第12話 「ダッセェ……」「……ありがと」

「———ほら、何時でも良いぞ? さっさとかかって来いって。さっきの勢いはどうしたよ」

「くっ……調子に乗りやがって……」


 俺が思いっ切り煽って鼻で笑うと、浅村が歯を食いしばって徐々にキレ始める。

 ただ、前回の経験があるからか中々突撃してこないので、更に煽ってみることにした。


「あれ? もしかしてビビってんの? そんな訳無いよね、自称佐倉さんの男さん?」

「ぶっ殺す!!」


 遂に小さい堪忍袋の尾が切れたらしく顔を真っ赤にして拳を振り上げる。

 俺はそんな浅村を睨みながら、小さく笑みを溢す。


「これで———さっきの賭けは成立な?」

「は———グハッ!?!? ご、ごのや”ろ”う”……!!」


 俺は此方に駆けてくる浅村に地面を蹴って突撃すると、振り抜かれた拳を避けて拳を腹に食い込ませる。

 鳩尾を押さえた浅村が前のめりになりながら殴ってきたので、軽く流して足を掛けると、倒れる浅村の鳩尾目掛けて膝蹴りをぶち当てた。


「オゴッ……!?」

「お前にはそれがお似合いだな。一生地面に頭付きて生きてけば良いと思うぞ」


 鳩尾を押さえながら無様に顔を地面に付けて崩れ落ちる浅村。

 俺は終わったと思い、小さく息を吐いた。

 

 コイツはこれ以上動けんだろ。

 後は絵里奈ちゃんに近付かないと誓わせれば———。


「———ぐッッ!?」


 俺は突然脇腹を襲う鋭い痛みに顔を歪める。

 それと同時に反射的に浅村を蹴飛ばした。

 一メートルほど吹き飛んだ浅村を他所に痛みの出どころである脇腹を見ると……服が二十センチ程焦げて穴が空き、服の穴より少し小さいがそれでも今までなったこと無いくらい皮膚が爛れていた。

 

「お前……スタンガン持ってたのかよ……それも改造したな……?」


 普通なら鋭い痛みが身体に走ったとしても、服を焦がして穴を開けて皮膚が爛れるなんて威力が出ないはずだ。 

 そんな高威力なら過剰防衛で罪にでも問われるんじゃないのかね……!?


 俺が脇腹を押さえながら浅村を睨むと、浅村は先程とは一変して可笑しそうに醜く歪んだ笑みを浮かべた。


「ゴホッゴホッ……はっ!! あ、当たり前だろ! これでお前を二度と逆らえないように痛め付けてやんよ!!」

「ず、ズルじゃん……!! 暁月は素手なのに、そんな危険なモノ使うとかダサすぎるんだけど!!」

「うるせぇよ糞女!! お前が素直に俺の女になってればこんなことにはなってねぇよ!!」

「黙れ、屑野郎……!! お前に佐倉さんをどうこう言える権利などはない……!!」

「はっ、脇腹抑えて苦しそうな奴がなんか言ってやがるぜ。ほら、さっさとくたばれ!」


 こ、この屑野郎……!


 俺は、此方に向かってスタンガンを構えながら接近する浅村から距離を取ろうとするが———。


「ぐっ……」

「隙ありだぜぇぇぇぇぇ!! もっと醜い顔にしてやんよぉぉぉおおおお!!」


 脇腹が痛み、動きが止まってしまう。

 その隙を突かれて、顔面目掛けてバチバチと青白い電気が迸るスタンガンが突き出される。

 

「———く、この屑野郎……」


 俺はギリギリで痛みを我慢して顔を横に逸らす。

 しかし、少し掠ったせいで頬に針を突き刺されたかのような痛みが走り、うめき声が上がりそうになるも、グッと我慢して突き出された腕を掴み、もう片方の手でスタンガンを握る方の手首を思いっ切り叩く。


「うぐっ……ゴホッ!?」

「よしッ! これは———こうだ!!」


 俺は浅村がスタンガンを手放すと同時に手を離し、後ろ蹴りを繰り出して吹き飛ばす。

 そして地面に落ちたスタンガンを何度も思いっ切り踏み付けてぶっ壊した。


「はぁ……はぁ……これでスタンガンは使えないぞ……!」

「クソッ……糞糞糞糞糞糞糞糞……ッ!! お前さえ……お前さえ居なければ……暁月ィィィィィィ!!」


 どうやら身体は鍛えているようで、まるで悪魔でも宿したかのような顔で此方に殴りかかってくる。

 俺はそんな浅村を見て、驚きを禁じ得なかった。


 幾ら力の入っていない後ろ蹴りだとしてもその威力は相当なモノのはずだ。

 更にその前にも何回も腹を狙って攻撃したのに動ける筈……。


「ぐっ……」


 顔面にモロにパンチを食らった俺は地面に倒れる。

 受け身を取ろうにも、脇腹が途轍もなく痛み、全身が硬直してそのまま地面に倒れてしまった。


「死ねぇええええええ!!」


 更に俺の脇腹を狙って蹴りを入れてくる浅村に舌打ちしながら腕で蹴りを受け、もう片方の手で浅村の脛を思いっ切り殴りつけた。


「痛ってぇぇぇぇぇぇええええ!?!? 巫山戯んなこの糞野郎!!」

「糞野郎はお前だよ……ッッ!!」

 

 此方に走ってくる浅村を見据え、俺は脇腹の痛みを歯を食いしばって我慢しながら拳を強く握って駆け出した。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇ暁月ィィィィィィ!!」

「いい加減にくたばれ、塵屑野郎ッッ!!」


 お互いの拳が交差し———。









「———勝負アリ、だな」


 終始無言だった勤はそう零すと……勝者の方へ駆け寄———。



「———快斗ッッ!!」



 絵里奈が勤を抜かして快斗の下へ駆け寄った。

 そんな絵里奈に……地面に倒れて気絶した玖月を見ていたボロボロの快斗は———。


「ははっ、ホントは余裕で勝つつもりだったんだけどな……ダッセぇ……」

「な、何でそんなになるまでやったの!! アンタ、ホント馬鹿!!」

「はははっ……いや……だってさ……」


 ———身体を支えてくれる絵里奈に、気の抜けた笑みを浮かべて言った。



「———これで多少は佐倉さんも楽になるだろ? やっぱ人生楽しまないと損だせ?」



 それだけ言うとふっと身体の力が抜け、絵里奈の身体にもたれ掛かるように気絶した。

 気絶した快斗を抱き締めた絵里奈は、自分でも感じられる程に顔を真っ赤にしながらも小さく零した。




「ほんとばか……でも、ありがと。凄く……カッコよかったよ……」




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