第13話 停学でしたよ、はい。

「———はい、停学で草」

「何したんだよ、お前」

「え、正義の執行」

「厨二病かお前」

「ホントだし」

「尚更厨二臭えわ」


 俺が入院する病室に来た、親友と言えなくもない友人———井川隼汰いかわしゅんたがボロボロの俺を見ながら呆れたように言った。


 隼汰は、性格もそこそこ良くて、顔自体もそこそこ整ってるのに全くと言って良いほど女子にモテず、男子の友達ばかり増える憐れな奴だ。

 この前それで深刻そうに言っていた時は可哀想過ぎてジュース買ってやった。


 因みに隼汰は一年の頃席が近かったのと色々と話が合ったため仲良くなったのだが……普段はズボラだが意外とこう言ったときにはそれなりに心配してくれるいい奴である。


 そして俺はというと……入院しているのもあるが、普通に喧嘩のことがバレて2週間の停学処分を食らった。

 本来は退学の可能性もあったらしいが……絵里奈ちゃんの必死な弁護と郷原の言葉によって停学で済んだというわけだ。

 そして浅村はというと……。


「———結局浅村の奴退学したらしいぞ」

「あ、やっぱり? あの噂マジだったんだな」

「そそ。てかお前がギリギリ停学なのにアイツも停学なわけ無いだろ」


 それもそうか。

 まぁアイツは相当色んなことしてたみたいだし、そもそも絵里奈ちゃんに暴言吐いた時点でアウトだったけどな。

 

 ざまあみやがれ、と俺は内心浅村に中指を立てていると、少し深刻そうな表情で隼汰が忠告してきた。


「お前さ……あんまり変なことに突っ込むなよ? いきなり友達が入院したって聞いた俺の気持ちにもなってみろ」

「初っ端俺の腫れた頬見て大爆笑してた奴が何言ってんだか」


 実は病室に入ってきた時、コイツ、俺の腫れ上がってパンパンになった顔を見て一分間くらい大爆笑しやがったのだ。


「いやアレは……ブフッ」


 先程のことを思い出したのか、俺の顔を見ながら噴き出した。

 その瞬間に俺の怒りの琴線がプツッと切れた。


「おいよくも男の勲章を笑いやがったな!? よし、喧嘩だ、今直ぐ掛かってこい!!」

「お、やんのか? 普段のお前ならまだしも今のボロボロのお前に俺を倒せるかな?」


 そう言ってニヤニヤと笑いながら立ち上がる隼汰に俺は吠える。


「余裕じゃボケ! この前のカラオケ代の恨みぃぃぃぃぃ!!」

「おい、アレはお前が負けたのが悪いだろ!」

「五月蝿ぇ! 俺の一〇〇〇円返せよ!!」


 そう取っ組み合いを始める俺達だったが……。



「———何してんの、アンタら」



 絶対零度の視線を向ける絵里奈ちゃんの言葉によって呆気なく終わりを迎えた。












「———バカじゃないの? そんな身体であんな激しい動きしたらいけないって子供でも分かると思うけど?」

「ごもっともです。返す言葉もありません」


 俺は絵里奈ちゃんが来てからというものずっとお説教を受けていた。

 勿論俺と隼汰が取っ組み合いをしていた件についてである。


 え、隼汰?

 勿論速攻で逃げたけど?

 いいご身分だね全く。

 いや、俺だけに怒ってくれると考えればご褒美か。


「ねぇ、聞いてるわけ?」

「勿論です」

「なら私がさっき何て言ったか言ってみなさいよ」


 …………。


「……俺がバカ?」

「そんなことを言ってないし」

「あ、あれ?」

「はぁ……やっぱり聞いてないじゃない」


 呆れた様な視線を向けられる。

 何か今日は呆れられることが多い気がする。


 ただ聞いてない俺が悪いので取り敢えず謝る。


「ごめんなさい、次から気を付けます」

「……ん」


 何か言われると思っていたのだが……俺の予想に反して、小さくコクッと頷いてスッと目を逸らした。


 あ、あれ……?

 何か普段と反応が違うんですけど。

 ごめん、俺が寝てる間に何かありました?


 俺はあまりに態度の違う絵里奈ちゃんに戸惑いを隠せなかった。


「さ、佐倉さん、何かあった?」

「な、何? べ、別に自分のせいでこんなに怪我させたのに素直になれずに怒ってしまったことに後悔してるだけだけど?」


 キッと顔を真っ赤にしながら睨んでくる絵里奈ちゃん。


 ……え、何、この可愛い生き物。

 めちゃくちゃ可愛いこと言ってるんですけど。

 ツンデレなんて比じゃないくらい可愛いこと言ってるんですけど。



「えっと……つまり何が言いたいかっていうと———あ、ありがと! わ、私のためにそんなボロボロになるまで怒ってくれて……う、嬉しかった……!」

 


 ……やっぱ好きだなぁ……。


 俺はあまりの恥ずかしさに耳まで真っ赤にして後ろを向く絵里奈ちゃんを見ながら、改めて絵里奈ちゃんを支えることを誓った。

 

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