第15話 証拠を得るチャンス到来①

 ———更に一週間が経過し、遂に学校へ登校できる日がやって来た。

 

「よぉし! 遂に学校や! 学校でも絵里奈ちゃんに会える!」


 この二週間、放課後くらいの十八時にならないと絵里奈ちゃんに会えなかったので、マジで嬉しい。

 多分人生で初めて学校に行くのを喜んだ気がする。


 ただ、浮かれ過ぎるのも此処まで。

 これから俺は新たにやる事があるのだ。


 一つは、絵里奈ちゃんが元々つるんでいた女子達に制裁をその内食らわせるための材料集め。

 多分これは予想だが、一瞬で出て来る気がする。


 そして次が問題だ。



 ———黒枝くろえだ小百合さゆりの企み。


 

 これが二つ目のやる事である。

 

 普通に考えて、イケメン君が激怒する程虐められてた奴が、あんなすぐにニコニコ大好き出来るか?

 アイツと同じクラスの友達が糾弾の次の日にはニコニコだったって言ってたし。


 俺自身彼女を知らないのでハッキリとは言えないが、何か怪しいのは間違いない。

 そもそも仮に絵里奈ちゃんが虐めてたなら何で名前知らないんだよって話になる。


「絵里奈ちゃんくらいの天使なら罪悪感とかで絶対名前覚えてそうだけどなぁ……」


 何せあの天使こと絵里奈ちゃんである。

 幾ら恋は盲目といえど……彼女が心優しい少女だと言うことは探偵に既に調査して貰っているので間違いない。


 ま、それはおいおい考えていくとして。


「———おはよう、絵里奈さん!」

「……おはよ、快斗」


 俺は最早日課となった挨拶をする。

 絵里奈ちゃんは、この前のこともあってかちゃんと下の名前で呼んでくれるのだ。


 それがもう嬉しいやら何のって。

 毎回昇天しそうなんだが。

 

 何て思っていると、皆んなの視線がいつも以上に俺に向いている。

 ただ、何となく理由は分かる。


 大方、俺が浅村と喧嘩したって噂が広まったんだろうなぁ。

 ま、後悔なんざ一ミリもしてないけど。

 

「……ごめん、私のせいでこんなことになって……」

「別に絵里奈さんのせいじゃないじゃん。悪いの浅村達だし」


 だから、そんな申し訳なさそうに瞳を伏せなくてもいいのに。


 そう言うところも絵里奈ちゃんのいいところなのだろうが……まぁ何とも人生生きづらそうだ。

 もう少し自己中になった方がいいと思う。



「———チッ、何であの女にまだ話しかける奴がいんのよ……!」



「ん?」

「? どうしたん?」


 俺は、キョトンと不思議そうにする絵里奈ちゃんから泣く泣く視線を切って、誰とも目線を合わせない様に周囲に視線を巡らせる。

 すると、何故が足早に教室を出て行く女子三人組を発見。


「絵里奈さん、少し用事が出来たから、また後でね」

「え? あ、うん」


 俺は教室を出ると、足早に離れる三人組を追い掛ける。

 一応スマホの録音機能をいつでも使える様に準備して、ポケットに突っ込んでおく。


 朝だから登校して来た生徒達が多く、流れに逆流していなくとも鞄が邪魔で中々前に進めない。


「くそッ……邪魔だな……」


 ただ、それは相手も同じで、結構四苦八苦していた。

 時折り後ろを向いて来るので、大柄な生徒や鞄の後ろに隠れてやり過ごす。


 そうして何とか登校して来た生徒達の波を抜けると……女子達———元絵里奈ちゃんの友達であるギャル———は頻りに周りを気にしていたが、安心したのかベラベラ話し始めた。


「ねぇ、何であの生意気女がまだ男子と話してんの!! 皆んなアタシ達で脅して近付かせないようにしたじゃん!」

「さぁ……? でも確かにウザいねぇ〜〜何か下の名前で呼び合ってて楽しそうだったもんねぇ〜〜」


 お、そんな風に見られてたんだな。

 ヤバイ、何かめっちゃ嬉しい。


「ま、吐きそうなくらいキモかったけどねぇ〜〜」


 …………オマエだけは許さんぞ。

 

 俺は思わず飛び出て怒鳴り付けたい欲求に駆られるが……何とか抑え込み、再び話に耳を傾ける。


「———あ、アイツって浅村と喧嘩した奴じゃん!」

「え? あの顔が良くて中の上程度の平凡そうな男が?」

「うーん、でもやっぱアイツだって多分! 平凡過ぎて逆に記憶に残ってたし!」


 俺、何でこんなにボロクソ言われないといけないのだろうか。

 ただ頑張って生きてるだけなのに。



「———そうだ! あの男後で呼び出して嵌めてやろ! それであの生意気女に近付かせないようにしてバラすの!」



 何ちゅうエグい作戦を思いつくのだろうこの塵女は。

 ヤバい、名前覚えてた筈なんだけどゴミすぎて思い出せん。


「おおー、いいねぇ〜〜! さんせぇ〜〜」

「あーしもやるわ。絶対オモロイじゃん。特に弱み握られた時の男の情けない顔が好きなんよね、あーし!」

「えー、キモー!」

「うるさいし!」

「じゃあ昼休憩に空き教室呼ぼ!」

「「いいじゃん、それで!!」」

「「「キャハハハハハ!!」」」


 俺は三人が笑っているところまで録音し終えると……。


「クククッ……やばい、馬鹿すぎてマジでオモロイんだけど。———ブハッ! アハハハハ! はー、苦し……ま、オマエらの好きにはさせねーよ。こっちもこっちで色々と準備するかね……ぶふっ」


 溢れそうな笑みを必死に抑えて(抑えれなかった)早速準備に取り掛かった。

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