第19話 ある意味天才な隼汰

「———はてさて、一体どうやって接触するかな……」


 昼休憩。

 俺は過去一難航している現状に唸る。


 既に黒枝小百合の情報を集めると決めて一週間が経っていた。

 結果だけ言うと……この一週間、結局一度も黒枝小百合に接触出来ていない。

 彼女の情報も一週間前と殆ど変わっておらず、強いて言えばイケメン彼氏にゾッコンで場所関係なくイチャイチャしているらしい。


 ……ぶっ殺してやろうかな?

 絵里奈ちゃんを嵌めておいて自分は好きな人とイチャコラですか……断じて許せん。

 絶対に化けの皮を剥いでやる。


 ———とは言っても、もう探偵を雇う金はない。

 それにそもそもアイツと面識がないのと彼氏が近くにいて一人にならないので話すのも中々厳しいのだ。

 

「うーん……あ、そう言えばあのクラスには隼汰が居たな」


 これは朗報だ。

 アイツにそれとなく話を聞くのもいいかもしれない。


 俺は早速隼汰と黒枝小百合のいる教室に入り、眠そうに机に突っ伏している隼汰に声を掛ける。


「おーい、皆んなのアイドルの快斗さんが来てやったぞー」

「…………チェンジで」

「よし、戦争だコラ!」


 眠たげな眼で俺を何秒間か見た後、とんでもなく失礼な言葉を溢して再び寝ようとしたので文字通り叩き起こす。

 俺に背中を叩かれた隼汰は『いたっ!?』と叫んで背中をさすった。


「いちち……おい、何すんだよ快斗。折角人が気持ちよく寝てたのに……」

「どうせ授業中も寝てんだろお前」

「あ、バレた?」


 大して悪びれもせずいう我が親友にはつくづく呆れる。

 俺が半目で見ていることに気付いたのか恥ずかしそうに目を逸らして一度咳払い。


「ごほんっ! ……で、一体快斗様は何の御用で?」

「少し聞きたいことがあってな。ほら、あのクソリア充についてなんだけど……」


 俺は目線を学年一のイケメンとイチャコラする黒枝小百合に向ける。

 すると、隼汰が『あぁ……』と何か知っているかのような口振りで苦々しく呟いた。

 

「アイツらね……最近ウチのクラスじゃ有名だぜ? イケメン君が彼氏っていうのと、意外と黒枝が美人だったからな」

「へぇ……黒枝って奴は美人なのか。ま、死ぬほど興味ないけど」


 俺は絵里奈ちゃん一筋ですので。


「どうしたお前……あんなに美人に目が無かったのに??」


 気持ち悪いモノでも見たかのような目で俺を見て来る隼汰。

 大概失礼だなお前は。


「成長すんだよ俺だって。そもそも今は好きな人が居るし」

「…………あー、この前お見舞いに来てた子か。そう言えば、その子が黒枝を虐めてたって……もしかしてお前……!」

「そゆこと」


 察したらしい隼汰が驚いたように俺を見てきたのでニヤリと笑って頷く。

 すると隼汰は口元に手を当てて何かを考え始めた。


「……ってことはあの三人組も……確かアイツらもあの子と面識が……それに浅村はそもそも……———お前、やってんな」

「全ては絵里奈さんのためだからな」


 呆れたように言った隼汰に俺が大きく頷いて返すと、眉間に指を押し当てる。


「お前……行動力のバケモンだな……」

「いや、今回ばかりはそうせざるを得なかったんだよ」

「だとしてもだろ。学校で一番嫌われてるって言っても過言じゃない奴を好きになる時点で十分バケモンなんだよ。ただ……普段は慎重なお前のことだ。あの子が悪くないのは既に確証を得てんだろ?」


 流石俺の親友。

 俺の性格をよく分かっておられる。


「ああ、探偵雇った」

「へぇ探偵を…………探偵雇ったぁ!?」

「おう。三十万でな」

「しかも三十万!? お前馬鹿なん!?」


 椅子から転げ落ちるように隼汰が驚く。

 まぁそれが普通の反応なのは親を見ているから分かる。


 ウチの親、俺が初めて言い出した時なんか精神科に連れて行こうとしたからな。

 俺が何とか必死に説得したけど、マジであれば大変だった……。


 少し前のことを思い出して達観していた俺に隼汰が尋ねる。


「はぁ……つまり俺に黒枝小百合の情報を提供しろってことか?」

「話が早くて助かる」

「黒枝ね……あ、そう言えば今日は図書室の当番だった気がするぞ。あのイケメン彼氏に言ってたのを聞いたわ」

「イケメン彼氏は?」

「アイツはもう少しで大会だからって最近は一緒に帰ってねぇよ」

 

 相変わらず全く周りに興味なさそうで周りのことをよく見ていることで。


 隼汰の情報力はマジで頼りになる。

 コイツの耳がマジでいいって言うのもあるが……何より頭の中で聞こえてきたモノを瞬時に必要か、必要でないか判断して聞いているのが更に凄い。


「んじゃ、放課後試しに行ってみるわ」

「おう、そうしろ。この情報は美人を連れて来るってことでチャラにしてやるよ」

「強欲な奴め」

「よく言われる」


 そんな会話をしながら、一瞬だけ黒枝に目を向けてから俺は教室を出た。

 

「アイツ……?」










「……ふーん……ボクと翔君の邪魔をする虫が現れたんだ……ま、虫はちゃんと潰さないとね」

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