんだ?俺は気を失ったんだぞ。強引に引っ張られて行ったんだぞ。じゃあお前が消して然るべきだろうが?そうじゃねーか?ああ?」


 ぎちぎちと握力を強めた。頭蓋からみしみし音が出ているのを無視して。

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