第174話 クサーヴ教侵入

ローテングに着いてから二日後の夜、いよいよクサーヴ教へ突入する日が来た。


それまでにローテングをミズーと見て回ったが、マーケットの品ぞろえはザレには及ばない感じだ。

クサーヴ教がヤバい宗教という事らしいが、町の活気はそれなりにあって今の時点でその影響があるようには見えなかった。


夜になってから、エルフリーデと共にクサーヴ教の本部があるという場所まで向かう。エルフリーデは特に武器や防具も装備せずいつもの服装をしている。


大通りを進んで行って、とある角で曲がり細く目立たない通用路のような所へエルフリーデが入っていった。そのまま進むと、黒い作業着のような服を着た人がいた。


「バルリング殿、エルフリーデです」


「お越しいただきありがとうございます、そちらが例の使徒様ですね。初めまして、今回の作戦の州軍責任者のフェルディナント・バルリングと申します」


「どうも、トール・ハーラーと申します」


「誰か出てきた人たちは?」


「奴の『加護』の餌食に遭わないよう、我々で教会を遠目に囲んで見張っておりましたが、昼過ぎに大勢出て行ってからは、出入りは無いようです」


俺の『薬師の加護』のように、『洗脳の加護』にも作用させる範囲があるらしい。


「承知しました」


「奴めの『洗脳の加護』に我々は対抗でき得ませんので、申し訳ありませんが突入はエルフリーデ様とそのお連れの方と大川辺猫?にお任せするしかありませぬ。どうぞ、よろしくお願いいたします」


そう言って、不思議そうにミズーをじっと見ている。実はその猫が最大戦力なんだ。


「分かりました、お任せください」


そう言うとエルフリーデが大通りの方へと戻り始めたので、俺もそれについていった。大通りをしばらく進むと正面にクサーヴ教の教会と思しき建物が現れた。

大きな『クサーヴ教本部』という看板が掲げられた四階建ての大きな建屋だ。特別な装飾などはない。正面には両開きの大きな扉がこしらえてある。


「ここですか」


俺が聞くと、エルフリーデが右手をグルグル回しながらそれに応える。


「ええ、トール様の準備はよろしいでしょうか? 良ければこのまま突入いたしますが?」


「問題ありません」


「分かりました、では入りましょう」


エルフリーデが扉に手をかけると、難なく内開きに扉が開いた。鍵がかけられていない? ……少しひっかかるな。


中に入ると大理石のようなツヤがある石で作られた立派な玄関で、明かりが灯っていて中は明るい。ところどころに高そうな絵画や彫像のような物が置かれている。

ここが宗教施設の本部だとすると、金満新興宗教感バリバリだ。ただ、人が全然いない。フレンツェン司教が言っていた通り、人がいないようだ。


「誰もいないようですね?」


「ええ、都合が良くはありますが」


エルフリーデと話をしていた時だった、奥の方からキャーッという大きな悲鳴が聞こえた。


「今の悲鳴は?」


「何かあったのかもしれません、慎重に進んでみましょう」


俺とエルフリーデとミズーが悲鳴がした方へ進んでいくと、奥の部屋には立派な絨毯が敷かれていて、一部分が捲れていた。その部分に地下へと続く階段があるようだ。

ここはどうやら地下室があるらしい。


「……いかにもって感じの階段がありますが、罠じゃないですかこれ?」


「その可能性はありますが、その場合は罠ごと打ち破るのみです」


うーん、パワー系シスターって感じ。いるのが敵だけなら、ここから俺の『薬師の加護』を使って地下室中にマテンニールをバラまけば済む話なんだが……。

そうとは限らないから流石にダメだろうな。


「トール様、ここは地下室へと参りましょう」


地下室へ続く階段を下りていくと、広い場所に出た。その場所には鉄格子がついた牢屋のような部屋がいくつか設置されている。

牢屋の中にはぐったりしきった最低限の服だけ纏った、若い女性が何人か横たわっているのが見える。どの女性も目に生気が無く、うつろな表情だ。


……どういう状況なのかはよく分からないが、あの女性たちはおそらく良い扱いは受けていないだろう。聞いていた通り、クサーヴはろくでもない奴で間違いなさそうだ。


「くっくっく……、正義の味方様がまんまとひっかかってくれたなァ」


部屋の奥から野太い声が聞こえ、大きな両手剣を装備した、身長が二メートル近くはあろうかという大男が現れた。

その横には、武装した人たちが十人以上はいるのが見える。


「ケケッ、挟み撃ちってやつだよ」


階段の方からも声が聞こえ、階段から同じく武装した人が十人ぐらい下りてきた。


「やっぱり罠じゃないですか」


「はははは、おめでたい連中だな。今日は人が出払って絶好の好機だとか言われてきたんだろ? 間抜けにも程がある」


そう言って、男たちはゲラゲラ笑う。その声にエルフリーデの目が細められる。


「……どういうことでしょう?」


「あ? そうだな、冥途の土産に教えてやるよ、お前んとこのフレンツェン司教はウチの頭に洗脳されちまってんだよ。それで、お前たちを誘導したって寸法さ」

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