第20話 ドス黒い

 時は過ぎて放課後。

 遂に黒枝小百合のいるであろう図書室に行く時間だ。


 授業中の間、出来る限り頭の中で考えを練ったが……正直アイツの情報が少なくて判断が難しい。

 ただ、昼休憩の様子を見る限り……浅村やあのお馬鹿三人組の様に簡単にはいかないことだけは分かる。


「ま、到底許すつもりはないけどな」


 自分の幸せのために人を嵌める。

 それがどうして絵里奈ちゃんなのかは不明だが……そんなことをするなら。



「俺の幸せのために———お前を嵌めてもいいわけだ」



 悪いが、お前の幸せ、俺が奪わせて貰うぞ。









「———失礼しまぁーす」


 図書室の扉を開けて静かな図書室に入る。

 ラッキーなことに、俺が見る限り図書室に人は居ない。


 まあ、最近は本は電子で沢山読めるし借りる人が減ったのかね。

 俺は断然紙の本の方が好きだけど。


 そんなことを考えながら、適当な本を探す。

 出来る限り俺の興味のある本を。

 もうバレているとは思うが、念のために本当に借りるのだ。


 お、俺が好きなラノベの新刊じゃねぇか。

 最近は図書室にもラノベが置いてあるんだなぁ……今度から通おうかな。

 あ、そう言えば絵里奈ちゃんって本が好きらしいし、もし付き合えたら図書館デートとかしてみたい。


「———これ、借りたいんですけど」

「……お名前と組、番号をお願いします」


 俺がラノベの新刊を持って、図書委員の黒枝小百合の前に置く。

 黒枝は俺を二秒程ジッと見た後、にこやかな笑みを浮かべて言った。

 そんな黒枝に、俺も笑みを浮かべる。


「あれ、もう知ってるんじゃないですか?」

「え、何故ですか?」

「———佐倉絵里奈」

「……っ、その名前を言わないで下さい。私、彼女に虐められていたので」


 不愉快そうに顔を歪める黒枝。

 だが、俺はなんてことない風に肩をすくめて言った。


「ふーん、虐められていた、ねぇ……虐められた人って、自分から虐められたなんて他人に言わないと思うんだけどな。ま、俺は虐められたことないから知らないけど」

「……何が言いたいのですか?」

「———アンタ、本当は虐められてないだろ」


 俺の発言に、ピクッと眉をひくつかせる。

 しかし、直ぐに黒枝は目に涙を溜めた。


「ひ、酷い……! そんなこと———」

「あー、いいからそういうの。涙は彼氏君にだけ見せな」


 その顔……ムカつく。

 自分が加害者のくせに、被害者ぶるとかマジでキモいわ。  

 てか、こんな直ぐに涙を流せること自体普通に怖いわ。


「面倒だから聞くけど……それで、何で絵里奈さんを嵌めた?」

「は、嵌めたってどう言う……———ッ」


『……で、あの提案ってのは何なんだ? 教えないとか言ったら……分かってるよな?』

『あーしらは黒枝小百合って奴に頼まれた』

『ちょっ!? 何言ってんのよ!』

『まー良いじゃん。どうせここで言わないとあーしら詰んでんだし』


 俺のスマホから、お馬鹿三人組の録音された音声が流れる。

 そこには、ちゃんと黒枝小百合から頼まれたとの証言がある。

 顔を俯かせる黒枝に、俺は言葉を続けた。


「因みに、この間にお前の名前は一ミリたりとも出していないぞ」

「…………」

「証拠の動画も音声もちゃんとあるから見たいなら言いな」

「…………ふふっ、ふふふふ……! あははははははは……!!」

「……何がおかしい?」


 俺は突然笑い声を上げ始める黒枝を警戒しながら目を細める。

 対する黒枝は、愉快げな表情とどんよりと濁った瞳で俺を見据えた。


「いやぁ……中々用心深いんだね、君」

「慎重派なもんでね」

「でも……ボクには及ばない、かなぁ?」


 そう言って黒枝は、ニンマリと三日月の様に口角を上げ、スマホの画面をタップする。

 すると———。


「……っ、絵里奈さん……!?」


 黒枝のスマホ画面に、バイトのコスプレ店に向かう絵里奈ちゃんの姿が映し出されていた。

 絵里奈ちゃんは相手に気が付いた様子はなく、スマホを何やら操作している。

 

 ———と同時に、俺のスマホにlineが届く。


「ん? 見ないんだ? ボクは見た方がいいと思うけどなぁ?」

「……」


 俺は黒枝から視線を逸らさず、スマホを開く。

 すると、少し前に交換した絵里奈ちゃんのlineから連絡が来ていた。


《絵里奈:ねぇ》

《絵里奈:今日もシフト入ってんの?》

《絵里奈:入ってるなら少し付き合って欲しいところがあるんだけど》

  

 …………絵里奈ちゃん。


「……お前、絵里奈さんを追跡して何がしたい……?」

「別にー? ただ、君がその音声を消してくれるなら、何もさせないよ? 勿論バックアップの物も全てね?」

「……仮に、俺が消さなかったら?」


 黒枝が狂気に塗れた笑みを浮かべた。



「———彼女、一生モノの傷を付けられるかもね? 心にも……身体にも」



 俺は思わず拳を握り、殴りそうになる。

 しかし———彼女はこれ見よがしにスマホをちらつかせた。


「あ、そんなことしてもいいんだー?」

「……チッ……消す。消すから何もするな」


 俺には、それ以外の選択肢は無かった。

 今回は、完全に俺の負けだった。

 ただ……収穫もあった。

 

 こいつは———イカれている。

 恐らく、自分と彼氏のこと以外、何も考えていない。

 そして、他人など自分に関係なければどうなろうが知ったこっちゃない……と言ったところか。


 

 なら———コイツが動かざるを得ない状況を作ってやるよ。


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