第169話 指名依頼
「ホルアクティ様より、使者が来たら必ず引き受けるようにと私も言われております。それで、具体的にはどういう事をすればよろしいのですか?」
あんまり面倒じゃなさそうな感じだと助かるのだが。
「クサーヴ教の本部はザルツギッタン州の北東部にある町、ローテングにあります。現地までは我々でお送りいたしますが、本部へは私とトール様だけで乗り込むしかありません。そして本部に乗り込み、クサーヴを誅します。その後については、すでにザルツギッタン州軍と話がついておりますので、クサーヴ教の後処理はお任せいただいて大丈夫です。ああ、そちらの調整者様ももちろん一緒ですね」
やはり、州とは話がついているのか。しかし、親玉を倒すだけとは言え、二人と一頭だけでというのは少し心もとないな。いやまあ、ミズーがいたら余裕だろうけど。というかミズーの事も分かっているんだな。
「そんな少人数で大丈夫ですかね?」
そう言うと、エルフリーデがふふと笑った。
「これは御冗談を、天神様の使徒であるトール様がどの程度の実力を有しているかは分かっているつもりです。そちらの調整者様の実力も相当なものでしょう?
そこらの人間の百人や二百人程度敵ではないはずです」
まあ、実際そうだろうけど、二人と一頭って少し不安になる人数だな。
「もちろん、私も腕に覚えがありますよ。こう見えて、女ながらも拳法を修めております」
こう見えてというか、見たままと言うか。確かにめちゃくちゃ強そうではあるが……。
「良ければ私の実力をご覧になりませんか? 実際に当日どう動くのかも説明もしたいのでこれから当教会までお越しいただければ。ああ、薬屋の営業時間が終わってからでいかがでしょう? ご都合が悪ければ別の日にいたします」
「薬屋はすぐ閉めても良いですが、今日ですか?」
「ええ。今回の件、天神様からの御指示とは言え、天神様の使徒たるトール様にお手伝い頂いて何も報酬が無いというのは我らとして良くないと考えております。
ですので、総合ギルドにて指名依頼とさせていただけないかと。出来れば本日、教会に行く前に総合ギルドで契約させて頂きたいと思っております」
正直もうお金に困っているわけでも無いが、強制的にやらないといけないのは確実だし貰える物は貰っておく方が良いか。
「そういうことですか。分かりました、今から総合ギルドと教会へ伺いましょう」
「ありがとうございます、トール様」
店を閉め、二人と一頭で総合ギルドへ向かう。総合ギルドで、エルフリーデが総合ギルドの受付と何か話をして、契約書のような物を作成した。
「総合ギルドを通しての契約ですので、ご信用頂けますでしょう。こちらにご署名頂ければ、我々からの指名依頼を引き受けたことになります」
契約書を見ると、クサーヴ教の内部調査の補助という指名依頼になっている。達成条件は依頼主の判断による、となっている。
実際にはクサーヴ教の教主の殺害が達成条件だが、それは表立っては書けないからという事のようだ。
端から端までしっかりと目を通したが、内容としてはおかしい所もなく、小さい文字で変な特記事項のようなものが書かれていないようだ。最後に報酬欄を見てみると、金札一千枚(約一億円)となっている。こんな大金をポンと出せる辺り、ホルアクティが言っていた通り、啓示を上手く使って経済的には裕福なんだろうな。
「報酬は金札一千枚ですか。前金で金札五百枚、達成で金札五百枚」
「もしかして、足りなかったでしょうか? ご不満でしたらさらに増額いたしますが。どれぐらいをご希望ですか?」
少ないかと聞いたエルフリーデに、総合ギルドの女性職員が驚き、口を挟んできた。
「いやいや、四級薬師も兼任とは言え、六級害獣狩人にこんな破格の条件で指名依頼するなんて前代未聞ですよ!! この内容ならば普通はこの五十分の一、どんなに行っても二十分の一が精々です!! その上、完全成功報酬ではなく前金で金札五百枚も払うなんて!?」
「トール様は特別なのです」
当たり前だという顔をして、そう言ってのけるエルフリーデに、女性職員は呆れたような表情をしている。
「いや、これで十分ですよ。契約条件も特におかしいところはないようです」
「ありがとうございます、トール様」
署名してから握手をして、指名依頼を受諾した。総合ギルドの女性職員はずっと不思議そうな表情をしていたが。
総合ギルドで指名依頼を受諾してから、教会へ向かう途中でエルフリーデが話しかけてきた。
「トール様。さきほどの依頼ですが、前金と達成報酬で五百枚ずつとしましたが、前金で全部お渡ししても当方としては問題ありませんが、どうされますか?」
「いや、あの契約の通りで良いですよ」
「左様ですか。もし、後から報酬が足りないとか追加したい事があればいつでもおっしゃってくださいね。もちろん、依頼が終わってからでも対応いたしますよ」
ホルアクティに聞いてはいたが、俺への配慮がエゲつないな。
「こちらが我が教会です。ささ、お入りください」
教会は三角屋根の大きな民家のような感じで、天井が高い平屋になっている。奥側は庭?になっているのか、建屋がないスペースがあるように見える。
当然だが、十字架が屋根に取り付けられたりはしていない。
中に入ると、木製のベンチが整然と並べられ、奥には祭壇のような物がある。祭壇の奥、壁際にはおそらく天神様をかたどったであろう男神の像が置かれていた。
俺は行った事がないが、映像とかで見た事がある地球にもあるような教会に似た構造だ。ベンチには座って祈っている人がちらほらいた。
「さあ、あちらの扉です」
入って右奥にドアがあり、そこへ向かって教会内を歩く。そして、ドアまで着くとエルフリーデがドアを開けた。
ドアの先には、筋骨隆々の男たちが並んで腕立て伏せをしていた。
なんだこれは……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます