第173話 ローテング

それから、レッリンハウゼ州を東へと進んでいき、予定通り一日半、つまりは州境の町を出てから二日目の昼過ぎぐらいに目的としていたローテングに着いた。


ローテングの町は円形の町で、街の周りにはそれなりの城壁で囲われている。


町並みはザレに比べるとやや寂し目で小規模ではあるが、それなりに栄えている町ではあるようだ。町の入口で検問などは行われていないので、エルフリーデ達は自動車で、俺はミズーに乗ったまま町へ入ってそのまま進んでいく、やがてザレでも見かけた三角屋根の建屋の前で止まった。


「ここが、ローテングの教会です。どうぞ、中にお入りください」


促されて中へ入ると、ベンチが並んで設置されていて、奥に祭壇と大きな像があるのはザレの教会と同じだ。エルフリーデがどんどん奥へ進んでいくので、俺とミズーはそれに付いていく。


やがて左奥にある扉まで進み、そこを開けて中に入った。


扉の先は事務所のようなスペースになっていて、エルフリーデと同じような恰好をした女性や、神父らしき衣装を纏った男性が書類作業などを行っていた。ムキムキ筋肉のマッチョマンはいないし、もちろん腕立て伏せをしている人もいない。


書類作業をしている人たちの内の、一人の男性が入ってきた俺たちに気付くいてすぐに席から立ってこちらに礼をする。


「エルフリーデ司教様、よくお越しくださいました」


「ご苦労様です」


「フレンツェン司教がお待ちです。応接室までどうぞ」


そう言うと、男性が奥へ向かって歩いていく。それにエルフリーデと一緒についていった。


ここまでを見た感じ、どうやらここの教会は、ザレのように筋骨隆々の暑苦しい男はいないようだ。エルフリーデに聞いてみた。


「ここの教会では、ザレのようの体を鍛えたりはしていないようですね」


「ええ、レッリンハウゼの司教はそのような方針は取っておりませんからね。『人事天命』の取りようは司教によって多少異なります。それもあって、ここの本部は荒事が得意ではないので、今回の件でアーヘンの我々に助力を求めてきたのです」


「なるほど」


しばらく歩いて、やがて黒い扉の前で男が立ち止まった。ノックしてから声をかけた。


「フレンツェン司教、アーヘンのエルフリーデ司教がお越しになりました」


「お入りなさい」


中から男性の声が聞こえた、扉を開けて中に入るとソファのような一人掛けの椅子に腰かけている男性がいた。

俺たちが中に入ると立ち上がって出迎えてきた。神父のような服を纏った、白髪で六十代ぐらいの穏やかな表情の男性だ。


「ローテングまでご足労有難うございます、エルフリーデ司教」


「いえいえ、これも天神様のお導きです」


「そちらの男性と大川辺猫は、例の使徒様とそのお付きですか?」


「ええ」


「左様ですか。エルフリーデ様、使徒様、おかけください」


椅子を勧められたので、机の周りにある同じような一人掛けのソファにエルフリーデと俺は腰かけた。ミズーは俺の後ろでエジプト座りしている。一息ついて、エルフリーデが切り出した。


「それでフレンツェン司教、今の状況はいかがでしょうか?」


「州軍と密接に連携しながらクサーヴ教の調査を進めています。既に証拠は十分揃っていますので、あとは計画通り突入してクサーヴを討伐という感じですな」


「なるほど、それで決行は?」


「近く町の外のとある場所にて、大規模な集会をやる予定というのを掴んでおります。その集会の準備のために、明後日クサーヴ教の教会から教徒が大勢いなくなるようです。つまり、明後日の夜がクサーヴを誅する絶好の好機でしょう」


「突入は予定通り、私とトール様のみですか?」


「ええ、奴の『加護』に対抗しうる人材がおりませんゆえ。クサーヴ教の建屋の周りは州軍で囲って鼠一匹逃さぬようにする手はずになっております。しかし、本当にエルフリーデ司教と使徒様であれば『加護』に対抗しうるのですか?」


あれっ、上位の『加護』を持っていたら効かないって話をフレンツェン司教は知らないのか。機密情報なんだろうか?


「ええ、それは間違いなく。それで決行までについては?」


「最高級の宿を用意しております、そこで英気を養い、準備をしておいていただければと」


「承知しました、トール様もよろしいでしょうか?」


「分かりました」


立ち上がってドアの方に移動する際、ふとフレンツェン司教の方を見ると何か違和感がある。それが何かは分からないが、話をしている際にもそれをふと感じる事があった。


思案顔をしているのが分かったのか、ミズーが笑っている。こいつ何か知ってるのか?


ともかく、明後日が本番らしい。……予定通り、スムーズに行けば良いがな。

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