第4話 バイト

「さて……何をしようか」


 宝物第一号が出来た日の放課後。

 俺は珍しく帰る足を止めて、呟いた。


 今の時間は一七時前。

 普段ならば速攻で家に帰り、勉強か撮り溜めているアニメを見る時間帯だ。

 その証拠に普段の俺の様に自転車を走らせて帰る生徒の姿を幾つも目撃している。


 しかし、俺には足を止めざるを得ない一つ問題があった。



「———金がねぇんだよ……!!」



 そう、俺には今お金がない。

 元々友達とカラオケに言ったために殆ど無い。

 それも家族に三〇万円と言う多額の借金をしているというおまけ付き。


「マズい……返済期限は三ヶ月。つまり一ヶ月で一〇万円。俺の全財産は……二五七円。え、無理ゲーすぎないか?」


 俺は財布の中身を確認しながら事の重大さを改めて理解した。


 アルバイトで一〇万を稼ぐには当たり前だが相当な時間が必要になる。

 ただ、学生の身である俺には月一〇万円稼げるほどの時間もなければそんな高額で雇ってくれる所も、おそらくない。


 俺はその場で頭を抱える。

 

「ん、なんか変な格好してる」

「やめな。きっと彼は窮地に立たされているんだ。そっとして上げなさい」

「でも、えーたも窮地」

「ぐふっ……」

「だ、大丈夫……!?」

「あ、ああ……」


 やばい、本気でどうしよ。

 絵里奈ちゃんが優先第一だし……かと言って親に借りたお金は返さないといけないし……。

 てか何か物凄くツッコミどころのある会話が聞こえてきた気がしたが……俺の幻聴か。


 とても気になる会話によって考えが切られた所で、俺は立ち上がり、解決策を述べた。


「———取り敢えず時給の良いバイトを探そう……!!」


 誰もが思い付く方法である。







「———どうしよ……」


 俺は一人、目の前の二階建てマンションを見てそう呟く。


 あれからスマホや徒歩でアルバイトの出来る場所を探していた。

 ただ、大体が時給九〇〇円程で、低い訳では無いが……一ヶ月で一〇万円を返すとなると足りない。

 そして探すこと二時間———遂に時給一五〇〇円と言う高額なバイトを見つけた。


 その場所は、学校から数キロ離れた駅前にあるとあるコスプレ喫茶であった。

 コスプレ喫茶と言う珍しいがある理由は……此処が駅前に近いだけでなく、この街がとあるアニメの聖地であるため、オタク達がこの地にやって来る。

 その時に寄ってくるのでこういった珍しい店もあるのだ。


 この店は女性だけでなく、男性もコスプレをして働くことが出来る。

 勿論顔が整っていると言うのが最低条件で、しっかりと接客が出来ないといけない。


 つまり、俺は顔面と言う一次審査で落第なわけだ。


 だがこの店は、時給二〇〇〇円で警護要員を雇っているのだ。

 何でも偶に物凄い客も来るようで、その時のために雇っているのだとか。


 俺の狙いはそれであり、自慢ではないが俺は長年格闘技をそれなりに収めてきたので務まるだろう。

 俺の力を発揮できて、更に高い時給と言う———正に最高のアルバイト先なのだ。


 しかし、そんな素晴らしい所にも問題があった。


「……絵里奈ちゃんが働くコスプレ喫茶だと……!?」


 そう、この最高のアルバイト先は、探偵に絵里奈ちゃんを調べていてもらっていた時に教えてもらった絵里奈ちゃんが働く店であった。

 しかも探偵さんが言うには、絵里奈ちゃんはファンまで出来るほど人気のある店員になっているらしい。

 いじめが始まってからも休んでいないとも言っていた。


 ……本当になんていい子なんだ……流石我が女神。

 いやいや、これじゃまるでストーカーじゃないか。

 流石にストーカーは性格最高の女神にも好かれんて。


 傍から見れば誰がどう見てもストーカーに映るという点が問題なのだ。

 ストーカーなんていう犯罪者になりたくないし、そんなことして絵里奈ちゃんとお近付きになりたいとも思わない。

 

 確かに俺は絵里奈ちゃんと付き合いたい。

 それに護るとも誓った。


「でも、流石にプライベートに侵入しすぎるのは……幾ら何でも駄目だよな」


 俺は小さくため息を吐きながらも諦める。


 俺が絵里奈ちゃんの負担になってしまっては元も子もない。

 まぁ今日早速負担になってしまった気がするが……まぁ呼び出しを防げたのでノーカンとしておこう。


「……仕方ない、こうなればまた別の所を探すしか無いかぁ……」


 ふふっ、後何時間掛かるかな……。

 もしかして今日だけじゃ見つからないかな?


 俺は軽く絶望感に苛まれながらも踵を返し———。



「———な、何でアンタが此処に……!?」

「…………詰みチェックメイト



 まさかもまさか。

 我が想い人であり女神の絵里奈ちゃんが、その美しい瞳を見開いて俺を見ていた。

 コスプレ喫茶の前に立ち、ブツブツと小さな声で呟く俺の姿を。


 更に……バッチリと目が合っていて言い逃れのできない状況である。


 俺の心の中が『詰んだ』で埋め尽くされた瞬間だった。

 

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