第9話 DQNと有名人の襲来

「———おい、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

「え? あ、浅村じゃん」

「浅村じゃんじゃねぇんだよ!!」


 案の定というか何というか……俺が無視したせいか、浅村が怒鳴り散らかして我が教室にやって来た。

 周りの生徒は絵里奈ちゃんも含めて驚いたように俺と浅村を見ている。

 ただ、先程何もないと絵里奈ちゃんには言ってしまっていたため、物凄く睨まれている気がする。

 怖いので見ていないけど。


 浅村は俺を見つけるや否や、ズンズンと俺の目の前にやって来る。

 すると驚いたことに、ぞろぞろと浅村の後ろから何人もの如何にも不良です、と公言しているような見た目の男たちがやって来るではないか。

 途端にざわざわとし始めるクラスメイト達。

 

 おっとっと……これは少しマズいんでねぇか?

 まぁ学校内なら俺が殴られたらアイツらが終わるだけなんだけど。


「何の用ですかね? 俺、これでも読書に忙しんで後数年後くらいに来てくれません?」

「おい、お前手紙見たよな?」

「手紙? 勿論見ましたよ。名前もないし時間も指定されてないから、悪戯かなって思ってゴミ箱に捨てたけど……それがどうかしました?」


 俺があっけらかんと言うと、浅村が俺の目の前で怒鳴る。


「巫山戯てんのかオイ!! あんま調子乗ってると痛い目見るぞ」

「クッハハハハ!! マジになってんじゃねぇか玖月! ダセェ!!」

「「「「ギャハハハハハ!!」」」」

「黙れお前ら!」

「あ、仲間割れなら他所でどうぞ。あんまり居座り続けると前沢先生来るよ?」

「———なあ……暁月っつったか?」


 浅村を押しのけて俺に肩を組んでくる……ごめん、名前の分からない無駄にガタイの良い男。

 ソイツはニヤニヤしながら俺の耳元で囁いた。


「あんなうるせぇ奴何だけどよお、一応ダチなんだわ。ちょっと面貸してくんねぇか?」

「いや、学校で面貸して何するんすか。あと……すいません、名前教えてもらってもいいですか?」


 俺が煽るつもりでそんなことを言うと……何故か俺に言ってきたガタイの良い男が爆笑し始めた。


「クッハッハハハハハハ!! おいおいオモロイ奴だなお前! 確かにそうだな、俺を知らねぇ奴は居ないと思ってたんだが……まあいい。俺は郷原勤ごうはらつとむだ。だっせぇ名前だろ?」

「おう、見た目に合わん名前だな」

「クッハハハハ!! お前ホントおもしれーな! おい玖月、お前コイツにホントにあんなことされたのか?」

「い、いや……それは……」


 郷原勤の問いかけに、何故か吃る浅村。

 

 ……ん?

 浅村の奴、何か嘘でもついてんのか?

 てか、この勤とか言う奴、俺でも聞いたことあるんですけど……通りで皆んなざわざわしてたのか。


 ———郷原勤。

 身長は裕に一八〇センチを超え、全身バッキバキのゴリマッチョで、意外とちゃんと学校に通い、それなりに成績も良い優等生である。

 ただ、見た目の通り親がヤクザの首領だからか本人もめちゃめちゃ強く、正直俺じゃあ三十秒も持たん。

 ただ、親がヤクザと言っても俺等の街では、色んなボランティアに参加するし、子供には優しいし、何か警察とも仲が良いとか言う、ただただ優しい強面のおっちゃん集団である。

 なら何処で稼いでんだと思われるが……郷原系列の店であったり、攻めてきたヤクザ集団との交戦で勝って大量にお金を貰ったりしているらしい。

 

 ……うん、ただの良い奴らで草。

 浅村なんかよりよっぽど良い奴らじゃん。

 まぁその息子が良い奴かなんて知らないが。

 何なら浅村とつるんでいる時点で警戒対象ではあるのだが。


 俺がこの郷原勤とかいう奴のことを思い出していると、郷原勤が再び話し掛けてきた。


「なぁ暁月、お前よぉ……玖月に何したんだ? やっぱどっちも訊かねぇとフェアじゃねぇだろ?」

「何をしたか……まぁ端的に言えば———」

「つ、勤! そろそろチャイム鳴るから戻ろうぜ!!」

「ン? あぁ……仕方ねぇな。前沢にバレたら親父がうるせぇからな……おい、暁月」


 俺の言葉を遮るようにして放たれた浅村の言葉に、ぞろぞろと皆んなが戻っていく中、郷原勤が此方を向いて言ってきた。


「———今日の放課後、ちょっと付き合ってくれや」


 それだけ言うと、郷原勤は大人しく教室から出ていった。

 学校の有名人が突然現れて何もせず帰っていった事に呆然としていたクラスメイト達だったが、チャイムが鳴ると共に急いで座り始めた。

 

「ふぅ……いや、あの郷原とかいう奴怖すぎなんだが……」


 俺は張り詰めていた緊張を解き、ぐでぇっと机にもたれ掛かる。

 その際、疲れを癒そうとチラッと絵里奈ちゃんを見ると……。



『———後で教えてもらうから』



 俺を鬼のように睨みながら口パクで言ってきた。

 どうやら俺が嘘をついたせいで大変お怒りの様である。

 

 ……なんて言い訳しようかな……?


 俺は次から次へとやって来る問題に頭を抱えた。

 

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