第5話 面接
「…………」
「…………」
俺は今、コスプレ喫茶の店内の従業員控室に居るのだが……非常に危機的状況に陥っている。
対面には此方を鋭く睨む絵里奈ちゃんが座っており、さながら尋問のような最悪な空気が漂っていた。
因みに何で俺が店内にいるかというと、絵里奈ちゃんからお誘い頂いたからです。
尋問への片道切符付きのお誘いにね。
勿論俺が絵里奈ちゃんのお誘いを断るわけないから、今こうなっているんだけど。
めっちゃ気まずいよぉぉぉぉ……。
そんな中、絵里奈ちゃんが俺の一挙手一投足も見逃さないとでも言う風に睨みながら口を開いた。
「……で、何で此処に居るわけ?」
「えっと……」
なんて答えようか。
流石に探偵の依頼料三〇万円を稼ぐために来たなんて言ったらもっと厄介なことになるだろうし……。
「……高いからです」
「は?」
「———時給が高かったからです! はい、それが全てです!」
決して嘘はいってない。
だって本当に時給が高かったから来たわけだし?
多分絵里奈ちゃんのバイト先知らなくても此処に辿り着いていただろうし?
俺を訝しげに見ていた絵里奈ちゃんだったが、少しして小さくため息を吐いた。
「……そう。なら店長呼んでくるから」
「え?」
あまりにあっさりと信じてくれたため、肩透かしを食らい思わず声が漏れた。
急いで口を塞いだ俺だったが……絵里奈ちゃんにはしっかりと聞こえていたらしく、眉をひそめて首を傾げている。
「何?」
「いや……そんなあっさり信じるんだなぁ、と……」
「は? もしかして嘘だったわけ?」
「いえ、断じて嘘ではありません! 神に誓ってもいい!!」
貴方という女神にね、カッ☆
…………キモすぎて草。
死んでしまえ俺。
「別に神に誓わなくてもいいから。イチイチ大袈裟過ぎ」
そう言って、おかしそうにフッと鼻で笑うと、控室から出ていった。
そんな絵里奈ちゃんも可愛いです。
俺は絵里奈ちゃんの新たな表情に見惚れてしまう。
そう言えば、最初に出会った時に猫に餌をあげていた時以来、始めて笑ってる所見たな。
まぁ学校ではあんな酷い仕打ちを受けているわけだし、笑えるわけ無いか。
絵里奈ちゃんにとってバイトは心休まる場所なのかも知れない。
果たしてそんな大事な場所に同じ学校……それも同じクラスの俺が務めても良いのか、と言う疑問が浮かぶ。
絵里奈ちゃんも学校のことは忘れたいはずだし……。
なんて結構真面目に考えていると、控室に絵里奈ちゃんと———頭ツルピカの三〇代前半くらいのムキムキな男性が入ってきた。
そのムキムキな男性が俺の座っている席の対面に座る。
「じゃ、私は仕事だから。後はウチのてんちょーと話して」
「あ、はい」
「ありがとう、絵里奈たん」
絵里奈たん!?
「絵里奈たんだってぇぇぇ!?」
「アンタもてんちょーも絵里奈たんだって呼ぶな!! 特にてんちょー、私毎回止めてって言ってんじゃん!」
近くに置いてあったチラシを丸めて『てんちょー』と呼ばれたツルピカ頭の男性を何度も殴る絵里奈ちゃん。
対するツルピカ頭の男性は、悪い悪い、とあまり反省していなさそうな態度で謝っていた。
「次言ったら蹴るから」
「分かったよ……ほら、仕事しておいで。私はこの男の子と話をするからね」
「……ちっ」
不機嫌オーラを出しながら舌打ちをして絵里奈ちゃんが更衣室に向うために部屋を出ていくと……。
「———よし、それじゃあ面接を始めようか」
「ぬるっと始めるの止めません? 今更キリッとした表情されても無駄ですからね!?」
一瞬にして表情を切り替えて面接を始めようとする店長さんにツッコむ。
おそらく人生で始めて初対面の年上の人にツッコんだかもしれない。
「君の名前は?」
「暁月快斗で———ってそのまま始めるんですか」
「そのまま始めるよ」
「……はい、暁月快斗です」
俺よりぶっ飛んでそうな店長さんの圧に負け、俺も気持ちを切り替える。
「ふむふむ、快斗くんね。コスプレ……は無理っぽいから警護要員の方かな」
え、殴っていいか?
この店長めっちゃナチュラルに俺の顔面が合格ライン外だって言ってくるじゃん。
自分で言うのと人に言われるのじゃ破壊力が違うんだが?
俺は眉をヒクヒクさせながらも何とか怒りを我慢して口を開く。
「そ、そうですね、警護要員を志望します」
「だと思ったよ」
「ぶっ飛ばしてやろうかこのツルッパゲ!?」
一瞬にして我慢の限界ラインを飛び越えてきた店長に思わず暴言を吐いてしまった。
しかし直ぐに『マズい』と思い、物凄く不服だが雇ってもらうために頭を下げる。
「す、すみません……言い過ぎました……」
俺は頭を下げながら無言で此方をじっと見てくる店長さんの様子を伺う。
無表情で此方を見ていた店長さんだったが———。
「———よし、採用。早速今日から働いてみよう!」
……………は?
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