013

「……お待たせ」


 奥に引っ込んだルシフが帰って来た。革製の盾と胸当てを装着し、腰に短剣を下げて。


「……では旦那様、お仕事に行ってきますので」


 そう、深々と辞儀をする。


「うん?俺って留守番?」


「アンタが着いてきて何ができるってのよ。危険な試合だと思うんだろうけど、この子は心配ないんだから」


 得意気にふふんと胸を張って。


「いや、お前が俺をどう思おうが世界一どうでもいいが、留守番は暇だろ。冥界ってのも見てみたいし、試合も観たい」


「お前って…!私はこう見えてもエリート……」


 憤慨する女を制してルシフに訪ねる。


「いいだろ着いて行っても」


「……構いませんが、私の試合を観ても面白くないと思いますよ。逆に旦那様の方が危険に晒されるかと思いますが」


「いいそうだ。だから俺も行くぞ。つか、お前の名前ってなんだ?」


「今更?だけどそうね、名乗っていないからお前呼ばわりされるのよね。ハイデマリー・ミューラー。生まれながらの死神の家系よ。ミューラー家って知ってる?」


「知らね」


「まあ、そうよね。たかが人間、エリートの家系なんか知る筈もない。だけどミューラー家は冥王に仕えてきた家系。本来ならアンタ如きが気安く話せる相手じゃないって事は覚えておいてね」


 ふふんと得意気に言うが、成程な、こいつがルシフの面倒を見ている理由の一つが、冥王って奴に仕えていた家系だからか。


 つまり、冥王は純貴族だって事だ。ルシフはその事を知らないようだが。幼い頃から天涯孤独だって話だし、先王は亡くなったんだろうな。


「しかし、ルシフとは友達なんだろ?なのに名字で呼ばせているってのがな。全然親しみを感じないんだが」


「それは……………」


 少し苦しい顔をして詰まらせた。何か事情があるようだが……


 まあいいや。今は試合だろ?17区だっけ?


「まずは外に出よう。案内してくれ」


「……はい。と言っても17区までの案内になりますが」


「いいだろそれで。他は時間がある時にゆっくりと見させてもらうさ。お前と二人で」


「……二人っきりで…?」


 それでいいだろ。ぶっちゃけ他はどうでもいいんだし。俺ってお前の愛玩奴隷みたいだし。


「じゃあ、まあ、出ようか。アンタのバイト先も探さないとね」


 いや、俺はラーメン屋だそ。バイトも何もだ。それよりも、一回天界に行かないと。あの馬鹿女に折檻をくれてやるんだ。俺の店燃やした罪は重い!

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